Novelber2019:05 トパーズ

数人の生徒だけがいる教室に、淡々と声が響いている。
第四学群はそもそも生徒の絶対数が少ないし、その中でさらに細分化された授業が行われる。表向きは大学職員、一方で隔週の非常勤講師――二足のわらじを履いている職員は見た目よりもずっと多い。
国直下の神秘・怪異対策院、民間のミスティックアベニュー、そして大学としての体を保つ紫筑。これら三つの組織は協力関係にあるようで、ない。紫筑大学下の神秘怪異データベース・ミスティアーカイブはほぼ全ての内容を公開しており、他二つからの情報提供を受け入れているが、そこに情報提供がある程度で、ほとんど協力関係は存在していない。紫筑もまた、いくつかの能力の存在を平然と隠しているし、ミスティックアベニューは民間の機関なだけあってフットワークが軽い。神秘・怪異対策院はもっぱら対一般の業務に忙しい(ここに神秘大宣言の大日向深景が所属しているため、紫筑とはプラスの関係にはあるが)。
紫筑大学の利点は、何より教育機関であるところだ。教育機関であるということは、いずれ卒業する彼らを職で困らせない。学内に留めてしまうことだってできる。

「――というわけで、黄玉の魔について説明を終わるけど、質問ある?なんか呼び出しされてるんだよね」
「……」
「……」

学内で職を与えられているということは、有事の際にまず真っ先に出撃候補として選ばれることも意味する。よくあることだ。故に第四学群の授業は不定期だ。
誰も何も言わなかった。そのうち、「じゃあ次回の日取りはまたメールで」と言い残し、講師が足早に教室を出る。まだ、あと三十分ほど残っていた。

「……大変そうだねえ」
「ねー」

わたし四学には残りたくないな、などとわいわいとはしゃぐ声の中、宮城野陽華は静かに荷物をまとめる。目立つ背中の翼も、四学にさえいれば“普通”になる。

(黄玉……トパーズ)

鉱石魔法学の授業だった。金が掛かるから実用性に欠けるとは言われるものの、その分リソースさえあれば安定した火力と発動率があり、一定数の使用者がいる。何より発現異能によらず、扱い方を学べば誰でも使用ができるため、リソースさえあれば大変優秀なのだ。しつこいようだが、リソースさえあれば大変優秀なのだ。……要するに使うたびに金が掛かる。破損率を下げる研究も当然ながら行われているが、そこまでの熟練に至るまでに金が掛かる。故に熟達者は少ない。
宮城野がこの授業を取ったのは、自分の力によらない安定した火力を真剣に求めてのことだった。金持ちの道楽、と揶揄されながら、日々学びを深めている。実際金に困ってはいないのだから、それでできることが増えるならいいじゃないか。

(火……あるいは、誠実さ……あなたは、私に力をくれる……?)

黒板消しで授業の内容を消していく。いつも最後に残るのは彼女で、だから自然と彼女が黒板消し係になっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?