【総論】予防と疫学の概念

皆様、こんにちは。そふぁーです。
今回は、予防という概念についてお話していこうと思います。一般論が基本となりますので、ほぼ出典はありません。

1.予防医学の概念

 まず、予防には3つの段階があります。
一次予防:疾病や事故の発現防止と健康増進
二次予防早期発見、早期治療による健康障害の伸展防止
三次予防:適切な治療と管理指導で、機能障害などの機能低下を防止し ADL , QOL の維持、向上、社会復帰を目指す
 
 IBD の場合、原因が不明の疾患ですので、一次予防は不可能です。基本的には二次、三次予防を主眼に捉えます。

2.健康を目指す社会の構築

 IBD 患者さんを取り巻く環境で問題となるのは、ヘルスプロモーションの地域差です。5つの活動分野がありますが【1】、IBDで重要となるのは
・健康を支援する環境
・地域活動の強化
・個人技術の開発
 の3点になります。例えば、北海道札幌市は指定難病患者が利用しやすい手帳を配布することで、特定疾患の管理表などを非常に見やすい形に改良しています。
 他にも、EAファーマのマイヒュミラ【2】など、家庭で利用できる技術の進歩は二次予防に寄与します。本来は、地域活動として各種専門家や IBD に関する啓蒙を行う事が理想です。特に学校教員、企業の管理職などが IBD に関する適切な知識を得ることは、IBD 患者の雇用促進にも繋がります。
 問題は、現在日本の法律では難病患者が障害者雇用促進法などの対象になっていないことだろうと思います。

3.よくある「疫学」ってなんだ?

 疫学というのは、特定の集団における健康に関する状況や事象の頻度や分布を調べ、それらが本当に関係するかを考える学問です。

疫学の始まり~Dr. John Snow の功績~
 19世紀、英国ではコレラの感染拡大が社会問題となっていました。コッホがコレラ菌を発見するのが 1884 年で、コレラが感染症であるという認識は無かったのです。
 ところがスノウは、コレラ患者の分布を地図上に書き示し、いずれも特定の井戸水周辺で起こっていることを突き止めました。1854 年、再度コレラが発生した際、汚染源と思われた水道を使用禁止にすることで、流行を防ぐことに成功します。
 つまり、原因が不明であっても、疫学的知見を用いれば対処が可能である事をスノウは示したことになり、疫学の父と呼ばれるまでになっています。

 では、この関係性は何から考えるのでしょうか。
 それは、以下の5つを考えます
1.関連の一致性 (consistency):複数の研究が、同様の結果を示す
2.関連の特異性 (specificity):特定の要因により疾患が起こる。
例) IBD 患者は水を飲むが、水を飲んだからIBD になるわけではない。=特異性が無い
3.関連の時間制 (temporality):要因が結果よりも先に存在する
4.関連の整合性 (coherence):疫学的事実が、自然科学的にも証明可能
5.関連の強固性 (strength):要因と疾病の間に、強い関連性がある(後述)

4.関連の強固性を示す指標

 久々に、この例え話で進めていきます。

 私のフォロワーさんは、現在1,000人程度です。私は早生まれなので、誕生日は過ぎていますが、仮にお誕生日パーティーをするとしましょう。
 皆さんを招待した結果、100 名の方がいらっしゃいました。ありがとうございます。
 ところが、参列した皆さんが次々に倒れていきます。その原因やリスクを疫学的に解きましょう。
当日起こったこと)
        卒倒した人 していない人
私がキス      49     1
キスしてない    10     40

 まず、私がキスしたことが危険な行為であったかどうかを、相対危険度 (relative risk : RR) から見てみましょう。これは

曝露群の発生割合/被曝露群の発生割合

 で計算できます。つまり、(49/50)/(10/50)=4.9
 つまり、私がキスすることで、卒倒する人が約5倍にも跳ね上がります。他にも寄与危険度などで評価する事も出来ますが、悲しくなるので止めておきます。

5.卒倒しない一人は無視するの?

 先程の例で、私がキスしても卒倒しない人が一人いました。
 これは、実験などでもよくあるのですが、統計的に”外れ値”というのはあります。今回の場合、そこにバイアスがあったかどうか、調べます。
 実際にあるバイアスは、集団を集めるときに起こる選択バイアス、データ収集の際に起こる情報バイアス、解析の際に起こる交絡バイアスがあります。
 今回、卒倒しなかった一人は明らかに選択バイアスというか、選んじゃいけない人…つまり、私の”配偶者”です。流石に数十年連れ添った相手のキスで卒倒はしないでしょう。

6.実際にどうやって使うの?

 では、これら予防の考え方は IBD に使われているのでしょうか。
 答えは YES です。
 例えば、IBD合併大腸癌。これは早期発見により、予後が改善する事が報告されています【3】。つまり、2次予防です。また、出されたお薬をきちんと飲むことで、寛解維持が長く続く事も分かっています【4】。やはり、2次予防です。
 では、3次予防はあるかというと、外科術は IBD の場合、3次予防に該当します。このように、予防という概念は非常に身近なものです。
 これを機会に、すこしご興味を持って頂けましたら幸甚です。

【1】 厚生労働省. 健康日本21
【2】https://www.myhumira.jp/AbCustomSiteLogin?ec=302&startURL=%2Fs%2F
【3】Hata K et al. Am J Gastroenterol. 2019
【4】Shah SC et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2016.

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