【論文紹介】最近の炎症性腸疾患研究4

皆様お久しぶりです。

1.論文

タイトル:Identification of an Anti-Integrin αvβ6 Autoantibody in Patients With Ulcerative Colitis.
著者・雑誌名:Berinstein JA, Sheehan JL, Dias M, Berinstein EM, Steiner CA, Johnson LA, Regal RE, Allen JI, Cushing KC, Stidham RW, Bishu S, Kinnucan JAR, Cohen-Mekelburg SA, Waljee AK, Higgins PDR.
Clin Gastroenterol Hepatol. 2021 May 25. PMID: 34048936

2.概要

背景:急性重症潰瘍性大腸炎(ASUC)では、内科的治療を行っても 30%以上の患者が結腸摘出を必要とする。トファシチニブによる ASUC の結腸切除を予防する新たな手段となる可能性がある。
方法:ステロイドの静注が必要なASUCで入院した生物学的製剤の使用経験を有する患者を対象に、トファシチニブ導入の有効性を評価するレトロスペクティブケースコントロール研究を行った。トファシチニブ使用患者と対照群を、性別と入院日で1対3にマッチさせた。重症度で調整した Cox 回帰分析を用いて、90 日間の結腸摘出術のリスクを推定した。合併症の発生率とステロイド依存症の発生率を副次的なアウトカムとして検討した。
結果:トファシチニブの投与を受けた患者と対照群(total n =113)を1対3でマッチさせた。トファシチニブは、対照群と比較して、90日後の結腸切除を予防した(ハザード比[HR]、0.28、95%信頼区間[CI]、0.10-0.81、P = 0.018)。投与量で層別化すると、10 mg 1日3回投与(HR, 0.11; 95% CI, 0.02-0.56; P = 0.008)では有意な効果を示したが、10 mg 1日2回投与は有意差が無かった(HR, 0.66; 95% CI, 0.21-2.09; P = 0.5)。合併症の発生率とステロイド依存性は、トファシチニブと対照群で同等であった。
結論:トファシチニブと副腎皮質ステロイドの静注を併用することは、ASUCで入院した生物学的製剤の使用経験を有する患者に有効である可能性がある。

3.本論文を読んだ感想

まず、ASUC に対する治療選択肢は強力な炎症抑制が必要であり、タイミングも含めて判断が難しいと言われています。そこにトファシチニブが有効であることが示されました。結腸切除は、不可逆的(戻れない)な治療であるため回避できるのであれば回避できたほうが良いというのが一般的です。従って、それを回避できる見込みがある選択肢は多いほうが良い。
当然、トファシチニブが絶対的に有効であるという話ではありませんし、免疫抑制による副作用もあります。しかし、結腸切除の回避というのはそのリスクと比較しても十分なメリットであるという事は併記します。

4.雑感

 現在、色々な社会情勢から私自身色々と忙しくなっています。ワクチン接種のお手伝いもしておりますので、色々思うところも多いです。
 しかし、先ず第一とせねばならないのは人々の公衆衛生を守るということで、与えられた環境で最大限の仕事をしていくしかありません。それを変えていくには、医療行政について各位が十分に熟慮していく必要があります。
 日本は、こうした専門家による行政や専門家を上手く使う行政というものに対する関心が低いと感じています。世間で流れるテレビなどは、下馬評のようなくだらないものが大半で、正しく現在の医療行政について意見を述べているものは皆無とすら言えるのではないでしょうか。
 ぜひ、皆様には正しい知識と正しい判断を心掛けて頂きたいと思います。デマや煽動に惑わされることなく、皆さんの最大限の幸福を追求して頂きたいと思います。

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