【総論】炎症性腸疾患とは何か~2~

に続き、IBD に関する総論をもう少し加えていこうと思います。

5.UC 合併大腸癌

 UC は、内科的治療の進歩により長期罹患患者の割合が増加している。実際、特定疾患受給者証を有する患者の年齢構成を確認した場合、好発年齢である若年者に比べ、壮年-高齢者の割合が多い。
 UC 合併大腸癌の報告は 1925 年まで遡ることが可能であるが、サーベイランスの提唱は 1967 年である【1】。本邦では 1988 年に研究班からサーベイランスの推奨がなされ【2】、ECCO のガイドラインでは発症後6-8年、我が国では7年以上の患者ではサーベイランスを行う事が推奨されている。
 IEE (image enhanced endoscopy) など昨今の画像処理技術の進歩は、散発性大腸癌の拾い上げや深達度診断の向上に大きく寄与している。詳細は、以前投稿した記事をご参照頂きたい。

6.サイトメガロウイルス感染症

 サイトメガロウイルス (cytomegalovirus : CMV) は多くの方が幼少期から感染し、生涯に渡り潜伏感染する(=当然、IBDの原因ではありません。健常者の多くが既感染です)。多くの場合、無症状で経過するが、化学療法や臓器移植に伴う免疫抑制により再活性化する。
 CMV の検査法として
・血清学的検査 (抗 CMV-IgM or IgG 検出法):急性期と回復期のペア血清を採取する。本検査は再活性化リスクを有する症例のスクリーニングに有効だが、活動性の評価は出来ない(基本的に抗体検査は活動性の評価に使えません)。
・CMV antigenemia 法:CMV に特異的な pp65 というタンパクを検出する抗原抗体反応を利用した検査法。感度、特異度が高く、陽性細胞数を定量的に評価できることから活動性モニタリングに用いられる。ただし、腸管組織での CMV 感染は正確に反映しない。
・免疫染色法:採取した組織を免疫染色する方法。CMV 感染判断の gold standard だが、感度が低いことや採取する検体数の問題が指摘されている【3】。
・PCR 法:幅広い検体で使用可能であるが、腸管の場合、検体の採取が不十分になりやすいことや保険適用外かつ検査可能施設が限られるなど、IBD での実施は課題が残る。
 これらの治療として、抗ウイルス薬を使用するかは、議論が残る。CMV が陽性であっても、IBD の症状をコントロールした場合、陰性化することが多いため、まず IBD の治療を行うべきである。ステロイド抵抗例+CMV感染を合併する場合は抗ウイルス療法が予後を改善する事が指摘され、ECCO のガイドラインでも推奨されている(免疫抑制療法施行中に腸管粘膜で CMV 感染が検出されたステロイド抵抗性の重症 UC のみ推奨)【4】。


参考文献

【1】Crohn B.B. et al. Am. J. Med. Sci. 1925
【2】井上幹夫. 1989
【3】Jones A. et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2015
【4】Shukla T. et al. Inflamm Bowel Dis. 2015

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?