潰瘍性大腸炎を生きる

こんばんは、そふぁーです。
今回は少し年齢が上の方向けに上梓しようと思います。平易な言葉を減らし、突っ込んだ表現も増えますが、ご容赦ください。

1.潰瘍性大腸炎の基本

 最近は IBD 患者数が増えていることが一般消化器内科医のみならず、他分野の医療従事者にも広く知られています。そのため、例外的事例も共有されることとなり、何でもかんでも IBD を疑うことも増えてしまいました。
 そこで、一度潰瘍性大腸炎(UC)の基本に立ち戻りましょう。

「主として粘膜を侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成する原因不明の大腸のびまん性非特異性炎症」

 です。最近では安易に右側限局と診断するケースも増えているようですが、潰瘍性大腸炎と感染性腸炎を鑑別しているのかという基本中の基本が守られていないケースも目立つようになってきました。

2.感染と鑑別する重要性

 潰瘍性大腸炎の鑑別診断では、基本的に感染性腸炎を除外する必要があります。というのも、潰瘍性大腸炎の治療と感染性腸炎の治療は逆行するからです。
 例えば、腸結核。
 近年、肺結核から続発する腸結核よりも、腸管を初感染巣とする原発性腸結核が増加傾向にあります。クローン病(CD)と鑑別が困難であることもあり、IBD の診断では注意が必要な感染性腸炎の1つです。
 次に、赤痢アメーバやカンピロ(キャンピロ)、クロストリジウム・ディフィシル感染なども候補として挙げられます。そのため、IBD のみならず感染症にも造詣の深い医師は初期治療にメトロニダゾール(MNZ:フラジール)やバンコマイシン(VCM)を利用する場合もあるでしょう。
 基本的には便培養を行い、感染を否定することから始めなければなりません。
 内視鏡像は、IBD において必ずしも典型的な所見を呈すとは限りません。様々な手法(FICE, BLI, LCI など光学的な部分やインジゴ, ルゴールなどによる色素散布)でかなりの鑑別は可能ですが、慎重にという枕詞は付くでしょう。理由としては、腸結核に TNFa 抗体製剤を使用すれば悪化することが目に見えていますし、他の疾患にステロイドを使えば感染は悪化します。ところが、それを IBD と誤認していれば治療抵抗性と判断し、選択を誤りかねないからです。
 まずは感染ではないという証拠を集める。これが大原則となります。
 それには時間がかかりますが、絶対的な鑑別方法が確立していない以上、やむを得ぬとお考え下さい。

3.直腸

 大腸の基本的な役割は水分の吸収による便の有形化です。UC では未治療において直腸病変があることが基本となります。そして、多くの割合が直腸限局であるため、実は必ずしも下痢を呈しません
 というのも、直腸の役割は便を留めておくことにあり、水の吸収は下降結腸まででかなり終わるからです。
 では、患者としてはどのような点に気を付けるか。
 第一に体調が良くなったというのは
・下痢が無い
・排便時に粘液、粘血がない
・ガスと排便の区別がつく

 の3点が分かりやすいかと思います。これらがあって初めて、臨床的寛解と言えます。しかし、内視鏡ではずるずると炎症が遷延している事も考えられ、その時に使うのが局所製剤です。

4.局所製剤

 局所製剤はペンタサ注腸、ペンタサ坐剤、ステロネマ、プレドネマ、リンデロン坐剤、レクタブルなどがあります。要はおしりから注入するタイプのお薬です。
 実は直腸病変に対しては内服の力は大してありません。そこで直接大腸にお薬を塗ってしまえというのが、局所製剤の基本方針です。
 実際問題、局所製剤の効果は高く(Dignass A et al. J Crohns Colitis. 2012.) 副作用は内服と併用しても 5-ASA の場合は増加しません( Ford AC et al. Am J Gastroenterol. 2012.) 。ただ、局所製剤は使用遵守率が極めて悪く、効果無しと判断した例の中に適正に使用しなかった人がかなり多いのではないかとも私は感じています。現実問題として私も朝注腸を行ってから仕事が出来るかといえば不可能で、週末に使用する治療法などで妥協してもらっています( Yokoyama H et al. Inflamm Bowel Dis. 2007.) 。ライフスタイルに合わせた使用で寛解維持に成功すれば、それだけ発がんリスクが低下し、将来の手術率も減ります。そこまで考えたうえで、注腸が本当に嫌かを判断すべきではないでしょうか。

5.苦しまない最期を目指して

 IBD の予後は、最近健常者と変わらぬほどになってきました。
 しかし、IBD治療は”炎症を抑える事”にあるため、治療の継続は必須となります。ここで問題となるのが
・認知症
・COPD
・生活習慣病

 の3点であると言えます。というのも、認知症患者さんの場合、内服薬を飲むことが難しく、点滴治療も自分で抜針してしまうことが多いからです。次に COPD ですが、続発的に感染性の肺炎を起こしやすく、その場合バイオ製剤やステロイドが使用できなくなります。最後の生活習慣病は、ステロイドが難しくなり、治療に難渋することが増えます。
 これらに共通するのは、禁煙、バランスの良い生活、正しい生活リズムの3点を目指すという点です。最後の最期で UC に苦しみながら…というのはあまり良い未来ではないと思います。皆様、今から未来への投資を考えてみてはいかがでしょうか。

6.最後に

 今行うべきは、治療の目標をしっかりと考えることです。
 粘膜治癒や組織学的寛解というのは、理論上正しいですがイメージがつかみにくいと思います。
 例えば現在活動期の方は、下痢の回数が減ることを目標⇒下痢を無くす⇒血便を無くす⇒血液学を正常にする(Hbやバイオマーカー)⇒内視鏡で血管透過性を回復させる⇒それを維持する
 このようにステップアップしていくことが大切だろうと思います。その中で、調子が良い時は受診間隔を伸ばしたり、地域の消化器内科医と連携することで専門病院の長い待合を避け、治療の継続をストレス少なく現実的にしていくことが重要となるのではないでしょうか。


 

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