【総論】IBDの免疫学-免疫学を学ぶ前に知ってほしいこと- 0時限目

おはようございます、そふぁーです。
今回は、少し免疫学に関するお話をしていきたいと思います。あくまでも教科書的なお話を幹にしますので、通常よりも引用文献は減らします。可能な限り平易な言葉で書きます。

1.はじめに

 免疫とは、簡単にいうと
・常に身体をパトロールして外敵と闘う:自然免疫
・特定の敵と戦う事に特化:獲得免疫
に分類されることが多いです。
 しかし、この分け方は本来不自然で、両者は相補的な役割を果たしています。元々私も両者を分けて教えることが多かったのですが、Essential Immunology という免疫学を学ぶ上で避けることのできない金字塔(書籍)の基本に立ち返り可能な限り平易にしつつ、Roitt 先生らが大切にしてきた免疫を俯瞰した考え方を少しでもお伝えできればと思います。

2.免疫学の仕組み

 免疫学の基本的な考え方は『抗原(敵と認識したモノ)』に対して、身体はどうやって排除していくのかを理解することにあります。しかし、生物の基本は恒常性(ホメオスタシス)にあり、攻撃するだけのシステムというのは存在し得ません。従って免疫には、必ず排除する側抑える側という2つの側面があるという事を押さえていく必要があります。
 しかし、免疫学では複雑で難解な言葉が多数出現してきます。その端的な例が『特異性』でしょう。要は相手に特化して反応できる仕組みの総称なのですが、免疫学において、異物の認識方法(クローン選択説)から、自分自身を排除しないようにする免疫寛容まで幅広く用いられる概念です。こうした言葉を都度説明していきますが、分からない点はいつでも質問してください

3.例から学ぶ免疫

 では、感染症を例に免疫の仕組みを少し追っていきましょう。
➀ 病原微生物の侵入
 自然界には多種多様な病原微生物が存在しています。我々の体は多数の微生物によって守られていますが、それでも敵は侵入してきます。
 最初に出会うのは、身体を隅々まで警戒している貪食細胞と呼ばれる一群です。彼らは病原微生物やその一部を食べ、解析し、敵に固有のパターンを味方の細胞(T細胞など)に知らせます。
➁ 食べる細胞は1つじゃない
 貪食細胞というと、マクロファージを思い浮かべる人も多いかと思います。アニメーションのそれは、美麗な女性が巨大な鉈を振るうというコメディータッチなものでしたが実際には樹状細胞など貪食できる細胞は複数あります。
③ 断片すら見逃さない
 病原微生物に固有のパターンは、B細胞も周到な準備の上で待ち構えています。ヒトは数百万種類の敵パターンを想定し、細胞表面に認識する特殊な腕を生やしています。敵パターンを察知した1種類のB細胞は丹念に断片を整理して、解析終了の合図を細胞表面に出します。これを見たヘルパーT細胞は活性化され、お礼とばかりにB細胞も活性化するのです。これによって作り出されるのが抗体であり、この抗体を軸とした免疫システムを体液性免疫と呼びます。
④ 二度目に敵と戦うのは特殊部隊
 初めての敵と会合したとき、ヒトの身体は汎用性の高い武器で戦うしか方法がありません。しかし、二度目に出会うときは特殊兵器である『抗体』を持ち、迅速に敵を察知し、強力に免疫細胞を誘導することで速やかに排除されます。

4.免疫に関わる細胞は何から作られるのか

 では、こうした免疫を司る細胞には、どんな種類があるのか。
 まず、造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HPSC)という全ての血液細胞を産生する細胞が総本山です。そこから多能性前駆細胞(multipotent progenitor:MPP)を経てリンパ系前駆細胞(lymphoido-primed MPP:LMPP)となりますが、実際は名前と異なり、LMPPからリンパ球性共通前駆細胞(common lymphoid progenitor:CLM)と顆粒球マクロファージ前駆細胞(common myeloid progenitor:CMP)に分化すると言われています。
 ぐちゃぐちゃしてきましたが、要は我々は身体の中で万能な細胞を母親とし、特殊な力を持った子供たちを段階的に作り続けているという事です。
 CLP からは胸腺で T 細胞、骨髄で B 細胞、NK 細胞、自然リンパ球。GMPからは骨髄で樹状細胞、単球、肥満細胞(以上は前駆体で末梢で分化するが割愛)、好酸球、好中球、好塩基球(以上3つが顆粒球)。と分化します。

5.攻撃だけではない免疫の奥深さ

 最近は Treg(regulatory T cell) が有名になったため、免疫には炎症を抑制する側面があることも知られていると個人的には感じていました。しかし実態は、Treg を免疫細胞というより、炎症を抑える別の細胞という捉え方をしている学生も少なくないことに驚きを禁じ得ません。
 先述の通り、免疫の基本は異物の排除ですが異物排除のみのシステムは、致死的な結果を迎えます。どのような生体反応にもブレーキとなるシステムがあるのです。端的な例は体温で、暑ければ発汗などで体温を下げ、寒ければシバリングなど様々な反応を通じて体温を維持しようとします。
 Treg も非常に誤解されやすい分野で、大腸ばかりが注目されますが自己抗原に特異的な胸腺の tTreg(thymus-derived Treg)と、末梢組織で分化し自己抗原あるいは外来抗原に対応可能な pTreg(peripherally derived Treg)、さらに in vitro で誘導された iTreg(in vitro-induced Treg)に分かれます。注目される論文が iTreg である事も多く、必ずしも生体反応とリンクしない事を理解する必要があります。

6.人体は「複合企業」

 ヒトの身体というのは、複数の機能が存在します。それらの関係を理解するには、「概要」として捉える大きな視野が必要になります。
 免疫系は、外来の異物を排除し、体内に発生する異常を排除し、内に外に自分を守るため働き続けています。
 食物や空気が物質を補充し、消化管や肺や適切な形に処理、血管が道路となって運搬する細胞群が前線に補給物資を運びます。
 当然、ごみ収集も併行し、インフラ整備も欠かせません。
 それぞれには「余裕」が存在し、緊急事態に対応できるように作られています。
 これらは、ヒトの営みも非常に近似したものがあります。
 そして、人体はエラーも起きますし、修復するシステムも完全ではなく、度々病魔となって我々を襲います。医療は、このエラーを外から適正に処理するお手伝いをする分野で、その働きを理解するためには、人体という「複合企業」を正しく理解しなければなりません

7.さいごに

 皆様、お読みになって如何だったでしょうか。
 難解な生理学、免疫学、生物学、細胞生物学、分子生物学、生化学なども難しいと感じるか、自分が経験してきたものを介して概要として正しく理解するか、各位の選択に委ねられています。
 学校の勉強というのは「活かせない事」が問題です。私が思うに
・情報を覚える
・情報の法則性を考え、関連性を持たせて整理する
・関連性のある情報を基に、現実を処理する
・現実処理における問題点を発見する
・問題点を解決する手法を思いつく
・解決法を正しく検証する
・検証結果を正しく現実に適応させる
 上記を適切に行うためには、勉強が必要です。それは実地経験から学ぶこともありますが、その情報を正しく整理するためには、正しい知識が必要になります。
 そして、それを適正に扱う事が知恵であり、その積み重ねが叡智です。

 日々食べている食事も、叡智の結晶です。紀元前から行われた農耕、酪農の結晶が食材であり、科学技術の進歩が火と水の制御であり、安全に楽をする事を考え抜いた結果が食器です。
 しかし、それは調理者という実践家が居なければ手元に届きません。
 いずれが欠けても、貴方が食べるものは完成しません。

 ぜひ、全ての事柄に深い敬意を持って頂ければと思います。

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