【論文紹介】IBD論文を読もう 5/8

 皆さん、こんばんは。
 今回ご紹介する論文は「食事」に関する調査研究です。
 前回の論文紹介は、少し適当だったので、もう少し読みやすくいこうと思います。

Habitual Dietary Intake of IBD Patients Differs From Population Controls: A Case-Control Study 
Peters V. et al. Eur J Nutr . 2020

1.概要

 現在、IBD に関する食事療法というのはエビデンスが非常に不足しています。理由はいくつもありますが、方法論的に食事療法の検討が難しい事や文化的背景、さらには解釈が難しいなど様々な要因があります。
 本研究で筆者らは、寛解中の患者と活動期の患者に分け、食事の内容を「成分」と「食品の種類」に特に注目しています。

2.方法

対象者:患者493名(UC207名,CD286名),対照者1291名(健常者)
方 法:食事頻度に関する調査票

3.結果

寛解期、活動期の患者共にタンパク摂取量が足りていない
⇒欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)の推奨摂取量は 1.2-1.5 g/kg/日(例:50kg の人の場合、一日当たり 60-75.5 g のタンパク質摂取が推奨される)です。しかし、IBD 患者の場合は 9 割程度の方が推奨量に届いていませんでした。ただし、タンパク源が赤身肉等に偏ると再燃リスクとなるため、十分な栄養指導が必要です(ささみや卵などをバランスよく取り入れることが良いと言われています。詳細は Q&A を見てください)。
推奨されない食品の摂取が多い
⇒推奨されない食品群のうち『お惣菜(購入品*海外は高脂質のため)、アルコール』の摂取量は少なかった一方で、『肉類(特に加工品)、砂糖の多い菓子類』の摂取量は多い結果となりました。ただし、ジャガイモやスープなどお腹にやさしい食事は多い傾向だったため、ガイドラインの分かりにくいさと栄養指導の不足が考えられます。
タンパク質の摂取源に偏り
⇒IBD 患者のタンパク質摂取は、肉や魚が多く、乳製品や卵が少ないと言われ、このアンバランスは IBD 増悪リスクである可能性が指摘されています【1】。本論文でも、同様の傾向が指摘され、タンパク源をバランス良く是正する事が必要であると指摘しています。
アルコール摂取が少ないのは良い事
⇒アルコールの摂取は IBD 再燃リスクを 3 倍程度の上昇させます【2】。私自身、お付き合いで多少は飲みますが、ほぼ飲酒しません。
アルコール飲料ではないからジュースは良いというのは間違い
⇒例えば『コーラ』は UC 再燃リスクを 1.6 倍、CD 再燃リスクを 2.2 倍にすることが報告されています【3】。ただし、非常に古い報告であることや、コーラではなく炭酸飲料がリスク因子である可能性が考えられるため、あくまでもご褒美程度に留めておくのが良いのではないかと私は考えています。

4.最後に

 最近、IBD の食事療法に関する研究は大きく進歩しています。例えば、海外の研究では乳製品の摂取は再燃リスクとならないことが示唆されました【4】。ただし、これが日本人にも適用されるかは疑問点が残ります。
 本研究で最も重要なことは
多くの患者さんが行っている食事制限は間違えている可能性が高い
 という点だろうと思います。私自身、自分が専門家ではないため、食事については定期的に栄養士さんのアドバイスを受けています。IBD に精通した栄養士さんは多くありません。従って、公的な情報をしっかりとチェックし、過度の制限や情報源として不審なものを信用しないことが重要です。
 疑問がある場合は、都度担当医と相談するのが良いと思います。

参考文献

【1】Jantchou P. et al. Am J Gastroenterol. 2010
【2】Jowett SL. et al. Gut. 2004
【3】Russel MG. et al. Eur J Gastroenterol Hepatol. 1998
【4】Tasson L. et al. Dig Dis Sci. 2017

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