チョイスを見て~潰瘍性大腸炎~

こんばんはそふぁーです。
今回は NHK のテレビ番組「チョイス」の炎症性腸疾患特集を見た感想と補完をしていきたいと思います。分けて書いていきます。

☑ 賛否両論ある番組と予測
☑ 潰瘍性大腸炎の扱いはやや極端

まず、潰瘍性大腸炎の定義やその他諸々は指定難病の HP をご覧ください。
⇒ 潰瘍性大腸炎(指定難病97)
今回の note は明らかにネタバレを含みますので、まだ見ていない方はその点ご注意ください。

番組は以下の症例から始まります。内容は多少前後しつつ書きます。

★症例報告1

20代女性
頻回の下痢を自覚するも、仕事等が多忙であり放置。その後下血があったことから不安になり受診。内視鏡の結果、大腸全体にびまん性の炎症を確認し、潰瘍性大腸炎(UC)と診断される。
5-ASA による寛解導入に成功、2年程度寛解維持。
寛解維持中に服薬コンプライアンス低下、再燃したため再度来院。

 5-ASA で寛解導入しているのは、定石通りで良いと思います。特に軽症から中程度症の UC では 5-ASA の量が多い方が効くという事(用量依存的)が分かっています(Schroeder et al. NEJM. 1987) 。
 また寛解維持に服薬順守が必要なことも指摘として非常に適切です(Kane et al. Am J Med. 2003)。

★受診のタイミング

□ 粘液便、血便
□ 下痢
□ 腹痛
以上が一週間以上続くなら受診。市販薬だけでコントロールしない。

 と述べています。基本的には正しいですが、血便が出たら一週間様子見しなくても受診すべきと私は考えます。

★ IBD の原因について
 これは、正直色々言いたいことだらけの番組構成でしたが

☑ 遺伝因子
☑ 腸内細菌
☑ 環境因子
☑ 粘膜免疫

 が原則ではないかと。番組時間と分かりやすさの問題でやむを得なかったのだと思いますが、まず遺伝因子(Jostins et al. Nature. 2012)、腸内細菌叢(Somineni et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2019)、環境因子(Ananthakrishnan AN. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2015)、粘膜免疫(Neurath MF. Nat Rev Immunol. 2014)などが報告されています。

★妊娠と IBD について
 すでにステロイド(Hviid A et al. CMAJ. 2011)やチオプリン(Hutson et al. J Obstet Gynaecol. 2013)などが報告され、基本的には安全に使用できるお薬が多いというのは正しいと感じます。

★ストレスとの関連性
 病因が複合的、人によって異なるというのは私も同意見ですが、ストレスとの関連性は必ずしもエビデンスが多数出てるとは言い難いと感じます(Leone et al. Curr Drug Targets. 2014)。

★食事との関連性
 食事の影響というのは非常に解析が難しい分野です。今までにいくつかの論文は出ていますが、水溶性食物繊維は良いものの不溶性食物繊維は狭窄なども考えると危険と思います。
 重症以上の状態では絶食、中心静脈栄養が行われますが、その目的は腸管合併症の予防や脱水の改善とされ腸管の安静に直接的な導入効果は無いと言われています。

★症例報告2

60代男性
20代後半で UC 発症するが軽症で寛解維持。50代で再燃し、大量下血。
ステロイド等の治療が奏功せず、大腸全摘術を進められるが、サイトメガロウイルス感染症の治療を行い内科的治療が奏功。現在も寛解維持。

 俗にいう若年発症高齢化 IBD です。国内で高齢者 IBD の権威は某(防?)埼玉の方で3年ほど前に北海道で大雪の中ご講演頂いたのを覚えています。
 この症例では血球除去療法を行っています。セルソーバ(L-CAP)、アダカラム(GAM, G-CAP)です。昨年の話ですが、この血球除去療法の位置づけが、ステロイドやチオプリンと同列程度、つまり 5-ASA で寛解導入できなければ比較的早めに使用するべきという判断に至ったようです。ガイドに記載されているので各自で入手して確認してください。

★適切という表現について
 実は私がこの番組で一番気に入らなかったのは『適切』という表現の是非です。どんな疾患でもそうですが、適切な治療というのは非常にあいまいな表現であり、必ず効く治療も無ければ、必ず副作用が起きるというわけでもありません。
 従って患者さんに適した治療に巡り合うまでには、どんな熟達した専門医あっても時間を要することがあります。
 公共放送で発言するのであれば

『患者さんによって効くお薬は違います。信頼できる専門医とじっくり治療していくことが肝要です』

 くらいが適切な表現だったのではないでしょうか。

★その他
・内視鏡画像
 やや活動性高めの印象でした。青い色素をかけた画像を見た方もいると思いますが、両方提示し多少詳細な説明を加えるべきものだったと感じます。
・発がんリスク
 炎症が継続すると発がんリスクが上がると報告されており適切です(Van Assche et al. J Crohns Colitis. 2013)。
・治療薬
 以前ご紹介したこともあるのですが、使い方がよくわからなかった時期なので今度もう一度まとめなおします。
 疑問が多いのは
JAK 阻害薬:ゼルヤンツ
⇒炎症を制御するヤスヌキナーゼというタンパクを阻害するお薬です。詳しくはメーカーのHPをご覧ください
インテグリン阻害薬:エンタイビオ
⇒α4β7インテグリンという腸管に炎症を起こす細胞が移動する梯子を阻害するお薬です。GEMINIⅠ試験で比較的良い成績を上げており、私も今年使う可能性があるお薬です。
 あたりかと思います。新薬ですが、選択肢として今後どのあたりに位置付けられるのか注目すべきと思います。

とりあえず、ここまでで一旦締めたいと思います。



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