【総論】炎症性腸疾患とは何か~1~

こんばんは、そふぁーです。
皆様のアンケートの結果から、IBDの総論が意外と求められている事が分かりました。私自身、今まで書いたつもりでいましたが意外と総論的なものは書いていないのだなと驚いています。
というか、気分で書きなぐっているので少し情報を整理すべきだなと感じています。

恐らく何度も加筆、修正すると思います。
見ている皆様が編集・校閲であるという思いで読んでいただき、都度アドバイス頂けると幸いです。

<<>>内は個人的な見解です。それ以外は、いずれも出典等があります。

1.定義

 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease : IBD)とは主として消化管に原因不明の炎症を起こす慢性疾患の総称である。狭義には潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis : UC)とクローン病(Crohn's disease : CD)の2疾患からなる。UC は主として粘膜を侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成する原因不明の大腸に限局したびまん性非特異性炎症であり、CD は通常、大腸・小腸のいずれか、またはその両者に病変が存在することが多いが、口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位に発生し、潰瘍や繊維化を伴う原因不明の慢性肉芽腫性炎症性病変からなる。
 両疾患とも患者数は増加の一途をたどっており、UC は平成2年の段階で特定疾患として最多患者数であったパーキンソン病を抜いている(厚生労働省 衛生行政報告例)。

2.疫学

 本邦における IBD 罹患率・有病率は増加していることは先述した。厚労省以外の報告(Morita et al. J Gastroenterol. 1991.)から見ても、増加していることが分かる(Asakura et al. J Gastroenterol. 2005.)。
 しかし、欧米諸国と比較した場合、本邦の有病率は高いとは言い難い(Cosnes J et al. J Gastroenterol. 2011.)。注意すべきは欧米でもIBDは増加した時期が存在しているという点であり、本邦の増加も欧米諸国のそれと同様の推移を辿る可能性が示されている。
 IBD の発症に関連する因子は多数報告があるが、比較的信頼性が担保されているのは以下である。
家族歴
 家族歴とは近親者に特定の疾患患者が存在するかを示すものである。報告により様々だが、少なくともIBDの家族歴を有する場合は IBD の発症が約2倍以上リスクを増加させることが示唆されている(Ananthakrishnan AN. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2015.)。
虫垂切除歴
 虫垂切除は本邦では所謂「急性腹症」のうち、急性虫垂炎で採られる治療の1つである。これをCD発生のリスク因子とする報告は多いが、17歳未満で虫垂切除を受けた場合はリスクが増加しないことを示す報告も存在する(Kaplan et al. Gut. 2007.)。それに対して、20歳未満の虫垂切除は UC 発生リスクを低下させるという報告も存在し(Andersson R.E. et al. NEJM. 2001.)関連性が高いことは示されている。
喫煙
 現状の研究では、CDは発生リスク、UCはリスク低下を示す事が報告されている。しかし、喫煙習慣の疫学調査上問題となる reverse causality が指摘されていることや喫煙の健康に与える影響を鑑み原則として積極的な喫煙は推奨されず、可能であれば禁煙することが推奨される(Ananthakrishnan AN. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2015.)。
食習慣
 基本的に IBD と食に関する研究は十分でない。また、そもそも研究の設計が困難を極める。理由としては文化的背景の違いや、患者からの聞き取りに限界がある(例えば読者の中に過去1年間の食事を詳細に記録している者はごく少数である事が予測される)。従って、食事内容の改善のみで IBD を治療することは不可能であると現状は言ってよい。
エストロゲン
 経口避妊薬やホルモン療法が IBD の発生リスクを増加せることが報告されている(Cornish J.A. et al. Am J Gastroenterol. 2008.)。

3. 病態

3-1. 潰瘍性大腸炎

 UC は典型的な「炎症」を示す。炎症の定義は古くより5徴に集約されるが
発赤:大腸内視鏡所見として観察
腫脹:大腸における血管透過性の消失
疼痛:腹痛
熱感:通常局所で観察される熱感であるが、UCの場合は病勢が強い場合に発熱として観察される
機能障害:直腸は感覚器官として発達しており、ガスと便を区別することが可能である。しかし、UCでは渋り腹に代表される便意促迫や便失禁など機能障害を呈する
 診断基準は鈴木班が平成30年度に出した基準を参照されたい。
 病態としては、全大腸炎 total colitis, 左側大腸炎 left-sided colitis, 直腸炎proctitis, 右側あるいは区域性大腸炎 right-sided or segmental colitis に分類された。臨床経過による分類として
再燃寛解型:再燃と寛解を繰り返す
➁慢性持続型:臨床症状の消失なく6カ月以上経過する
③急性劇症型:中毒性巨大結腸症や穿孔、敗血症の合併が伴う事が多い
初回発作型将来的に再燃を来たし➀となる可能性が高い
 の4つに分類される。その他、治療反応性によって難治性の区別が存在し、ステロイド抵抗例または依存例、厳密な内科的治療管理下にあっても病勢コントロールが難しいものは難治性と判断される。
 好発年齢は30歳以下の成人だが、50歳以上でも増加傾向にある。若年性は病勢が強い傾向にあり、早期発見早期治療が重要となる。

3-2.  クローン病

 好発部位は小腸や大腸だが、消化管すべてに浮腫や潰瘍、瘻孔などの特徴的な病態が生じる。加えて消化管以外にも多種の合併症を伴うため、全身性疾患として対応する必要が求められる。
 臨床所見としては
➀消化管病変:腸病変、肛門病変、胃十二指腸病変、合併症(狭窄や内瘻、外瘻、悪性腫瘍など)
➁消化管外病変:貧血や凝固能異常、関節炎、皮膚病変、虹彩炎、ブドウ膜炎、栄養異常など多岐に渡る
 これらを踏まえ、病型としては
➀小腸型 ➁小腸大腸型 ③大腸型 ④特殊型 の4つに分類する。特殊型には多発アフタ型、盲腸虫垂限局型、直腸型、胃・十二指腸型などがある。原著では回腸末端炎とされるが、現在の知見では消化管のあらゆる部位に病変が起こることが分かっている点に注意が必要である。
 好発年齢は10代後半から20代であり、高齢発症の割合は極めて少ない。

4.治療

 IBD 治療の実際は、各種文献にある通りであるが、詳細は各論で解説する。本項では、あくまで概説を行うのみで、詳細な機序については取り急ぎ過去の note をご参照頂きたい。

4-1. 治療の考え方

 UC と CD では、基本的な治療の考え方が異なる。UC では、5-ASA がキードラッグとなるため、原則として状態に合わせて治療薬を上乗せる STEP UP 療法が採用される。それに対して CD では最初から強めの治療を行う事で病状を抑え込む TOP DOWN 療法が採用される。
 UC は直腸周辺の炎症は赤沈やCRPに反映されにくいことから、血液検査に加えて超音波検査や単純X線、CT などの画像検査を利用しつつ大腸内視鏡を併用する。CD は UC と比較して CRP の反応性が良好であるが、逆に内視鏡は狭窄などの影響もあり施行が難しいケースも少なくないため特徴が異なるものの、前述の画像検査と組み合わせることで状態を把握する。
 <<これは個人的な見解だが、腹部の触診は消化器内科における基本であり、所要時間も短く、侵襲も無い。異性の患者では看護師の同席など配慮が必要だが積極的に取り入れるべきであると患者個人として思う。>>

4-2.治療薬

1.5-ASA系:サラゾピリン®、ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®
 UCの場合キードラッグとなる。濃度依存的に治療効果が高くなり、局所製剤と内服の2種類が存在する。基本的によほど安定しない限りは減量しない。
 寛解導入:〇 寛解維持:〇

2.チオプリン製剤:アザニン®、イムラン®、ロイケリン®
 DNA の構成に似たデコイ。免疫機能を調節し、過剰な炎症を防ぐと共にバイオ医薬品に対する自己抗体の産生を抑制する(二次無効の抑制)(Colombel et al. NEJM. 2010.)が、寛解導入効果は無く、ステロイドによる寛解導入後に代替として維持に使用する。使用する際は必ず代謝酵素である NUDT15 の変異を測定し、至適用量に調節する。
 寛解導入:× 寛解維持:〇

3.ステロイド:プレドニン®、リンデロン®、プレドネマ®、ステロネマ®
 ヒトに存在する副腎皮質ステロイドホルモンのうち、糖質コルチコイドの抗炎症作用を利用した治療薬。Gulcocorticoid receptor(GR) と複合体を作ることで、核内受容体へ作用し抗炎症分子の発現を増やし、炎症性分子の発現減らす。寛解維持に効果は無く、長期漫然とした使用は避ける
 寛解導入:〇 寛解維持:×

4.抗TNFα抗体:レミケード®、ヒュミラ®など
 炎症性サイトカインである TNF-α に対する抗体製剤。中和抗体として作用するのみでなく、TNF-α を産生する細胞を減ずる効果も有する。治療成績はCD>UC であり、CDの術後 Step up 治療が1年半後までの再燃を抑制されることが近年報告されている(De Cruz P et al. Lancet. 2015.)
 寛解導入:〇 寛解維持:〇

5.カルシニューリン阻害薬:プログラフ®、サンディミュン®
 T細胞のシグナル伝達に必要なカルシニューリンを阻害することで、免疫機能を抑制する。サンディミュンは血中濃度 150-250 ng/mL 、プログラフは投与後の日数に応じて血中濃度を調整する。免疫抑制に伴い、HBVの再活性化リスクが存在するため、予め HBs 抗原, HBs 抗体, HBc抗体を検査する(B型肝炎治療ガイドライン. 日本肝臓学会 . 2019)。
 寛解導入:〇 寛解維持:〇
 
6.経腸成分栄養:エレンタール®
 note 「エレンタールに関するお話」参照(https://note.com/microbiota0912/n/n1f348701dff6)
 寛解導入:〇 寛解維持:〇

7.血球成分除去療法:アダカラム®(セルソーバ®は販売終了)
 炎症の本体である顆粒球を除去する治療法。薬剤と比較して副作用発現が著明に低頻度である。ただし、両肘窩に穿刺かつ留置が必要のため、ブラッドアクセスが不良の患者では適用困難。現在寛解導入のみに保険適用だが、寛解維持にも効果があるとされ(Fukunaga K et al. Gut Liver. 2012.)、本邦でも検討が行われている。


8.その他:エンタイビオ、レクタブル等
 エンタイビオ®:腸管における炎症の主体は好中球であり、抗体が血管-腸管に渡る”橋”α4β7インテグリンを阻害する。ポイントは、α4インテグリン全体の阻害に比べ、副作用発現リスクが軽減する事である。
 詳しくは https://note.com/microbiota0912/n/n7947a3176e68 をご参照ください。

 レクタブル®:ステロイドの1つであるブデソニドをフォーム(泡)状にした製剤。ブデソニドは血中で速やかに代謝され、賦活化される。そのため内服や点滴といった経血管的な治療には適さないが、吸入や軟膏といった局所療法には全身性の副作用を軽減したうえで使用することが可能である。
 詳しくは https://note.com/microbiota0912/n/naea7fb3b07b5 をご参照ください。

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