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額田大志「漢方薬としての芸術」3日目

御前崎市の滞在も3日目に突入しました。午前中はホストのOMAEZAKI STYLE CLUBが手がける「おしごとはくらんかい」へ。沢山の職業体験ができるイベントで、地元のフード出店もあり、とても賑わっていました。

おしごとはくらんかい
出店も多く、親子連れで楽しめるイベントでした

昼頃には浜岡原子力館を見学しました。浜岡原発の歴史や設立後の背景などを知ることができる施設です。私は以前、作品のために3年ほど東北沿岸部のリサーチを行なっていたため、原発について様々な話を聞く機会も多かったのですが、浜岡原子力館を訪れたことで原発についてまた新しい見方ができた気がします。3.11後すぐに、浜岡原発では津波から守るための18mに及ぶ防波堤が建設されたのですが、そのドキュメンタリー映像がとても見応えがありました。

午後は『御前崎深掘りツアー』へ。海沿いでコピポットというお店を営むみきさんに案内していただき、2日目とはまた異なるディープな御前崎のスポットへ。みきさんならではの案内はもちろん、最終地として再び訪れた浜岡砂丘が、夕暮れだとまた違った景色を感じられたりと、2度目の発見もあり新鮮なツアーでした。

『御前崎深掘りツアー』で訪れた湧水の池
夏は子供が泳いだりしているようです
夕暮れの浜岡砂丘


3日滞在して思ったことは、御前崎市が魅力的な街であるのはもちろん、そこに住んでいる人が様々な生き方を選択していることです。『御前崎深掘りツアー』のみきさんが「御前崎は外国みたい」と何度か口にしていました。あぁ、そうかもしれない、と思いました。自分の経験の中では、オーストラリアの海辺の街に行ったときと同じような感覚を思い出しました。それは単に海が近いだけでなく、住んでいる方が自分で生き方を選択している、それができる街であることでしょうか。

11月ですが日が照っていたこともあり、この日もサーファーの人が沢山海に出ていました。サーファーの中には、早朝に海に出て仕事に行き、仕事終わりに再び海へ出る方もいるようです。御前崎で会う人々は、自分が本当に好きなことをやりながら生活したり、何かしら本業とは別の仕事をしたり、地域で協力して味噌を作ったり、とても前向きに生活を楽しんでいる方が多いと感じています。それはすごく素敵なことで、それがまさに文化なのではないかとも思います。

ただ、そうしたとき「芸術」に何ができるのかは、難しい問いだ改めて感じます。これまで自分が芸術活動を実践する目標としては、多様な社会変化の中で鬱屈とした気持ちを抱えている人や、行政の整備する文化活動では掬い上げられない表現を、あくまでオルタナティヴに(自主的な活動として)音楽や演劇を通じてパフォーマンスすることを念頭に置いてきました。もう少し噛み砕くと「(自分も含めて)なんか生きていてモヤモヤする人たち」に対して、抱えている問題の解決にはならなくとも、少し先の未来に効くかもしれない漢方薬を渡すようなイメージでしょうか。

漢方薬は人それぞれで調合が異なるように、市販の薬のように大勢に向けてではなく、できるだけ細やかにコミュニケーションを取りながら、その人その時々にあった作品をつくるようなイメージです。加えて、テクノロジーの発達によって社会の価値観が急激に変化せざるを得ない中で、なんとなく社会が定義する大勢の中に含まれない人へ向けて作品を作りたい気持ちがあります。そうした流れがあるため、自分が社会的にはニッチだったり、すぐにわかり辛い作品を好んでいるのも、社会が暗黙の内に要請する即効性にゆるやかに反抗しているからかもしれません。もっと、面白いものがこっちにもあるよ……と、そんな気持ちで作品を作ってきました。

御前崎の海

ただ、この感覚はものすごく東京的な感覚なのかもしれません。『御前崎深掘りツアー』のみきさんが「海を見ていると小さいことはどうでもよくなる」と言っていました。東京に住んでいると、分刻みでやってくる電車、目の前を通り過ぎる人々に追われ、時間が加速していく感覚があります。一方、御前崎の海を眺めていると、あぁ、時間はこんなにもゆっくりだったのか、と人生の短さを強く感じます。もちろん、東京にも海はあるのですが、それとは異なる感覚が確かにあります。海を見て自分の小ささを実感すること、海を見て自分に流れた時間が変わること、それこそが自分にとっては作品を通じて表現したいことでもあります。そんなことを、夜に「旅人」3人で話していて思いました。

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