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愛のしるし

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たくさんの「スキ」をもらった文章。下のほうにも良いやつがたくさんあります。
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2021年3月の記事一覧

だからわたしは就活をしない

 大学3年生の3月、就活ではなくnoteを始めた。「文章を書きたい」と思ったからだ。  半年前から周りのみんなは企業研究や自己分析を進めている。その間もわたしはずっと1人で黙々と物語などを書いたりしていた。週に3日、息抜き代わりのアルバイトをし、あとの時間はひたすら書く。そんな変わり映えのない生活が気づけば最高に楽しいものになっていた。 「自分は就活をしないのかもしれない」と、ぼんやり思い始めたのは何も今しがたのことじゃない。高校卒業後の進路を決める夏あたりからおそらく兆し

頑張らないひとり暮らし

 目が覚めるのはだいたいいつも5時ぐらい。今日も無駄に早い朝だ。ベッドから起き上がることはしないまま、ひと通りの通知を見たり、さして更新の増えていないタイムラインを泳いだり。  そんなこんなをしているうちにあっという間に6時になる。ここでわたしはもう1時間の2度寝に入る。でないと日中、眠くなって作業があんまり捗らない。  7時、今度は小さなアラームの音に起こされた。わたしはようやくベッドを抜けて朝の準備を済ましていく。  トイレ、水だけの洗顔、日本酒の化粧水、-4.5のコン

魅せる文章について少し考える

「情報」としての文章か、「芸術」としての文章か。  わたしの好みは「芸術」だ。読むときにも書くときにも、説得力より想像力を酷使する。繊細な景色が頭の奥に映るかどうか、文字の綴りのバランスはどうか、言葉の響きは心地が良いか。  昔から文章力を褒められることは多かったけど、執筆前に細かく構成を練った経験は1度もない。塗り固めてから書いてしまうと言葉の鮮度が落ちる気がする。  構成メモを書いておいたら、時間が経ってもそれを見ながら同じ文章が書けるだろう。だけどわたしは忘れてしまっ

夜の桜に攫われる

 ちょうど1年前の今日だった、親友と夜桜を見にいったのは。  久方ぶりに会って話した帰りの際に通りすがった某・条城。塀の奥から漏れいずる淡い光に誘われて、わたしたちは浮かび上がる夜の花見に立ち寄った。  人工的な色彩を浴びるいにしえを、文明の利器で長方形に収め撮る。桜の写真はどうしてこうも難しい。  生の眼で見ると尊く神聖な息を身体に吹き込まれるのに、それを持ち帰ろうと試みた刹那、命の端は欠け落つる。樹に棲まう花は薄桃色を帯びているのに、手の中に散ったひとひらの花弁はそこは

春の温度差

 レースカーテンの向こうに手を翳してみると、ガラスを透いた陽だまりが部屋の中より暖かかった。春を告げる優しい温度差。もう3月も気づけば半分を過ぎている。  天気予報を見てないうちに季節の変化も見落とした。もったいない。わたしはパチンと鍵を開け、小さな部屋に新しい春を呼び入れる。彼女はしばらくレースの辺りを漂った後、少し冷たいわたしの肌をぬくめるように溶け込んだ。  あれから1年が経つ今、好きとか好きじゃないとか、よく分からなくなっている。去年の春から続く脅威は彼と彼女を遠距

「美しく咲け」と願われた命

 名前とは、人の命を象るものだ。馴染みのある文言を使うと「名は体を表す」。それは生まれてから死ぬまで生涯、最も身近な言葉として常にわたしたちのそばにいる。  日本には言霊という概念があるから、命に宛てる言葉の意味は誰もがとても重視する。そうでないと、わざわざ義務教育の場で「あなたの名前に込められた意味は何ですか?」なんて大々的に問いたりしない。  己の名前の意味を知る。道徳とか学活とかの一環で、当然わたしもそんな宿題を出された経験は過去にある。  ちなみに「美咲」は本名だ。