【アークナイツ】ウルサスの子供たち感想

ウルサスの子供たちというイベントはアークナイツをダウンロードする前にSNSかどこかで目にしていて、重い話であるということはぼんやりと認識していました。いざ読んでみると思ったよりも直接的な表現は少なかったのですが、彼女たちがロドスで過ごす日常の中に影のようにつらい過去が寄り添っているのがひしひしと伝わってくるストーリーでした。

ウルサスの子供たちのPVの「あの苦みを噛みしめながら」というロサのナレーションがしっくりきます。あくまで自分の中でストーリーを消化するために描いたのでちょっと読みにくいと思います。

※メインストーリー8章までのネタバレもあります。ご注意ください。

グム『習慣』

ウルサスの子供たちはいくつかの掌編からなっていてどこから読むことも可能です。ただ、一番左から順番に読んでいくのが一番しっくりくるのかなという気もします。最初はフライパンを持ったグムちゃんの物語。この話に出るメインの人物で唯一私が持っているキャラクターでもあります。

グムはフライパンと鉄の盾を持った女の子で食堂でも働いているようです。その中で空腹状態の時に見せる習慣「飢餓状態になると際限なく食べ物を食べる」、そして包丁も実践も「2回目腕を振るったら3回目は振るえない」という習慣。3回目は包丁を振るえないというのは、もし振るってしまったら「まな板と一緒に料理台も切ってしまう」というすさまじい結果になるといいます。他にも「楽しい時は心の底から笑う」といった習慣も。

ちょっと「あれ?」っと思うところもあるけど、グムがイースチナやズィマーというルームメイトと仲睦まじい姿が見れて微笑ましい気持ちにさえなる話でした。この後、次の話を読むたびに少しずつ印象が変わってきます。

イースチナ『選ばされた答え』

次はイースチナの物語です。物語は「トラウマを自ら再現することでセルフケアを行おう」としているイースチナから始まります。ここでイースチナだけでなく他のメンバーも共通する一つの悪夢のような出来事を共有していることが書かれます。

レユニオン占領時に彼女たち学生は一か所に集められます。これは後の話でパトリオットがレユニオン占領による破壊から学生たちを守るための行動にメフィストがアレンジを加えたものなのですが、学生たちはもちろんそんなことはわかりません。チェルノボーグ市街地がレユニオン占領で破壊された間、学生たちを守る谷に隔離された場所で、彼女たちは地獄のような体験をしていたことを知ります。

その地獄のような体験の中でイースチナ自身がトラウマとして抱えているのはその状況で死んでしまった親友のヴィカの死です。詳しくは書かれていませんが、ヴィカは高い所から落ちて死んだようです。そして、イースチナはその場所にいた。仲間たちは「間に合わなかった」と思っていますが、イースチナの記憶では落ちそうになっているヴィカの最後の一押しをしたような描写があります。それをイースチナは「あの状況で尽力した結果」だといいます。彼女たちのいた状況でヴィカを死なせることがなぜ「尽力」なのかは次のズィマーの話でもう少し見えてきます。

ズィマー『夢の中で』

イースチナの『選ばされた答え』の中でズィマーがよく悪夢にうなされていることが言及されています。この話はおそらくその悪夢の内容、断片的な夢の内容から彼女のトラウマと、彼女の後悔が産んだであろうもう一人の自分との対話から当時の状況がより鮮明に見えてきます。

食卓のシーンで出された気持ち悪い食べ物、「水に米と雑草を入れただけの食べ物」に「不衛生な腐りかけたパン」「無理やり肉の塊からはぎ取ったような生臭い血の付いたハムのようなもの」に次の学校のシーンでいじめられてたところを助けた女の子と、彼女が身に着けていた黄色い血が染みたボロボロのリボン。ズィマーは気持ち悪い食事をとったことがあるし、いつか助けた女の子が死んでしまったことも知っている。

ウルサスの子供たちの話の中でイースチナ、グム、ロサは貴族学生が通う第四学校の生徒、ズィマーとリェータは平民が通うペテルヘイム学校の生徒です。おそらく他の学生は一つの学校で隔離されていましたがこの学校だけ二つの違う階級の生徒が隔離されたことになります。

学校に閉じ込められたあと、しばらくして火事で食糧庫が燃えて第四高校の貴族がもう一つの食糧庫を占領してしまいます。学校内で食糧難が発生し、貴族の略奪に加えて、平民の間でも少ない食料の奪い合いが起きます。ズィマーはもともと単独行動をしていましたが、イースチナが率いる第四高校のグループと一緒に行動することになります。おそらくイースチナのグループは第四高校の中でも身分は低い子供たちだったのではないかと想像できます。しかし、イースチナの連れてきた人達とズィマーとの間でも諍いは起きます。ズィマーとともにいるか、貴族側につくか。イースチナの親友のヴィカは貴族側につくことを考えていたことが分かります。ズィマーはかつてしていたように何人か食料をめぐって襲われた人を助けていました。助けたことによりグループの人数が増え、余計に食料が必要になり、より食料を得るために貴族側についてほうが良いのではというのがヴィカの提案だったのです。

ズィマーはイースチナに頼られて嬉しいと感じていました。だから、食糧問題を解決するために単独で貴族が占領する食糧庫に貴族を束ねているボスを倒すために乗り込みます。その結果、もみ合っているうちに燭台を倒して二度目の火事を起こしてしまいます。これがズィマーのトラウマです。この第二の火事によって奪略・争いが余計ひどいものになってしまったのです。第二の火事の後一部の仲間は行方不明に、ヴィカも死んでしまったことが言及されます。

その後レユニオンは姿を消しますが学生たちはしばらくその事にさえ気づきませんでした。それに気づいたズィマーたちは避難しようという考えに至りますが、その前に天災が来てしまいます。そこで初めて学校にいた全員が外に出ていいことに気づき、外がさらにひどいことになっていたことに気付いたのでした。その後彼女たちは運よくロドスに救助され生き延びることになります。

ロサ『ジレンマ』

ロサはこれまでの三人と違い貴族側の学生でした。そして第二の食糧庫を占領した貴族学生の「ボス」でもあったのです。そんなロサに悪夢にうなされたズィマーが会いに行くところから始まります。

二人は同じ地獄のような体験をした仲間ではありますが、友達ではありません。ズィマーがロサに話に行ったのは、仲の良いメンバーには悪夢を打ち明けにくいということもあるますが、それぞれグループのリーダーをしていた立場の人間だったということもあるかもしれません。

ロサの口からは貴族側の事情が語られます。貴族たちはレユニオンが占領される前に避難をはじめていたこと。両親と一緒にいたところ子供だけ離されて学校に閉じ込められたこと。イースチナは「火事がなくてもきっかけがあれば諍いは起きる」と考えていましたが、ロサの視点では「貴族はきっかけがなくても諍いが起きる」といいます。火事が起きる前に貴族の中では諍いが起き、ロサは争いを沈めるためにリーダーになったこと。彼女はグループを団結させるために略奪に許可も出し、強奪の計画も立てたこと。

ロサはあの略奪の中で一人も手にかけていないけど汚れた人間だと自覚していて、自覚したのは第二の食糧庫が燃えた後ズィマーたちと行動するようになってからでした。

貴族たちは食糧庫を占領し平民から略奪しましたが、それはロサがリーダーになったからではなくもともとだとズィマーは言います。もともとウルサスの貴族にはお互いに諍いあう歴史があり、平民より特別だと思うような教育を受けていてそれはある意味貴族に生まれた彼らのせいだけではないと思います。

貴族と平民の子供を一つのところに閉じ込めたメフィストはウルサスで裕福な家の生まれで虐待を受けていました。そのためこの貴族の問題をよく理解していたのだと思います。メフィストは単純に「貴族と平民の子供を一か所に閉じ込めた」だけです。一回目の火事がメフィストが起こした可能性もありますが、それでも直接学生たちに手を下したりはしていません。もちろんメフィストは意図的にそういう状況を作りました。しかし、すべてメフィストがこの状況を作ったとも言えません。ズィマーの言葉を借りればもともとウルサスにはそうなってしまう土壌があったのです。

リェータ『デタラメ冒険譚』

リェータはハチミツで酔うらしく、酩酊状態でルームメイトに語った話で時系列的には第二の火事があった後から始まります。リェータはずっと単独で行動していましたが第二の火事の後奪略が増えて夜も襲ってくるようになりズィマーのグループに身を寄せるようになります。リェータの語り口を見ると単独行動していたせいか偶々知っている人の死や仲たがいに合わなかったからか他のメンバーより語り口は軽いように感じます。

リェータの話では急に登場した警官の存在とリェータがレユニオンの元に話に行ったシーンが印象的です。メフィストに会ったときに鉱石病に感染したのではという考察を読んでなるほどと思いました。ウルサスの子供たちに登場するオペレーターはみんな非感染者なのですが、彼女だけは実装されていないのでわからないのですよね。

『いつも通り』

この話は一転現在のロドスに戻り、ロサの前線オペレーターに異動になったところから始まります。

アーミヤがあのつらい経験をした子どもたちをオペレーターにしたくない気持ちはわかります。しかしこの話では彼女たちがトラウマを抱えながらもロドスのメンバーになじんできていることが見て取れます。アーミヤの彼女たちへの感情を感じたうえで「あなたのことが理解できるというのは良い言葉ではない」というのは誠実だと感じました。

ロドスは製薬会社として鉱石病を治療する薬を研究していますが彼女たちの心のケアもしたいと考えています。過去を抱えながらそれでも生きていく彼女たちがロドスで前に進めるようになる日が来るのを願っています。

その一方でロドスは誰でも救えるわけでもありません。メイン8章でケルシーが変質したメフィストと対峙したときに「ウルサスの傷口は誰かの傷口になる。より多くの人を救おうと考えたら決断をすべきだ」というようなことを言いドクターにメフィストを倒す決断を迫ります。かつてウルサスで虐待されて過ごしたメフィストは、ウルサスの地にその何倍も大きな傷を別の人に返しました。彼のしたことを考えるとあの最期は物語としてあるべきものだったのだろうなと感じます。

アブサント『春になったら』

アブサントは違う学校に隔離されていた生徒でした。少なくともアブサントがいる学校では略奪などはなかったようです。レユニオンの話を盗み聞きし、両親が心配になった彼女は学校を飛び出しひどい市街地の状況を目の当たりにします。

家にたどり着く前に警官をしているおじさんに会い、自分の家があった場所が高熱で溶けて焼けたこと、おそらく母親は巻き込まれて死んだこと、父親がペテルヘイム高校へと向かったことを知ります。

人手が足りないなら自分が行くと彼女はペテルヘイム高校へと向かいます。時系列としては第二の食糧庫が燃えた後。アブサントは食糧庫の火事の後で学生たちの遺体を目にします。そして市街地でレユニオンの暴動を見ていた彼女は傷口からレユニオンの仕業ではないということも気づきます。そしてその学生の遺体に交じって彼女の父親の遺体もあったのです。アブサントの父親に何が起こったのか詳しいことはリェータの話でも出ていなかったのでわかりません。

アブサントはその後ロドスに入ります。そしてロドスの中であの日みた制服と同じものを着たロサたちを見つけたところで終わります。

この話でメフィストは遠くの学校にわざわざ貴族の学生を連れて行ったことを他のレユニオンは不思議に思っても、その意図までは理解していなかったことが分かります。また、わざわざパトリオットの目が届かない場所を選んだこともうかがえます。メフィストそして当事者の彼女たち以外にこの学校で起こったことをどれくらいの人が知っているのでしょうか。

アブサントは当事者たち以外で数少ないペテルヘイム高校で起きたことに触れた登場人物なのかもしれません。

おわりに

一つ一つのストーリーでは語られなかったことが全て読み終わるとそれぞれが補完しあってウルサスで起こっていたことが見えてくる構成で読みごたえがありました。「ウルサスの子供たち」というのはズィマーたちに加えてメフィストも入っているんだと思っています。ズィマーたちがいた学校は大変な状況に陥ってしまいましたが、アブサントの学校はそういう状況ではないので、もともと派閥や思想の違いで諍いが起きやすい状況だった貴族の子供という火種を彼らが下に見ている平民の学校に入れたことによってあの事態が引き起こされたのかなと。

ウルサスの社会の中で裕福な家庭で虐待された過去があるメフィストは一種の復讐として、パトリオットの学生の保護に乗じて貴族と平民の子供を一つの学校に集めて争いが始まるのを見ていた。メフィストは自分の傷を他人に広げていた。ズィマーたちはロドスに助けられてきっとその中で自分たちのトラウマを乗り越えていくのだと思いますが、彼女たちの他にもしあの学校の生き残りがいたら、その人はどんな人生を歩むのでしょう。もしかしたらメフィストのようにあの学校でのトラウマをもって別の誰かを傷つけるのかもしれません。

ウルサスの貴族社会の中で教育を受けたロサは自分が善良な人間だと思っていました。しかし、あの事件で自分の醜い部分に気付きます。きっかけは自分と違う階級のズィマーたちと会ったからです。平民と貴族の子供たちはあの状況の中で争いましたが、その出会いは新しい気付きをもたらすものでもあると示唆されているのはホッとします。(リェータは分かりませんが)彼女たちは非感染者でロドスには色々な立場の人がいるので、いろんな人に会って更に成長していくんだと思います。

さて、この物語の一番の諸悪の根源のメフィスト。彼は直接は手を下さずに間接的にあの状況を作り出したのですが彼の罪は何なのかなと考えています。ズィマーはロサに「あいつらはロサがクズにしたわけではない。もともとクズだった。」というような事を言いますが、今回の諍いの基盤にあった貴族社会の構造はメフィストが作ったわけではないです。仮に「食糧庫をメフィストが燃やした」ということが確定していればメフィストを非難しやすいのですが…。6章の彼の過去や8章での彼の最期を読むといつの時点で何があれば彼はこうならずに済んだのかなと考えてしまいます。

​以上、ウルサスの子供たちの感想でした!

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