7月18日

絵に没頭するようになってから・・・それは恥ずかしながら30歳を越える頃からだと思うのだけど・・・知らず知らずのうちに、生み出された作品が世に広まって、見ず知らずの人も僕の絵を知るようになった。自分の場合、人に見せることや知られることが、目的だったわけではないので、想像を超えた認知度に驚いていたのが丁度10年くらい前のことだ。制作に没頭しだした30代。認知されて広まっていった40代。今は、あてのない冒険に出るには、ちょっと体がキツイ50代になってしまった。

20代の終わりから40までは、日本を遠く離れてドイツで暮らしていたが、6年間の学生生活に加え、絵を描くことに集中できた卒業後の6年間は充実していた。充実とは、単純に何も気にせず、何にもとらわれず絵を描くことが出来ていたということだ。毎日の生活がそうだった、ということだ。発表するあてもなく、しかし、発表することが最終目的ではなく、ただ描き続けること自体が生きている目的だったのだ。日本食レストランで、古典的な皿洗いのバイトをしながら絵を描いていたあの頃は、なんか正当に画学生を生きていた気がする。

さて、今はどうだろう・・・ギャラリーでの個展ではなく、美術館規模の個展をするようになった今。ここ数年、何か前に進むような感覚で、色んなことに挑戦してきた。それらは全て、やってみたいことではあったのだろうけど、今振り返ってみると、過去の、自分がまだ自分であった頃から比べると、あまりにも一般的な美術家の成長だった。そう、自分は『一般的』という言葉をいつも毛嫌いしてきたのではなかったのか。個の特異性に魅かれ、マイナーな歌を探し歩き、サブカルチャーのさらに裏にあるようなものを好んだ自分は、どこにいってしまったのだろう。

そう気づくのに、10年かかったのかもしれない。

僕は今、あのケルンのスタジオで、日本の見知らぬnaoko.さんが運営してたHAPPY HOURというサイトを通して繋がり、まだ会わぬ人々同士の共同幻想を体験し、それが実現した2001年の横浜市美術館での個展を回想している。それは、僕が12年にわたる長いドイツ生活を終え、日本に帰国した自分にとっても記念すべき個展であった。ウェブサイトHAPPY HOURは、明らかに今のステイタスに僕を持って行ってくれた。それは、いわゆる美術関係者・・・特に海外の・・・には、まったくもって理解できないことだと思う。そう思うと、つい微笑がこぼれてしまう自分なんだけども。

さて、今だ。その帰国から10年が過ぎた。その10年間は、横浜の個展以後あわただしく過ぎていった。思い出せないくらいの人たちと出会い、たくさんの名刺が手元に残った。騙されもしたし、いいふうに使われもした。もちろん、生涯大事となる仲間にも出会えたのだけど、何か自分の速度に合ってはいなかったのだ。

そんな簡単にハリウッドスターやビョークやJay-Zに会えるのが、おかしいのだ。まぁ、Yo La Tengoには会えるとは思っていたけど・・・それにしても、どうして向こうから会いたいって言ってくるのか、それは未だにわからないのだけど、きっと僕の絵を好きなみんなが、僕に会ってみたいっていう気持ちと同じなんだろうって思う。自分だって、会ってみたいさ・・・そんな仲間には。

「♪僕は今、両足を抱きかかえ、この峠の上に座ってる・・・この道を最初に来た君と、一緒に旅に出るために・・・♪」  ザ・ディランⅡ-サーカスにはピエロが

そんなこんなで、紆余曲折というのかどうかはわかんないけど、僕はまだちゃんと息して生きている。そして来年、2012年の夏には再び横浜市美術館で個展がある。前回と同じように全て新作の展示だ。僕に力をくれた、いや、僕を育ててくれたサイト、HAPPY HOURは今はもうない。そこに集ったみんなも、僕も、それぞれの時間を進んでいってる。今の自分は、誰にも育てられることはない。自分が、自分の力で育っていかなきゃいけないんだと思う。

しかしながら、Twitterというものがある今、僕は一方的にではあるが(それがいいのだけど)心のつぶやきを文字にすることが出来ている。これからは、実際に見知らぬ人と手を取って何かをするということは、他の人に任せて、自分の出番なんてないだろうと思うけれど、まだ会わぬ友たちとは、心の中で手を取り合って、僕は今も、時代遅れなのかも知れないけれど、かつて在ったHAPPY HOURというサイトが、どこか気がつかないところにまだ存在していると信じて、かつてそこに寄せていた日記のように、今日もTwitterでつぶやき、こうしてFoilという出版社が用意してくれたブログで語るのだ。

「♪変わっていくなんてきっとないよ・・・君の世界なんて程遠いよ・・・でも、俺をこんなに変えてくれた昔の友がいるんだ・・・朝日はもう昇るよ、少しづつだけどね・・・その時、その日こそ自由になるんだ・・・・・・奴らは、楽なほうを取るのさ、誰とでも手を繋ぎながら・・・でも、俺は断じて俺の考え通りに動くんだ・・・朝日は昇るよ、少しづつだけどね・・・その時、その日こそ、自由になるんだ・・・♪」 ザ・ディランⅡ-男らしいってわかるかい

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