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一期一会とラーメン

我が家の子供達は温泉が好きだ。
車には常にお風呂セットが入っている。

安芸太田町にもいくつか入浴施設があるのだが、最近の次男のお気に入りは『匹見峡やすらぎ温泉』だ。

いつもは、私と次男三男の3人で行き、1時間半近くゆっくりのんびり入る。
が、この日は次男が『お父ちゃんとお風呂行きたい』と言うもんで、仕事終わりの夫と合流し匹見峡へ向かうこととなった。
我が家からは車で45-50分。
途中は携帯の電波も入らない。
私が知る限り、道中にはトイレだけの道の駅があり、横に小さな商店があるが、絵に描いたように小さいおばあちゃんがやってて、黒白の小柄な雌猫が店内でゴロゴロしている。
売ってあるのは、生活用品少し、パン、菓子、野菜…。

匹見へ行く時は食べ物を持っていかないといけない。子供達はお腹が空くと暴れる生き物だ。

夜の匹見温泉へ行くのは実は初めてだった。
行く予定が無かったので、慌ててカップラーメン4つ、水、やかんを詰め込んだ。
途中、割り箸を忘れた事により職場の宿泊施設に寄って箸を貰った。

子供達はいつも仕事でいない父親とのお出かけがよほど嬉しいのか、車の中ではハイテンションだ。

18時ちょっと過ぎに到着し、子供達は

『ママと入る〜』

おい、お父ちゃんとお風呂行きたい言うたん誰やねん…

お風呂上がりのアイスを餌に三男を夫に預けて私は次男とお風呂へ入った。
ここのお湯は湯船に入ると肌がぬるっとする。
私は全てを綺麗に洗ってから湯船に入るタイプだ。
美味しいものは最後に食べる。

家では烏の行水だが、公衆浴場では丁寧に丁寧に洗う。
そして、メインディッシュのお湯に浸かる。

紅葉を見ながら露天風呂に浸かっていると、別の親子連れが入ってきた。
女の子のお母さんだ。
幼児と言えども、男の子を連れて入っている私としては申し訳ない気持ちが出てくる。
同じくらいの年齢かな。

女の子が私の近くで転びそうになったので、咄嗟に腕を掴んだ。

大丈夫?

『あ、すみません!ゆうちゃん、気をつけて!!』

これをキッカケに彼女との旅が始まった。
彼女はシングルマザーで、ここの温泉にはたまに来てて、家は島根の益田で、女の子は次男と同い年で、活発で…

私も元シングルマザーなのよと伝えると、話は更に盛り上がった。
彼女は34歳で、この先再婚は考えれないけど…いつかまた恋ができるかなぁ?と。
明るく、子供にも優しく、よく喋る女性だ。

お喋りに花が咲き、気付けば時刻は19:30
閉館は20時なので、そろそろ上がらなければいけない。
彼女の子供が『お腹ぺこぺこ〜』と言ったので

『ここら辺は食べる所がないから、大丈夫?私、お菓子とカップラーメンならあるからいる?』

と、声をかけると。

『あ、大丈夫です。近くに食べる所があるんですよ!』

なに?
食べる所があるだと!?
私の中ではここは秘境で何一つ食べる場所がなく、毎回おむすびやら何やら持参しなければいけなかったのに、食べるところがあるだと!?

『良かったらいっしょに行きません?』

彼女の軽い誘いに私はすぐに『ありがとう!行く!』と、答えた。
女の長湯をひたすら待ってた夫と三男はすでにお腹を空かせており、近辺でラーメンとうどんが食べれる所があるんだって!と伝えると。カップラーメンよりはそっちがいいと言うので、お言葉に甘えて彼女の車の後ろを走る事になった。

法定速度50キロをピッタリと守り、ゆっくり走る彼女。
周りは山と川で街灯はほぼ無く、民家も無く、真っ暗な山道を2台は進む。

10分走った所で。

『お店ってあるのかな?Googleで道を見ても何もないっぽいんだけど…』

と、私は不安になり夫に声をかけた。
もしかしたら、私が話していた相手は実はキツネで私達家族はキツネに化かされてて。山奥へ連れていかれてるのでは…と、思った。
もうすぐ、41のババァのくせに私は時折こんな空想をしてしまうのだ。

夫も子供達も『お腹空いた』状態。
彼女お店の名前なんて言ってたっけ?
場所どこって言ってた?と、夫に聞かれるものの私は何も知らない。

『近くでご飯食べるところありますよ』

としか聞いてないのだ。
私達の『近く』とは車で10分内の感覚だ。
それはあくまでも私たち家族の感覚だ。
彼女の『近く』は15分かもしれない。

連絡先も聞いていない。
とにかく彼女に着いていくしかないのだ。

夫に『ごめんね、明日も仕事なのに家とは反対方向やんなぁ…帰るの遅くなるなぁ』と言ったが、本人は基本的にのんびり屋で深く物事を考えないので『まぁ、着いて行ってみようや』と返してくれた。

20分経過。

子供達がおなか減ったと騒ぎ始めたので、チョコレートを取り出した。
食べるかと聞くも、ご飯か食べたいから要らないと言う。
ロールパンを出したが、米がいいから要らないと言う。
YouTubeを観させて気を紛らわせるしかない。

YouTube様、本当にありがとう。

30分経過。

あ、なんか家が出てきた。
ずーっと山の間を走っていたのだが、明らかに少しだけ開けた場所に出てきた。
だって、コンビニがあるんだもん。

35分経過。

彼女の車がウィンカーをだし、自動販売機が立ち並ぶ道路脇に止まった。

ん?
子供のおしっこかな?
私達夫婦は彼女の子供がオシッコだろうと思い、相手が子供でも女の子なので見ないように携帯を手に持ち下を向いた。

すると、窓をノックされ『着きましたよー!』と笑顔で言われた。

え?
到着?
30分以上走って…え、自販機?
どゆこと???

と、訳がわからない私。
やはり彼女はキツネだったのか!

『ここは、後藤商店って言って割と有名なんですよ!
うどんもラーメンもご夫婦が仕込んで、隣の方には肉巻きおむすびとかもあるし、値段も安いし!』

と、『後藤商店』という自動販売機が立ち並ぶエリアについて説明をしてくれた。

あぁ!
この自動販売機は見た事があるぞー!!

350円を入れると25秒でラーメンが出来上がるのだ❗️
私はラーメンの味を『味の宝石箱やぁぁぁ』としか表現できない人なので、ここでは味を詳しく解説できなく申し訳ないが。
美味しかった。

25秒という私の中で最速で出来上がったラーメンは、柔らかい変形しやすいプラスチックの器に入っており、もやし、めんま、ネギ、2枚の叉焼。透明な醤油ベースであろうスープ。

美味しい。
量は子供にはちょうど良く、大人には少し少なめ。
彼女オススメの肉巻きおにぎりは売り切れだったが、ワカメの入ったおむすび。
お腹ぺこぺこぺこぺこぺこぺこ状態の私たちには最高の一杯となった。
夫はラーメンと全部乗せスペシャルうどんも食べた。
海老天、蒲鉾、お肉…そして柚子がはいっており、またこれも美味しい。
私達家族は全部で5杯のラーメンやうどんと、3パックのおにぎりを食べた。
お腹が満たされた子供達3人は、先日納車1週間で擦ったハイエースの後ろで川の字になりYouTubeを見て、大人3人は後藤商店について楽しく話しながらご飯を食べた。

出会ってから2時間未満だ。

彼女は私達を化かすキツネではなく、350円という美味しいラーメンを食べれる後藤商店へ連れて来てくれた。

私達はお互いに名前も名乗らず、連絡先も交換せず、『また偶然お風呂であえたらいいね』と別れた。
気さくな彼女と連絡先を交換し合ったら、きっと楽しくお友達になれただろう。
でも、その夜はその出会いだけで満足だった。
シングルマザーとしての大変さとかを、通りすがりの私に吐き出して、楽しい350円のラーメンを一緒に食べて、それだけできっと彼女も満足だったに違いないと思う。
私も、それだけで大満足だった。

前日は綺麗な皆既月食を見る事ができた。
今日は明るい月だった。

素晴らしい『一期一会』だった。

また、偶然匹見峡やすらぎ温泉で彼女と彼女の子供に会える日を願って。

『気をつけて帰ってね、バイバーイ』

そこから、我が家までは倍の時間を要して帰ったが私も夫も満足だった。
帰り道に、鳥がボディアタックしてきた以外は。


匹見峡やすらぎ温泉と、彼女と後藤商店と、350円のラーメン。
全てにおいてお腹いっぱいな夜となった。

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