きさらぎトンネル①

この話は約30年前に私がまだ自転車競技に熱中していた頃の話です。

毎日70キロ、休日には大会以外の日では毎週200キロの距離を乗って練習していた私は、次の大会を目指して、休日も変わらない練習をしていました。

その日は記憶で思いだすと寒さもだいぶ和らいだとはいえ寒暖差がまだ残る春分から10日前くらいの日だと思います。

大分から狭間を通り庄内から阿蘇野に入る、そこから由布院〜男池を通り、やまなみハイウェイから竹田回りで帰るいつものコースをこの日も変わり無く朝5時に出発しました。

順調に南大分から狭間〜庄内から阿蘇野に入る道を左折した私は更にスピードをあげて、ヒルクライムレースモードばりに軽快にペダルをまわしていました。

そこで気がついた。いつもの田野庄内線を左折せずに、手前の久住庄内線道を左折してしまいました。

しかし私は慌てませんでした。距離にして1キロ前後の左折箇所を間違えましたが、久住庄内線も良くトレーニングをしていたからです。

間違えたけど、気持ちも軽快さも変わらず良い天気に恵まれて爽やかな青空の下で黙々とペダルを回していました。

左折して1時間、ふとこんな道あった?的な道にでました。でましたと言っても、直線路で集落に入り抜けるので間違う事はあるはずがなく、T字路に遭遇しました。

『おかしい…』間違えるはずがないのになというのが私の気持ちでした。

うーむと首を傾げながら右折すると、どんどん山奥に入りましたが、なんとなく通り過ぎる集落に近い感じがしましたので、特に気にする事なくペダルを漕ぐと、軽トラックがギリギリ通る古いトンネルが見えて来ました。

レンガ作りの古い隊道…

存在そのものに違和感が強くて、暫く立ち止まったが、意を決してトンネルに入隊。

僅か30メーターと短いトンネルでしたが出口を見るとボンヤリと暗いモヤがありました。

よくみると、人影でしたがど真ん中に立っていた為、通る際に左側を通ろうとした時に

真ん中に立っ事ないだろうに、邪魔だなと思いつつどんな人なんだろうと、何気に顔を見た瞬間、

陸軍兵帽をかぶっていた。

とっさに成仏されていないのだと思い顔をみた瞬間、顔が黒いモヤがかかっていました。

トンネルを過ぎて直ぐに止まった私は自転車を降りて振り向いた時でした。

真言を昌和しながら近づこうとした瞬間、頭に激痛が走りました。そこから私は意識が朦朧とした中、その陸軍兵隊帽をかぶった兵士へ成仏させようとするのですが、何故かフラフラしながらトンネルの外へ歩きだしました。

近くにバス停乗降所のベンチがありましたので、そこで休んでいると体調も良くなりましたので、近くに昔風の商店が目に入り飲用水と菓子パンがあるだろうと立ち寄ってみました。

『ごめんください…』
何度か声を出してみますが、誰も出てきません。

一応生活雑貨と菓子パン、ドリンク類はあり綺麗に整理していましたので、躊躇なく手に取った私は賞味期限をみると、3月14日と知ると安心したのか、

更に強く

『ごめんください‼️』
と何度も声をかけてみますが、

誰もでてきません。

一旦購入する菓子パンとドリンクを棚に戻してお店を出た私は
周囲を見渡してみました。川があり道路を挟んでそのお店は存在していたのですが、そこである変な様子に気がつきました。

お店にしろ普通でしたら不在な様子と感じるのですが、私は少し焦りを感じました。

トンネルをすぎてから、まるで人の気配を感じないのです。それどころか、自然界から発する音や感覚を感じませんでした。
川のせせらぎ、風の音、鳥の鳴き声どころか虫や動物の存在を感じられないのです。

嫌な予感がする…咄嗟に感じた私はお店に戻り、店にある黒電話(ダイヤル式)をかけてみることにしました。

すると店の土間から居間に上がる出入り口に1人の老婆が座っていました。

『なんだ、おばさん居たんですね、、何度叫んでも出てこないから不在かと思ったよ』

と私は安心するやら溜息まじりに老婆に菓子パンとドリンクを老婆の前に置いていいました。

『おばさん、いくらかな』

二話に続く


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