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『ミッドサマー』暗い重い感想(ネタバレあり)

『ミッドサマー』観ました。
とりあえず、絶対にセラピー映画ではないです。なんでそんなこと言われてたんだ…精神弱ってる人は見ないほうがいい。グロいから…というわけではなくて、光や音の使い方はじめ自然に登場人物に"憑依"させてしまう仕掛けが強烈で、その上での展開なので、精神に来る。

以下ネタバレ。


視聴直後の、ラストシーンにおけるダニースマイルの解釈。
「黄色い三角小屋が燃えるときホルガ村の人々が泣き叫んだのは、ダニーがわざと勝手に台から降りたことで、90年に一度の重要な儀式がすべて台無しになり、ホルガ村への大きな厄災が確約されたから。ダニーは自分を持て余した同行者たち、恋人との関係を壊したホルガ村の人々、全てへの復讐を果たしてものすごくうれしい。ニッコリ」
なぜそう思った?:崖から飛び降りたおじいさんが死に損ねた時もホルガ村の人々が「儀式の失敗を」嘆き悲しんでいたから。

※違うっぽい。
以下、ということをなんとか分かった上での感想。


・最初に飛び降りるおじいさんとおばあさん。実際、死と、死の匂いが色濃くなった老いって本当に怖いし、あの自死はまちがいなく幸福なのだと完全に洗脳してもらって行けるのなら、それはたしかに幸福なのかもしれない、と思った。痛い死に方はしたくないけど、飛び降りなら一瞬だろうし、失敗しても確実にとどめを刺してもらえるし…。約束された、比較的苦しむ時間の短い死。
その一方で、いざ72歳になったとき、どんなに洗脳されても、私は本当に行けるんだろうか、とも思う。
これ違う作品でも思ったな。タイトルが思い出せないが、あるコミューンにおける姥捨山の物語で、絶対に死にたくなかったおばあさんが、それでも子供がコミューンに居られなくなることを恐れて死を選ぶ話だったと思う。子供はそんな気も知らずに、母が死を選んでくれたために自分らが恥をかかずに済んだことを喜ぶんだよな…。
おじいさんとおばあさんの"直前"、表情や声色を思い出そうとする。後悔していたか。恐れていたか。
思い出せない。
死ぬのは怖い。永遠に死なないとしても怖いけど。


・倒れるまで踊り続けるシーン。疲れで目が見えなくなるなか体だけ重く動き続けるの、まさに限界迎えてる時そのもので、スゲー!って興奮しちゃった。
お花がブニョブニョ動いて手足が葉っぱになるあの幻覚もマジでその通りだったりするのかな。お酒ではそんな作用出たことないしそんな話も聞かないし、幻覚ってどんなものか気になったりするけど、あいにくその手のドラッグは全然やる気が出ない。ゲームを初期装備で縛りプレイするのが趣味、みたいなもんです。嘘です素直にビビってる。命がどうでもよくても怖いのも痛いのも普通に嫌だよ!!
最初にドラッグを渡されるシーンで、みんなに迷惑かけないために一緒にキメるダニーが苦しい。その結果一番"迷惑"かけてることも…ダニーがどんなふうにそれを感じたかと思うと…。


・とにかくクリスチャンかわいそう!!!本当にかわいそう。
ディレクターズカットではもっとクリスチャンが下衆らしいけど、本編見ただけだと、「浮気」みたいな日常エリアの善悪で語れないというか、ほぼ味方がいない場所で前後不覚の状態であんな状況に持ち込まれたらそれは自分の命を人質に取られてるようなもので、ひとまず郷に従うしか生き残る術がないのでは…。生き残れなかったけど。
それまでもちょいちょい「クリスチャンの下衆さをアピールする」エピソードが出てくるものの、それぞれの下衆行為に共通する行動原理がないというか露骨に不自然な感じがして、クリスチャンって下衆だよね!って物語の流れになかなか共感できない。最初に見たのが、周りの友達に何言われてもなんだかんだダニーをケアしてしまうクリスチャンだからかな…。

何より、ダニーからクリスチャンへの愛があんまり見えてこなかったことが違和感の原因かもしれない。クリスチャンがダニーの満足行く愛をくれなかったことを責められるほど、ダニーはクリスチャンのこと愛してましたか…?恋人をカウンセラーとして扱うことは、愛ではありません。
どちらかというと私はダニーの基本姿勢に対してちょっと反感があるのかもしれない。愛されるのが本来という振る舞いをしている(ように見える)人物に対する反感。すべての人間は、私自身さえ含めて、愛されないのが当然で、だからこそ愛してもらえたときには自分にできることで返さなければならないのに…。これ八つ当たりかもしれません。

それはそれとして、ダニーもあの不幸があっては理性的な振る舞いなんて無理…私はダニー妹が一番つらい…。遠い記憶だけど、苦しみの渦中で、生と死の価値が完全にひっくり返る感覚は確かに覚えがある※。たぶん同じように経験者はここでダニー妹の最後の時間を追体験して、それがホルガ村での「死は喜び」にうっすらと繋がっていく気がする。
※だとしても、残される姉のことを考えなければならない

・それにしても、他人に対して横からこんなに想像でどうこう言うの、フィクション映画だからできますね。
偉そうに…あなたに一体何がわかるんですか!
本当にその通り。ごめん。


・いきなり最初のシーンに戻るけど、一応誘っただけなのに来ちゃうダニーのリビングでの浮き方たしかにリアルすぎてキツかった。大学生時代の私か?
さっきダニーに厳しいこと書いておいてダニーにも憑依モリモリです。おおダニー…これまでの社会でついに受け入れられることの無かった君には、ホルガ村も一つのブレイクスルーだったのかもしれない。ダニーは利用されてるだけ、みたいにも言われてたけど、何が幸せとか何が不幸とか他人が決めていい話でもないよな、本来は。
正しくない幸せを奪ったところで、代わりの正しい幸せをきちんと与えられる訳でもないのだから。

そうだよ。これは正しい幸せじゃない。
ダニーはこの先、どうあがいても殺される。

なぜ。必死にみんなのご機嫌取りをした、それでも愛されなかった。その罰がこれだ。
こんな仕打ちを受けるほどまでに、私は何をしたんだ?

おしまい。

生きてる いのちって最高♪