ストリートピアノ、初めて弾いてきた。

心の声が「やろう」と言ったらやる、と決めていた

大学病院の定期検査の日
電車を降りて病院行きのバスには乗らず
ストリートピアノのある建物に向かって歩き始める

日傘をさしても痛いほどの日差し

私は何をしているんだろう…
クスッと笑ってしまう

ああ、楽し！
心の声の赴くままに動いてみるということは

心地のよい空間に入った途端吹き出る汗
ベンチに腰掛け落ち着くのを待つ

小さめのグランドピアノのそばで
弾こうかどうしようか迷っている
小2くらいの男の子と
そっと励ますお母さん

（お先にどうぞ  頑張って…）

小さな背中を見守る

きらきらとした音色
僕はピアノが好き
そんな気持ちが伝わってくる

発表会で弾いた曲かしら？
これはいま習っている曲？
聴き覚えのある音楽が次々と
だんだん楽しくなっているのが伝わってくる

たくさん弾いてくれた
どれも拍手！
聴かせてくれてありがとう

私の番だ
持ってきた楽譜は
いきものがかりの「ありがとう」

お母さんに動画撮影をお願いしてみる
ご都合で、あと4分ほどしか居られないとのこと

「ありがとう」は5分超え

消毒液とタオルのあるテーブルにスマホを置く
スタートボタンだけ押していただく

すぐ横に
少年の純粋な目を感じながら
「ありがとう」を弾き始める

ああ、このピアノ
心地のよい音色

手が震えてミスも出る
あれ、変な音触っちゃった
さっきまでLINEで励ましてくれていた
友人の優しい顔が浮かぶ
「大丈夫♪」 

流れを取り戻す
いい感じ

と思ったらまた指が勝手に変なことをする

「気にしない♪」
友人の優しい声が聴こえた気がする

楽しいな

～ありがとう って伝えたくて…
あなたに 伝えたくて…

行き交う人の流れが見える
オープンカフェのBGMが遠くに混ざって聴こえる

穏やかな気持ちで弾き進める
あともう少し

ありがとう
苦しかったことにも
ありがとうと伝える

だから今がある

最後の1音
左手の中指をそっと抜く

録画の停止ボタンを押さなくちゃ

あれ、男の子とお母さん
まだいらっしゃった

男の子が動こうとしなかったみたい

「 もっとピアノ頑張る」

私に伝えたかったんだね
最後まで聴いてくれてありがとう
気持ちを伝えてくれてありがとう

涙がこぼれそうになる

家が電子ピアノだから
生のピアノを弾きたくて
初めて弾きにきたとのこと
素敵な夏休みの一日

知らないおばさんが
間違えても気にしないで
楽しそうに
とっても楽しそうに
ピアノを弾いていた

そんなことを
覚えていてくれたら
嬉しい

タクシーに乗る
「大学病院まで」

最後までお読みいただきありがとうございました。