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こんなときって、どんなとき?忘れ物篇

状況を提示してそのときの行動を問う「こんなとき、どうする?」
しかし、提示される状況は、条件が不足しており行動を決定できないことも少なくない。

たとえば、以下の設問を考えてみよう。

目的地へ向かう途中、忘れ物をしたことに気がついた。
取りに戻ったら指定の時間に間に合わない。どうする?

各条件について考える

どんな忘れ物をした?

一口に「忘れ物」といっても、様々なものが考えられる。
その性質を考えてみると、たとえば「入手性」「必要性」で分類できるだろう。

縦軸「無いと重大な支障が出る/無くてもよい」横軸「新たな入手は不可能/入手が容易」
入手性/必要性マトリックス

入手性が低く、新たな入手は不可能なものとしては、たとえば「自作の作品」「販売期間が終了した前売りチケット (指定の人以外使用不可)」などが考えられる。
逆に、入手が容易なものとしては、「ハンカチ」「充電用のUSBケーブル」などが考えられる。

必要性が高く、無いと重大な支障が出るものの例としては、無いと会場に入れないチケット、提出する資料などの無ければ行った意味が完全に消滅するようなものが挙げられる。
一方の、必要性が低く、無くてもよいものの例としては、「(帰るタイミングでは同居の他の人が居て使わずに入れる可能性が十分高いときの)家の鍵、「(余計な判断を減らすために何も考えず持っていくようにしているが、今日は雨が降る可能性が十分低いときの)折り畳み傘」などが挙げられる。

「指定の時間」の性質と、どのくらい遅れそうか

単に「指定の時間」に「間に合わない」といっても、その性質は様々なものが考えられる。

まず、指定の時間に間に合わなかったときの影響を考えてみよう。例えば以下の例が考えられる。

  • 修士論文の提出締切

    • 間に合わないと卒業が1年(以上)遅くなる、就職の内定が取り消しになるなどの重大な影響が生じる。1秒たりとも遅れることは許されない。

  • ライブの開演時間

    • (別の公演や円盤などはある可能性はあるものの)その公演に行ける機会はこれを逃すともう二度とない。多少遅れても、その分が見られないだけで途中から入ることができる。

  • 映画の上映時間

    • 事前にチケットを買っていないのであれば、別の回や別の日でもいいことが多い。

    • 前後の予定の関係でその回でないといけない、という可能性も考えられる。

    • 単発の上映会や上映期間の最後など、代替が効かないケースも考えられる。

  • 電車の発車時間

    • 一口に「電車」といっても、以下の場合など様々な場合が考えられる。

      • 都会の昼間で、数分~十数分程度で次の電車が来る場合

      • 電車の間隔が数時間あるタイプの路線の場合

      • 終電の場合

      • 有料の指定席の場合

  • デートの待ち合わせ

    • 相手に連絡することで、多少はダメージを減らせる可能性がある。

    • 映画やショーの時間など、遅れが許されない事情がある可能性に注意。

  • レンタルスペースの利用開始時間

    • 遅れた分利用可能な時間が減る。それによるダメージはまた事情に応じて考える。

さらに、「間に合わない」といっても、具体的にどのくらい遅れるかの可能性が数秒から無限まで考えられる。
「取りに戻ったら間に合わない」という条件はあるが、「取りに戻らなければ間に合う」という条件は無いことにも注意したい。
大きく分けると、以下に分けられるだろう。

  • 遅れにより、目的の全部を損なう場合

    • 1秒でも遅れると受理されない修士論文の提出締切など

    • 数時間などの大きな遅れが発生し、到着する頃には目的のイベントなどが終わってしまっている場合

  • 遅れにより、目的の一部を損なう場合

    • 遅れた分、自由に行動できる時間が減る場合

    • 遅れた分、ライブなどの冒頭を見られない場合

主な取りうる行動

取りうる行動の例としては、たとえば以下が考えられる。
どれを行うのかが適切かは、状況や価値観などによって変わってくるだろう。

  • 取りに戻る

    • 取りに戻らなければ間に合うかにかかわらず、戻ることで到着が予定より遅れることはほぼ避けられないだろう。その結果、関係先への連絡や予定の再構築などが要求される可能性がある。

  • 代替品を調達する

    • 道中の店で買うなど、戻るよりは時間がかからない方法で調達する。忘れなければ買わなくてよかったはずの物を買うことで、余計な出費が発生することになるかもしれない。どうせ短期間で消費するものであれば、余計な出費にはならないか、(いつもの店よりは割高な場合など)余計の度合いが抑えられるかもしれない。

  • 代替手段を取る

    • 忘れたものを使ってやろうとしていたことを、無くてもできるような方法に切り替える。たとえば、発表に使う予定の資料を忘れてしまったため、発表の内容を計画していた内容から変えてごまかす、というケースなどが考えられる。また、試験によっては、受験票を忘れた場合の救済措置が用意されていることがある。

  • 計画を中止する

    • 忘れたものが必要で、取りに戻るのがコストと利得のバランスなどを考慮した結果良い手段でないと考えられる場合など、やろうとしたことを中止する場面もあるだろう。たとえば、ライブのチケットを忘れてしまい、取りに戻ったら間に合わず、当日券なし、本人確認があるので転売屋から買っても無効、のような場合は、残念ながらその公演は諦めざるを得ないかもしれない。

  • 計画を延期する

    • 「計画を中止する」の条件に似ているが、実行の機会が定期的にあり、遅らせるデメリットが十分少ない場合は、無理に今回の機会でやろうと考えずに延期してもいいかもしれない。たとえば、行きがけにゴミ出しをしようと思っていたが出すゴミを忘れてしまった、などの場合が考えられる。

具体例

今回の設問の条件を満たす状況の例をいくつか考えてみた。

例 1

塾に行くために家から駅に来たが、
財布もカード類 (交通系ICカード、クレジットカード、キャッシュカード、
定期券、回数券など) も忘れて持っていないことに気がついた。
財布以外でお金を持っているということも無い。
家から駅までは10分くらい、電車の間隔は15分くらいで、
忘れ物が無ければ、塾に開始時間の15分前に着くタイミングである。
乗ろうとしている電車は1種類で、快速に乗れば早く着くなどは無い。
電車は平常通り運行しており、天候やその他の自然の状況も障害にならない。

お金もカードも持っていないため、このままでは電車に乗ることができない。
よって、一旦取りに帰るしかないだろう。

連絡手段があれば、塾に連絡して遅れることを伝えるといい可能性がある。
ただし、開始時間から居ないといけないタイプの塾ではなく、決まった時間の範囲のうち適当な時間に来て課題をやり、終わったら帰れるタイプの塾である場合など、連絡をするメリットが薄い可能性も考えられる。

また、家に居る(親などの)協力者に連絡し、必要なものを持ってきてもらう、という選択肢もあるかもしれない。
ただし、そうすると協力者にわざわざ着替えて出てきてもらうことになり、その分手間をかけさせてしまうことになる。

また、スマホに設定済みの銀行アプリが入っており、駅に対応ATMがある場合、これらを用いてお金を引き出し、電車に乗ることができるかもしれない。
しかし、スマホが電池切れ、ATMや銀行がメンテナンス中、暗証番号を忘れた、口座の残高不足など、この条件を満たしてもお金を引き出すことができない可能性もある。

そもそも、最初の設問では「財布もカード類も持っていない」という条件はあるが、「電車に乗れない」とは言っていない。
スマホやスマートウォッチを持っており、それに交通系ICカードの機能が入っていて有効化されていれば、それを用いて普通に電車に乗れる可能性がある。
なお、この場合も、財布を忘れているので「忘れ物をした」という条件は満たす。

例 2

商談のために日本 (東京) からアメリカ (ニューヨーク) にやってきたが、
そこで使う予定の製品サンプルを日本のオフィスに忘れてきてしまった。
商談の予定までは残り12時間。

軽くググった結果、東京からニューヨークまで飛行機で13時間くらいかかるようである。
商談の予定までは残り12時間なので、一旦取りに戻るのはもとより、協力者を呼んで届けてもらうのも間に合わなそうである。

選択肢の一つとして、商談先に商談のリスケをお願いすることがある。
ただし、断られるかもしれないし、こちら側のミスでリスケをお願いすることにより印象が悪くなる可能性がある。

また、今から連絡をして持ってきてもらうのは間に合わなくても、既にオフィス側で忘れ物があることに気付き、届けに行く協力者が間に合うタイミングで出発している可能性も考えられ、確認したほうがいいだろう。

さらに、「製品サンプル」の性質によっても適切な行動が変わってくる可能性がある。
動きが大事であり、材質 (直接触れること) はあまり大事ではない場合、日本のオフィスとリモート会議を繋いでサンプルを見せることで十分な効果が得られるかもしれない。
カードや本などであれば、データだけをもらって現地で印刷などをして作れるかもしれない。
それ以外の装置などであっても、内容によっては現地で作れるかもしれない。
なお、リモート会議 (インターネットへの接続) ができるのか、ネットワークは使えないがスタンドアロンのデバイスでの動画の再生はできるのか、情報機器の持ち込みは一切禁止なのかなど、商談を行う環境も考慮したほうがよい可能性がある。

例 3

うっかり寝すぎてしまい、待ち合わせの時間に約1時間遅れてしまいそうだ。
慌てて準備して家を出た。
しかし、家のドアに鍵をかけようとして、鍵を忘れてしまったことに気がついた。
この家ではスマートロックなどは導入しておらず、鍵を用いずに鍵をかけることはできない。
また、自分以外の同居人は家におらず、しばらく (数時間以上) 帰ってこない予定だ。
鍵があるはずの場所はわかっており、服装も特に不便なものではないので、
1分あれば鍵を取って玄関に戻ってこられるだろう。

取りに戻らなくても間に合わない場合の例である。
この場合は、家を出た直後に気付いており、約1時間の遅刻がさらに1分伸びるかどうかという大差ない状況なので、鍵を取りに戻ったほうが良さそうである。

ただし、それでも必ずしも鍵を取りに戻ったほうが良いとはいえない。
たとえば、「x 分遅れたら 10**(0.1 x) 円の罰金を払う」というルールを運用しているかもしれない。
このルールに従うと、60分遅れた場合の罰金は100万円、61分遅れた場合の罰金は約126万円となり、1分の遅れで約26万円の追加出費が発生する。
この場合、追加の1分が無くても100万円を請求されてしまうため、いっそのことバックレて「遅れ」自体をなくしてしまったほうが有利かもしれない。(運用中の他のルールにもよるだろう)
また、鍵をかけない人が多いタイプの田舎である、用がある部屋を指定して呼び出さないと開かないタイプのエントランスがあるマンション内であるなど、鍵をかけないリスクが十分低い場合も、少しでも遅れを減らすために鍵をかけずにそのまま行く、というのも現実的になってくる可能性がある。
ただし、鍵を持たずに出かけることで、自分が帰る前に同居人が帰って鍵をかけ、家に入れなくなるというリスクにも注意したい。

また、その1分の差で電車に乗り遅れてしまい、大きな差に繋がる、という可能性もあるかもしれない。
映画の開始時間などの重要な制約があるかなども考慮に入れるべきだろう。

結論

今回の設問

目的地へ向かう途中、忘れ物をしたことに気がついた。
取りに戻ったら指定の時間に間に合わない。どうする?

への解答は、これだけでは状況が定まらず、かつ状況によって取るべき行動が変わるため、以下のものがいいだろう。

状況を考え、適切と思える行動をする。

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