私の青春とミスタードーナツ

大学生の時、ロッド・スチュアートのライブのチケットが何枚か余ってるんだけど行かない?と友人から誘いが来た。同じ英語学科のちょっとお気に入りのA君も行くらしい。洋楽好きの私は…こんな最高なイベントないじゃん!二つ返事で承諾した。当日は生憎の雨だったけれど、心の中では雨なんか降ってはいなかった。A君と待ち合わせて、会場の武道館までは二人きりだったのだ。始まる前に何か食べようと歩いていたら、お堀のそばでミスタードーナツを見付けた。店の中に入ると夕方の店内は人で溢れていた。A君の食べたいドーナツを聞き、席を取ってもらう代わりに、私はカウンターで2人分のドーナツとアイスカフェオレを注文した。トレイを持ち上げゆっくりと歩き出したその瞬間…ガシャン!!!誰かが勢いよく私にぶつかった…トレイを見ると、グラスは倒れ、こぼれたカフェオレで水浸しの滅茶苦茶になっていた。周りを見回しても人が多くて、誰がぶつかったのか…もう分からなかった。頭が真っ白になり慌ててカウンターに引き返した。「すみません、人がぶつかって来て…」悲しくて泣きそうになった。中にいた女性の店員さんは黙ってさっとトレイを下げた。え、何、どうするの?…その店員さんは手際よく、全く同じドーナツとアイスカフェオレを用意して、私に差し出してくれたのだった…気持ちがほわっと温かく柔らかくなるのを感じた。「ほんとに……有難うございます!」大きな声でお礼を言って、A君の待つ席へと再びゆっくりと歩き出した。「ねぇ聞いて!今ね…」…ずっと昔の話、そんなこともあったっけな…。私の青春とミスタードーナツ。昔も今も変わらない味、思い出の味、大好きな味なのだ。

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