生瀬さんとのいちにち

待ち合わせ場所に着いたらすでに生瀬さんは車の中だった。マスクはつけていなかった。想像していた顔とは違っていたけれどなんとなくしっくりきて、服はTシャツとジーパンでその年代の人のそれという感じで、いつものスーツとイメージが違って、筋肉があってガタイが良いのに力の抜けた具合がなんともいえなくて、後ろ姿をすこし眺めながら車に乗る。

車内にはCDが何枚かあって。笑
「歌うんじゃなかったんですか」って言ったら、「俺の歌ずっと聞かせたら耳障りでしょ」って笑って、楽しそうに私の学生時代くらいの曲を流してて、懐かしいって言いながら爆笑して。

とりあえず隣県に向かいましょうかということで出発をして、わたしはいつマスクを外そうか問題が頭の中でチラチラと。

仕事の話やらプライベートなことを色々話してたら、生瀬さんが、「普段はカバンあんまり使わないくせに今日は持つものがあったから昨日の休みに買った」と、ショルダーバッグを見せてくれて。「それは大体どのくらいの長さが正解なのかと店員さんにも聞いたところ短めに答えられたけど本当に合っているのか」と、わたしはそれがおかしくて、生瀬さんは一日の間に何度かネタのようにそれを会話に挟み込んできて。

海の方に向かうと「夏休み何度か来ているだろうから水族館は行かないよね」と。
それでも生瀬さんと行きたいと思って、「何度か行ってるけど行きたいです、行きましょう」って答えたら連れて行ってくれました。

歩いている最中に、すれ違うひとのバッグの長さに反応している生瀬さんがかわいかった。

生瀬さんはそんなに魚のこと知っているわけでもなく、側にくっついてああだこうだ言うわけでもなく、ちょっと離れたところにいるかと思えばくっつかない程度の近くにいたり、たぶんお互い自由に散策をして、なんていうんだろう、へんな下心的なものを一切感じることがなかった。

「こんなに窮屈な水槽の中でいろんな人に見られたら俺だったらあの魚みたいに端っこでじっとしてる」と笑いながら言った生瀬さんが、
「ショーがあるよ」と。そのショーまで30分くらいあって、生瀬さん、1巡で疲れただろうに水族館2巡してくれて。笑

ショーを見ながらアイスコーヒーを飲もうと買ってくれて、いざマスクを外す時が来たんですけれども、生瀬さんは直視をしてこない。なんなら、ショーの時ベンチに座る時も、わたしと生瀬さんの間には人がひとり入れるくらいの距離がある。


前から思ってたけど、仕事中もだけど、生瀬さんとそんなに目が合ったことがない。そらされてるのかなあ?と思うくらいに。

ショーの最中もじっとして前を見ているから、もしかして楽しくないかなあ?暑いしなあ、とすこし不安になってショーと生瀬さんを交互に眺めていて、終わる頃にわたしが拍手をしたら、生瀬さんもにこにこと拍手をして

「Tシャツが汗でびしょびしょ」と笑いながら言われて見たら確かにびしょびしょで、じっと前を見ていたのはそのせいなのかもしれないな、と笑ってしまった

それからペンギンを見に行こうとなったけど、外はやっぱり暑くて。「暑いから館内にいましょう」と言ったけど、「よし!行こう笑!」って暑さにげんなりしつつ笑いながら言ってくれて、わたしがしばらくペンギンを眺めている間に得た知識でペンギンクイズを出してくれたりして、当然生瀬さんは答えを知っていて、外れると嬉しそうにされて、
なぜだかこのとき、なんかすごく楽しいなあ、って思った。

水族館を出てご飯を食べに行こうかってなって、生瀬さんは本来肉派なんだけれども、海に来たし魚を食べようって、

テーブル席に向かい合うんじゃなくて、海に面したカウンターみたいなテーブルに隣同士で座ることになって、波に揺れる鳥たちを眺めながらお喋りして海鮮丼を食べて

「ゆっくり急がないで食べて」「残しても大丈夫」って先回りして言ってくれて、たぶんわたしの食べ終わるペースに合わせて食べてくれて、
なんならお刺身も少しわけてくれた。笑

食べ終わったら帰る時間になって、なんか寂しくなって、でもそんなの言えないから

駐車場まで歩こうとしたら、建物の中で休んで待っててって。元夫と出かけてた時はいつもわたしが車を取りに行ってたから、こういう気遣いをしてもらえたのはとても新鮮で。

帰りの車内でくだらない話のあとに子供の話になって、「mhkさんがしっかり頑張ってきたからだよ」って言葉をかけてくれて涙が出てしまった。なんか涙が止まらなくなっちゃって、そしたら生瀬さんが笑ってて、泣き止ませようとなんとか話題を変えようとしている姿にまた笑うのに涙が出る。

お土産買うの忘れてたねってSAに寄ることに。

前日の夜に生瀬さんに話の流れで「明日はお財布を持ってこないこと、持ってきたとしても小銭まで。」というようなLINEをもらっていた。しかし生瀬さんに食べてほしいお煎餅があって買って渡したときに、「いいのに!」っていうやりとりがあって、そのときわたしの体勢が少し崩れて、後ろから支えられるような格好になってドキドキした。

歩いている時とか水族館眺めてる時とか距離があるのに、水族館のチケットやアイスコーヒーを手渡してくれる時になんとなく手が触れるのが嬉しかった。暑いところで並んでいた時日陰に入れてくれるように背中を押してくれたりとか、そういうのがわたしは本当に嬉しかった。

だんだん最初の待ち合わせ場所が見えてきたときに、「もう着いちゃうねえ」と笑いながら生瀬さんが言って、やっぱりまた寂しくなった。

休みの時とかまた遊べたら仕事帰りにご飯とかでもって言ってくれたのでそれを信じてみたい。

別れてから、今日がとても楽しかったことと、色々のお礼を伝えたら

「自分はジェントルマンなので女性には優しいんです、ただ、誰にでもってことではないので」

っていう冗談めかしたLINEの返信に、今日はすこし浮かれていたい、浮かれててもいいでしょうか。

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