属性メタとフレグランス

ペットが亡くなって、香料を気にする必要が無くなりフレグランスに手を出すようになりました。

生きたムスクの香り
昔フェレットを飼っていたんですが、フェレットというのは独特の獣臭のある生き物なんですね。幼体は臭腺を持っていて、大きくなってもいわゆる麝香(ムスク)のような独特のにおいがします。
ペットロスにより寂しくなってしまい、「フェレットの香りって売ってないのか?」と調べたのがフレグランスに興味を持ったきっかけです。動物の匂いから興味を持ったのはあまりお洒落な理由ではないかもしれない。動物の体臭というのはおそらく様々な有機化合物が混じっていて万人が良いと思うものではなく、残念ながらフェレットの香りなんていうものは市販されていません。
しかし、ジャコウジカからとられる麝香(ムスク)や龍涎香と呼ばれるクジラの結石から抽出したアンバーなど、これの香料には香水に含まれる様々な香りに馴染み持続させる効果があり、こうした動物由来の成分が伝統的によく香水に用いられてきたそうです。
現代の香水には、環境保護上の観点から人工的に作られた類似の精製物として合成ムスクや合成アンバーが用いられています。

ココ・シャネルは知っているけど、別に憧れるほどでもない
なぜ動物の話から入ったかと言うと、逆にそれくらい化粧品の香りに興味を持たなかったんですね。大人になったらやがてディオールやシャネル、ジル・スチュアートを好きになるんだろうと思っていたんですが、全然そんなこともなかったし、やんちゃをして先輩からブルガリやカルバン・クラインを教えてもらうというようなことも特にないまま過ごしてきました。これはたまたまだと思います。あまりにもインターネットをやりすぎて、何かの属性を意識せず一つの文脈をアイデンティティとできないまま、グローバル化の波に漂い、なんとなく大人になってしまったというわけです。
万人受けするフェミニンな香りも、ダンディなおじさん向けの香りも、あって然るべきとは思うけど、特に自分に向けたものではない気がする、あるいは「そこに当てはまって行けない自分が駄目なのかな」とか考えてしまう。性別や年齢、世代のメタがいまいち合わない。

属性がまだついていない香りってないのか
SABONやロクシタンなど、ナチュラル志向のお店で香りの要素の少ないものなら、既存の文脈をあまり意識せずつけられるのでは?とも思い、足を運んだりしました。
これらのお店はハーバル、フローラルグリーン、サボンの系統の選択肢が多く、「いい匂い」ではもちろんあります。その反面、単一の香りの名を冠したものだけでは、なかなか使用するシチュエーションの定まらないところがありました。人に会ったり仕事しに行くには、浮かれている、リラックスしすぎている感じ。
いつもフォーマルでいたいわけではないですが、どうやらつけた時に印象がまとまっているには調香に何らかのコンセプトとそれを意図する設計が必要なようで、お金を払うならやはりそういう少し気の利いた部分に払いたいなと考えるようになりました。また、それをアピールする商品展開やプレゼンテーション、店頭の接客方針も、最終的な体験の良さとして評価したい。

以下、そういうことを踏まえてお店を7つ挙げてみました。
ユニセックス製品をピックしていますが、完成度の高さゆえかどこも女性向け男性向け両方とも充実しています。


1.SHIRO
2019年にリブランディングしてパフュームが充実した国内ブランド。ナチュラル、カジュアルな印象で、あまり表立って香りのスタイリングが意識されない日本の生活様式に合わせた、嫌味のない調香になっていると思います。売り場に学生や男性が多くて、気取らず誰でも入りやすい雰囲気。

オードパルファンよりもパフュームは濃度が濃いんですが、何も考えず1プッシュで丸一日持ち、数時間ごとで香りの変化を楽しめるようユニークな組み合わせになっていて、そういう楽しみ方もあるのかと初めて知りました。


2.ジョーマローン
2008年に日本上陸したイギリスのブランドで、フォーマル全般をカバーする商品展開をしています。今現在(2021/12)とても人気だし、定番なのかもしれない。いつ店舗に行っても老若男女で混んでいて入れません。

はっきりしたテーマ性と極限まで絞った香りの組み合わせになっていますが、どれもフルーツやスパイスなど「美味しそう」な要素を自然に品よく入れているのがポイントで、人と合うときに食欲を邪魔しないとか、人の健康的な欲求に寄り添うようなところがあります。


3.TOM FORD トム・フォード
2012年からデパコス化粧品を手掛けるファッションブランド。とてもモードで、フレグランスも高級感がある。価格はとても高め。

ネロリ・ポルトフィーノは圧倒的な清潔感と温かい余韻があり、肌の匂いと混じると雰囲気に一気に厚みが出ます。自分の汗の匂いってこんなに素敵だったっけ、と錯覚しそうになる。マイナーチェンジの製品がいくつかあってどれも完成度が高く、どれかは合うものが見つかると思う。
他の香りもどれもしっかりと型があるんですが、性別や年齢にはまらない余地を残した包容力があります。


4.Aesop
日本初旗艦店は2010年。オーストラリアのボタニカル化粧品メーカーで、ウッディノートを研究し尽くしていると思う。男性客が大半。
針葉樹、折った枝、湿った苔、焚火のヤニ、普通なら避けてしまいそうな飼い慣らされない森の匂いをうまく抽出しつつ、肌なじみよくフレグランスとして構成していて、使うと「現代的な自然体の人」という感じになる。

ボタニカル、ハーバルの系統なのにパッケージに木や花が一切描かれておらず、文字だけなのが逆にプレゼンスを高めている。
エレミアは濡れたコンクリートの香りと書いてあって本当に建設現場の香りがします。雨の日が好きなら妙に落ち着くと思う。


5.ディプティック
2013年に日本に旗艦店出店したフランスのお店。
世の中には色々な石鹸があり、誰もが子供の頃から使っていて、石鹸の香りの記憶を人それぞれ持っており、清潔感に結びついていると思うが、そのイメージをうまく生かして製品化しているようなところがある。

いちじくやチュベローズをメインにしたものなど、面白みのある素材がそれぞれ主題になっていて楽しめるんですが、根底にはどれも「肌の匂い」としか言えないようなムスクやアデルハイドなどの清潔な余韻があります。


6.アクアディパルマ
もともと輸入品があったが、2021年に店舗が出店したもよう。イタリアらしいシトラスのバリエーションが豊富で、シトラスからスパイス、ムスクへといった順番のノートに普遍的なバランスの良さがある。

オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリンなど色々な柑橘類がありますが、それぞれの素材に奥行きを持たせて温かくソフトに成立させています。緊張感や格好つけなく使える感じなのに、カジュアルにもフォーマルにもまとまっているように感じられて不思議。


7.ZARA
ファストファッションの服屋。ジョー・マローン氏プロデュースの香水ラインがある。香調が単一で価格も手頃、商品展開も多いため、試供したらその場でぱっと買ってしまいそうになる。

ドラッグストア以外でも、カジュアルに消費して飽きたら捨てるという、ファストファッションのノリで豊富なバリエーションを試す楽しみ方ができるのは結構面白いのではないかと思う。マスプロダクションの暴力。


等、いいなと思った製品を書いてみましたが、ただ日本に入ってきて日が浅いだけで、若い人向けとして最近人気な製品を並べているだけの感じもする。そのうちこれらの製品も2010年代、2020年代の流行で、30年後には50代向けなんて文脈になるのかもしれません。あまり化粧品に詳しいわけではないのに書いてしまいました。
思っていたよりフレグランスは理詰めでデザインされていて、少なくとも柔軟剤よりは制御しやすい使い方ができるようになっています。香水が苦手という人でも店頭で色々教えてもらうと「自分は香りの中のどういう要素が苦手なのか?好きに思えることがあるのか?」ということを体系的に知るいい機会になるかもしれない。
人が何を使っているのかも良ければ聞いてみたい。


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