さよなら、ぼくのひだりうで。(投げ銭)

なあんだ。そう考えると怖くないじゃないか。

右腕は、ボール投げたり、えんぴつを持ったり、 フェレットを握ったり、握ったフェレットを投げたりしたもんなあ。

うんうん。

頭は、ヘディングをしたり、帽子を被ったり、天井を突き抜けたりしたしなあ。

うんうん。

胴体は、愛しい人を受け止めたり、Tシャツやポロシャツを着たり、リンボーで無理したり、よく使ったなあ。

うんうん。

両足は、独特なステップでみんなを魅了したり、ラクダから落ちないように背中をがっちり挟みこんだり、足湯に先頭切って入ってくれたり、何よりこの雪山を登るのに頑張ってくれたなあ。

うんうんうん。

じゃあ、左腕は何してくれたよ。生まれてこのかた使った事ないんじゃないか?散歩のとき腰に添えてた?いらねえなあ。フリースローの時ボールに添えてた?いらねえなあ。ハンバーグの空気抜くときの壁がわりにしてた?いらねえなあ。

うん。うん。

ぼくは、クレバスに落ち、もう動く事が無い左腕に語りかけていた。

さよなら、ぼくのひだりうで。

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