タイトル「はじめまして。」 (投げ銭)

あーああ、コーヒーこぼしちゃったよ。本に黒いシミが・・・しまったなあ、人に借りた奴なのに。どうしよう。そうだ、黒には白だな。牛乳に浸してみよう。牛乳、牛乳・・・と、あった。四角い容器に移して、そこへ本を投入・・・おお・・・見た目ほぼフレンチトーストじゃないか。どうだろう。いやあだめだ。黒いシミは落ちていない上に全体がしわしわになってなにより臭い。

なんだっけこのにおい。雑巾の生乾きのにおいというか、本を牛乳に浸した直後のにおいというか、まあいい、とりあえずこのにおいをどうにかしないといけないなあ・・・そうだ、牛乳をなかった事にしよう。白には黒だな。墨汁に付ければにおいも取れるかもしれない。墨汁、墨汁・・・と、あった。あるもんだな。四角い容器にうつして、本を投入・・・おお・・・おお・・・・墨汁から引き上げる時の真っ黒い本を出すこの黒魔術感が溜まらないなあ。なんだか悪い事をしてるみたいだ。

ちなみに、人に借りた本にコーヒーこぼして牛乳に浸けたあと墨汁につけているそれとは関係なく、黒魔術感から、悪い事をしてるみたいだ。と言っております。よーししっかりしみ込んだぞ。クンクン。お、さっきの臭みは無くなったぞ。変わって新しい臭みの誕生だ。だめじゃないか。

しまったな、臭みもそうだがなにより真っ黒になってしまった。実は、以前もだれだかに借りた本に醤油のシミをつけてしまった時は、寿司食べながら読んだだろってアイスピックで刺された程度だったが、今回はその比じゃない。このまま本を返したらどうなるのだろう。

「はい、これ面白かったよありがとう。」

「おう。あれ?お前、イカスミパスタ食いながら読んだろ」

これでは済まない。本の状態から察するに、一人分のイカスミパスタのソースではこうはならない。

「はい、これ面白かったよありがとう。」

「おう、あれ?お前んち、呪われてる?」

こっちだ。こっちの方が可能性が高い。人に貸したおむすびころりんが真っ黒になって返ってきたらこう思われる事、必至だ。どうしよう。こうなってしまうともう、謝るしかない。そうだ、なぜこうなってしまったのか、ウソの理由を考えよう。相手が怒れなさそうな奴がいいな。

「これ面白かったよありがとう。」

「おい!真っ黒じゃないか!なんでだ!」

「いや違うんだ聞いてくれ。面白い所に線を引いてったんだけど、一字もあますことなく面白すぎてもう全ページ塗りつぶしちゃったんだ。」

「そっかあ。でも、人の物に線ひくなよ。金返せ。」

「うん。」

だめじゃないか・・・このままじゃおこられちゃうよ・・・どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。

― ガチャ。―

玄関の戸が開く音だ。

― ギィギィギィ。―

廊下を歩く音だ。

ああ、どうしよう。何か言い訳しなきゃ・・・あぁ。

― ガチャ。―

部屋の扉が開く音。

「ご、ごめんね!汚すつもりはなかったんだけど!」

「・・・・・」

「面白い所に線を引いてったら一字もあますことなく面白すぎてもう全ページ塗りつぶしちゃったんだ!」

「・・・・・」

「あと、勝手に借りちゃってごめんね。あと・・・・」

「・・・・・」

「 は じ め ま し て 。」

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