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名鉄全線一日制覇にチャレンジしたら、人間性を見つめ直すことになった話。

突然ですが、名古屋鉄道ってご存知でしょうか。略称は名鉄。大手私鉄のひとつで、路線数も多く距離も長く、営業キロ数で言えば日本で三番目に長い私鉄です。(一位は近鉄、二位は東武)

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便宜上横にしていますが、右上が豊橋、左下が岐阜でそれぞれを結ぶ赤い線が幹線の名古屋本線です。その名古屋本線を軸に多方面に路線が結ばれているのが分かります。名鉄の特徴の一つとして、本線と支線の直通が盛んに行われているということが挙げられます。名古屋駅においても、名古屋本線だけでなく支線への行き先も見られ、初見での利用はなかなかハードルが高いとファンの間では話題です。

そんな名鉄ですが、調べてみると一日で全線を乗りつぶすことができるようなのです。既に色々な方々が旅行記として上げており、成功された方もいらっしゃいます。一見簡単にクリアできそうに見えるのですが、いざダイヤを調べてみるとなかなかに難しく、ゲーム性が非常に高いことが分かりました。そこで、乗りつぶす計画を考えたのが二年前の2019年。初電から終電までずっと乗って何とかゴール出来るというもの。しかし、計画を立てたもののなかなか実行する機会が無く、ずっと放置していました。

そんな中、名鉄が来月にダイヤ改正を実施すると発表しました。最近では終電の繰り上げ等が行われており、名鉄もこれに倣うとするならば今後は一日で全線を乗りつぶすことは不可能なんじゃないかとふと思いました。そして、勢いで航空券を購入してしまったのです。そのプランが果たして本当に正しいものなのかということを。

<おことわり>
実施にあたってはアルコール消毒やマスクの着用など、コロナウイルス対策に最大限配慮し、当日朝に37.5度を超えた場合は取りやめることとしました。検温の結果、基準を下回っており、かつ体調に問題が無いことから計画を実行しております。

0.計画

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2019年に作成した行程をそのまま現在のダイヤで照合すると、ほぼ同じ時間帯で行けることが分かりました。あまりダイヤ改正を行わない名鉄だからこそ、ずいぶん前に作ったルートでも回ることが出来るのですね。名鉄縛りだと絶対クリアできないので、JRと地下鉄の力を借りることになります。

所要時間は18時間43分、乗車本数は40本。行程を見てわかる通り、ずっと乗りっぱなしで、ろくに食事も取れません。また、一本でも逃すと失敗となる仕様で、凡ミスはもちろん輸送障害があってもほぼクリアできない内容です。何通りかあるようですが、中部国際空港スタート、尾張瀬戸ゴールのルートしか私は見つけられませんでした。

1.朝のセントレアから知多半島を攻める

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<5:00 中部国際空港>
誰もいないセントレアの到着ロビー。前日に飛行機入りしており、カプセルホテルに泊まりました。到着便が9時頃までないため、閑散としています。

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今日使うことになる一日乗車券。3200円となかなかの額ですが、範囲が広いため妥当な金額です。ちなみに、名鉄には特急などの優等列車に特別車という座席指定の車両を連結していて、この一日乗車券では10時から16時の間に限り、別料金を払うことなく利用できる特典がついています。ただ、座席指定ができないので、その席のミューチケット(指定券)を持っている方が来たら席を譲るという仕様。あくまで空席を利用できるものです。

①5:24中部国際空港 → 5:47太田川 
 準急 佐屋(神宮前から急行、須ヶ口から普通)

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記念すべき一本目。準急となっていますが、神宮前から急行に変わり、須ヶ口からはさらに普通に変わります。名鉄ではよくあることで、種別変更の他にその種別が通過する駅であっても停まる「特別停車」、逆に通過する「特別通過」、編成が長いためドアを開けられない「締切扱い」、それに分割併合が合わさって正にカオスな状況です。放送を聞いていないと本当に分からなくなるレベル。

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②5:49太田川 → 6:33内海 
 急行 内海(知多半田から普通)

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太田川2分乗換。先ほどの準急佐屋ゆきの車内放送で「普通知多半田行きは…」などと言っていて、これは接続しないパターンだなと分かりました。太田川に着いて急いで反対側ホームへ。この内海行きを逃すともうここでゲームオーバーです。

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名鉄の車両は車内に速度が出ます。アニメーションで実際に電車が走っているような描写があって、見てて可愛い。

③6:41内海 → 7:00富貴 
 普通 岐阜(知多半田から急行、神宮前から準急)

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内海まで行って折り返し。右は後に出る特急です。

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④7:06富貴 → 7:14河和 
 普通 河和

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ふと眠気がして、目が覚めると富貴に停車中。慌てて降りました。少しでも寝過ごしたらリカバリできないので、緊張感を持たなくてはいけません。河和ゆきは2両編成。運転士見習が担当していました。朝からキビキビした動作で好感が持てます。頑張れ。

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⑤7:30河和 → 8:02太田川 
 特急 岐阜(河和口締切扱い、巽ヶ丘・南加木屋特別停車)

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一部特別車の特急。いい時間帯を走るので混雑に対応すべく、巽ヶ丘と南加木屋にも特別停車です。そして、先ほど乗ってきた河和ゆき2両を入れ換えて、この特急に増結するという運用。柔軟すぎて頭が追いつきません。

⑥8:05太田川 → 8:13大江 
 急行 岐阜

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最混雑時間帯。降りるのにも苦労しました。太田川では特急が3階に止まるのに対し、乗り換える急行は常滑線なので2階に来るという事実を放送にて知ることに。危うく乗り遅れるところでした。先ほどの特急では太田川を出ると神宮前まで止まらないため、急行に乗り換える必要があるのです。

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⑦⑧8:27大江 → 8:30東名古屋港8:33 → 8:36大江

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スタートを中部国際空港にした理由、そして名鉄全線一日乗りつぶしを困難にさせる理由がここにあります。名鉄築港線といい、この大江から東名古屋港までのわずか一区間だけという短い路線なのですが、工業地帯を走る特色故に運転形態が特殊で、朝は8時台で終わり、あとは夕方と夜に走るだけというものになっています。この路線こそ、計画上頭を悩ませる存在の一つなのです。この8:27発の電車こそ、朝時間帯の最終電車であり、これを逃がすと16:44発までありません。よって、これに乗れたことで難関を一つクリアしたことになります。

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この路線は見どころだらけです。まず、東名古屋港に改札がないため、大江で築港線ホームに降りる前に東名古屋港としての改札が設けられています。(関東で言えば、東京都足立区の東武大師線などで見られます。)

また、運転方式が票券閉塞式という特殊なもので、日本でもごく一部の路線でしか用いられていません。そして、写真のような線路同士が交差するダイヤモンドクロッシングと呼ばれる個所が存在しており、ここを通過する時は独特なジョイント音がします。こんな短い路線なのに、魅力はとてつもなく詰まっています。

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⑨8:41大江 → 8:50金山 
 普通 金山

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これで知多半島部分を完全制覇。いよいよ名古屋本線へ突入します。

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2.やらかしに気付く。そして、立て直しへ。

⑩8:51金山 → 9:03須ヶ口
 
特急 須ヶ口

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レアな存在の須ヶ口ゆき特急。混雑していましたが、名鉄名古屋で殆どが降り、車内はガラガラに。

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⑪9:06須ヶ口 → 9:34弥富
 
普通 弥富

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須ヶ口で弥富ゆきに乗り換えて、早くも11本目。遅れもなくトラブルもなく順調に進んでいるように思えました。

が。車内に掲出されている名鉄路線図を何気なく見ていると、あることに気づきます。計画通りに進んでいくと乗らない区間が生じないか?

当初掲げた計画通りに進んだ体で路線図に色を塗ると以下のようになりました。

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一見すべてオレンジ色に塗られているように思いますが、よく見ると一区間だけグレーのままのところがあります。名古屋本線須ヶ口~名鉄一宮間です。なんで気がつかなかったんだ。2019年の俺はアホなのか、いや、しっかり見直さなかった現代の俺がアホなのか。自分を責めても電車は弥富に向けて走っていきます。ここまで来た以上は、計画を変更しなければならない。弥富までの車中で必死に時刻表とにらめっこすることに。

その結果、笠松から新羽島の竹鼻線・羽島線を最後に回すだけで、何とか全線乗りつぶせることが分かりました。しかし、元々豊橋であった12分の乗換時間が2分になってしまうという条件付き。いくら道中うまく乗り継げても、夕方の豊橋2分乗換が失敗すれば、その時点でゲームオーバーということに。でも、やるしかない。

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⑫9:48弥富 → 9:59津島
 
普通 須ヶ口

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弥富はJRとの共同使用駅。同じホームで乗換ができます。海抜が日本で一番低い駅だそうです。

⑬10:05津島 → 10:37名鉄一宮
 
普通 名鉄一宮

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再び2両編成になりました。

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⑭⑮10:43名鉄一宮 → 10:52玉ノ井11:01 → 11:09名鉄一宮

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奥に見えるのが津島から乗ってきた電車、手前が玉ノ井ゆきです。同じホームに縦列に停車しており、乗り換えがしやすくなっています。

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⑯11:10名鉄一宮 → 11:24名鉄岐阜
 特急 名鉄岐阜

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1分乗換ではあるものの、玉ノ井ゆきホームの向かい側なので心配は無用。左が特急岐阜ゆきです。

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笠松に停車。向かい側には乗る予定だった新羽島ゆきが停まっています。これに乗ってしまうとゲームオーバーとは、ぞっとしますね。

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⑰11:28名鉄岐阜 → 12:03犬山
 普通 犬山

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各務原線に乗り換え。「各務原」の読みは多岐に渡りますが、ここでの読み方は「かかみがはら」です。

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⑱12:12犬山 → 12:43上飯田
 普通 平安通

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犬山では平安通ゆきに乗り換えます。この小牧線では帯の色がピンク色の車両が走っています。地下鉄上飯田線に直通しており、上飯田線がピンクなんですね。

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直通運転といっても、地下鉄上飯田線は上飯田~平安通間の一駅間だけで、その距離なんと800メートル。日本で一番短い地下鉄路線としても知られています。

⑲12:45上飯田 → 13:17犬山
 普通 犬山

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上飯田に到着すると、すぐさま向かい側に到着した犬山ゆきに乗り換えて即リターンします。ここから先は地下鉄になるというのもあるのですが、平安通まで行ってしまうとその時点でゲームオーバーになるというのが大きな理由です。

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⑳13:21犬山 → 13:40新可児
 普通 新可児

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また犬山に戻ってきましたが、今度は御嵩を目指します。まずはじめに新可児ゆきに乗車。

㉑㉒13:44新可児 → 13:55御嵩13:59 → 14:10新可児

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新可児で御嵩ゆきに乗り換え。新可児~御嵩間はワンマン運転なのでここで乗車券をチェックするために中間改札が設けられています。

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御嵩駅は風情がある駅舎。駅係員がいそうですが無人駅で、観光案内所が中に併設されています。

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3.いざ、豊橋地区へ。

㉓14:14新可児 → 14:34犬山
普通 中部国際空港(犬山から急行)

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新可児に到着、犬山へ戻ります。ここで乗ったのが中部国際空港ゆき。普通で中部国際空港とはなかなか時間かかりそうだな、と思いましたが犬山から急行に変わる列車です。

㉔14:37犬山 → 15:48国府
 特急 豊橋

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ここで一気に豊橋方面に抜けていきます。一部特別車の特急で、先頭車は展望席になっています。せっかく特別車が使えるきっぷなので、その権利を行使したいと思います。

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小田急ロマンスカーは二階に運転席がありますが、名鉄は逆なので高い視点での展望が楽しめます。ただ、先述のとおり座席指定ができないので、人が来たら譲らなければならないため、落ち着くこともできず。ただ、名古屋か金山で来なかったら来ないだろうという読みは当たり、国府まで人が来ることはありませんでした。

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㉕㉖16:00国府 → 16:12豊川稲荷16:24 → 16:36国府

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ここで豊川稲荷方面へ。豊川稲荷に着いたら乗ってきた列車で即リターンします。豊川稲荷駅はJR豊川駅に併設しており、JR飯田線を使うことで豊橋に出ることができるのですが、そうすると先ほど降りた国府から豊橋までの間が未乗となってしまうので、ここは国府に戻るルートを選択しました。

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4.頼みの綱、急行豊橋。

㉗16:39国府 → 16:48豊橋
 急行 豊橋

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さて、覚えているでしょうか。今回のチャレンジの最大の難関。
そう。豊橋2分乗換です。

遅延しなければ、まぁ乗り換えが可能であろう乗り換え時間。Twitterで検索すると、名鉄から新幹線へ2分乗換に成功した人がいるとか。もちろん全力疾走するわけにはいかないので、安全を考えて小走り。となると、やはり2分しっかり確保されていないと厳しい。

国府に定時に到着した急行豊橋ゆき。このままであれば、豊橋にも定時で着くであろうと思いがちですが、まだ油断はできません。

この先の伊奈~豊橋間は、実は先ほど出てきたJR飯田線と線路を共用しており、名鉄の路線でありつつ、JR飯田線の駅が途中に2駅あるという珍しい構造となっています。よって、飯田線の遅れが名鉄線に影響することがあり、名鉄の乗りつぶしなのにJRの遅れを気にしなくてはならないという状況になっています。ここから先は完全に運。難なく豊橋に到着してくれるかどうか。幸いにも豊橋では名鉄とJRは共に同じ改札内。よってそのまま新快速に乗り込めば、降りる駅で精算することで対応できます。

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国府を出発した急行豊橋ゆき。次の停車駅である伊奈も定時に着き、駆け込み乗車もなく出発も定時。徐々にスピードを上げ、JR飯田線との共用区間に突入しました。やがて、JR飯田線の下地駅を心地良く通過し、希望が見えてきたその時、前方に低速で運転するよう指示する警戒信号の現示が……。

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ノロノロと進む急行豊橋ゆき。時刻は47分。まだ豊橋のホームすら見えていません。少しすると、前方からJR飯田線の列車がこちらに向かってきます。線路の交換待ちだったようです。

結果、豊橋に到着したのは50分。乗り換えたかった新快速電車はホームから動き出していました。間に合わず。

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㉘16:52豊橋 → 17:10蒲郡
 普通 岐阜(JR東海道本線)

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絶望的な状況。冷静に考えて2分って無理じゃないの。そう思いつつ、隣のホームに停車していた普通岐阜ゆきに飛び乗りました。この後の行程は、蒲郡まで移動し、蒲郡から17:11発の名鉄蒲郡線に乗車することになっていますが、この普通列車は蒲郡に17:10着。今度はJRと名鉄で改札も違うし、そもそもJR分の運賃の精算も必要となると1分乗換は99%不可能です。とはいえ、蒲郡線が何らかの理由で遅れている場合があるかもしれないという、少しの可能性があるので一応蒲郡へ。

しかし、この普通列車は豊橋を2分遅れて出発。蒲郡には17:11に到着し、JRのホームから蒲郡線の列車が見えたかと思うと、そのまま走り去ってしまいました。

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この時間から、一本後(30分後)の蒲郡線に乗って行程を組み替えたとしても、残りの路線を制覇するルートは見つからず、結果的にこの蒲郡でゲームオーバーを迎えてしまいました。

5.そもそも

そもそも、元の行程が完全に乗りつぶしができないものとなっていたにも関わらず、その確認を怠ったことが大きな問題であり、「なるようになる」という考え方が裏目に出た形となりました。無計画で楽しむ旅行ならまだしも、名鉄という緻密なダイヤで動いている路線を制覇するためには完全な計画が必須です。その場で修正してどうにかなるものではありません。しっかりと精査し、必要に応じて緊急時の別ルートも用意する重要性を強く感じました。

実際、蒲郡から再度行程を立てるとき、どこか一路線を犠牲にすると、その路線以外はすべて乗れる行程になることから、名鉄乗りつぶしの奥深さを感じました。ダイヤ改正の内容を見る限り、完全に乗りつぶしが不可能となったわけでもなさそうなので、新ダイヤでルートを見つけ、いずれリベンジを果たしたいと思います。ちなみに、近鉄(ケーブル等を除く)と東武(東上含む)においても一日で全線乗りつぶしが可能だそうなので、まず名鉄を制覇し、いずれは挑んでみたいです。

6.実は

今回計画したルートにおいて、ミスに気づき、羽島線・竹鼻線の後回しで回れると判断したわけですが、実はあのまま当初の計画通り、笠松で新羽島を目指していてもゴールできていたことが分かりました。この場合の運命の分かれ道は犬山から乗った特急豊橋ゆきであり、名鉄名古屋で降りて先に名鉄一宮まで乗ってから国府を目指すと、豊橋の乗換時間も10分以上出来、余裕で尾張瀬戸までゴールできたそうです。

逆に、実際ルートで豊橋2分乗換に成功していた場合、赤池の後に金山・笠松を経由して新羽島へたどり着きますが、そのまま笠松へ戻って尾張瀬戸を目指すのは不可能なので、新羽島から岐阜羽島へ行き、東海道新幹線上り最終こだま号を利用して名古屋へ出るというルートを取ることになっていました。東海道本線ならまだしも、新幹線を使うというのは綺麗なルートでは無いような気もするので、結果的に失敗して良かったのかも、と負け惜しみを書いて終わりたいと思います。


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