親知らずを抜いた時の話

歳をとって「虫歯を痛がっている時間は、虫歯を治療する時間に比べて、大きな無駄である。そしてやるべき事がある時に限って虫歯は痛くなる」事を理解したため、今回は「やや痛」状態である親知らずを、割と素直に抜いてきた。

近くの歯科医から紹介状を貰って、市立病院の口腔外科に行く。
レントゲンを取って、諸々検査した後に抜歯する日を決定。
それが今日。

職場を15時に抜けて病院に行く。

「ちょっと風邪ひいたみたいなんですけど」
「どうしますか、今日やってしまいますか」
「はい。やっちゃってください」

歯茎に注射を打たれ、椅子が倒れると、
鼻と口の部分だけ開いた大きな紙を被せられる。
「これ噛んでてください」っつってでかい消しゴムみたいのを噛ませられる。

その後、口の中をゴリゴリと良い様に陵辱される。
最初は「目隠ししてボールギャング噛まされるのってこんな感じかしらん」とか下らない事を考えていたが、歯が割られる時に焦げる匂いが恐ろしい。
「この消しゴムみたいのが、何かの拍子に外れて口を閉じたらやべーなー」とか「今舌出したら死ねる」とか思う。

奥歯はあんなに小さいのに、歯科医と助手は15分くらい格闘している。「そろそろ飽きてきたなー。いい加減、俺の歯なんだから、素直に抜けてもいいんじゃないか」とか思っていると、やっと縫合される。結構細かく縫ってもらったっぽい。

トータルタイムで30分くらい。抜けた歯は白くて綺麗だった。

麻酔が効いている間に、会社に戻る。
結構仕事が残っていて、やっつけている間に、徐々に口内の感覚が戻ってくる。

今は歯を抜く前と同じくらいの痛さになっている。何となく徒労感がある。

以下追記

親知らずを抜いた跡は、歯茎に穴が開いている。
最初は縫合したてなので、糸に舌で触れたりする。
口内がフランケンシュタインぽい。
確か、1週間くらいで抜歯をした。

歯科医からは、「汚れが穴に溜まりやすいので、穴も歯磨きしてください。血餅ができたら、歯ブラシをあてても、強く擦らなければ大丈夫です」と言われる。
丁度、ご飯粒ひとつくらいの穴が残って、案の定食後に何か詰まってイライラした。

恐る恐る歯磨きをする。最初は痛かったが、数日で慣れる。
穴は時間がかかったか、やがて小さくなって塞がった。

今では、親知らずの事を思い出す事はないけれど、あのゴリっと歯を抜かれる感覚と、それに起因して頭蓋骨とか人体切断とか拷問とか色んな事を想起して、自分の身体が客観的には死体と同じだと実感したのは、一生忘れないと思う。

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