催眠に信頼は必要なのか?

今日も真面目な話題です
催眠音声の導入とか、対面催眠のワークショップなどでの前説で、こんな説明がよくされているの、聞いたことがないでしょうか

「催眠は、相手への信頼が無いと掛かりません」
「貴方が望まない催眠暗示は、貴方の潜在意識がブロックして掛かりません」

わたしも何度となくこの言葉を聞いてきました
でも……なにか違和感を覚えませんか?
だって、人間の心というのは、往々にして思い通りにならないものなのです
ダイエットしたいのにお菓子を食べちゃう、お仕事しなきゃいけないのについだらだらしちゃう、催眠暗示を掛けた時に、催眠者の意図と被催眠者の解釈が違って、意図しない状態になってしまう……
あの孔子ですら、70歳になってはじめて、心のままの行動と道徳が一致すると説いています
そんな勝手気ままな心の力によって為される催眠が、そんなロボットみたいな判定をするのでしょうか
催眠に信頼というのは本当に必要なんでしょうか

今回も具体例をあげて、一緒に考えていきましょう

Aさんはつい最近、初めて催眠音声で脳イキを覚えました
カウントダウンされて気持ち良いのが強くなっていく感覚
ゼロ、と言葉とともに、快感が弾けて頭が真っ白、体が痙攣していく感覚……
どれも新鮮で、すごく気持ちよくて、幸せでした
解除音声を聞いてからも、カウントダウンをどこかで見たり聞いたりするたびに、少しゾクゾクっとする感覚がありました

それから少し経った後、Aさんは、催眠ワークショップでBさんという方に催眠をかけてもらうことになりました
催眠ワークショップは、プロの催眠術師指導のもと、参加者同士で催眠術を掛け合うというイベントです
当然ながら不健全な催眠暗示は禁止されています
Aさんはそこの常連でしたが、Bさんは初参加でした

Bさんは正直な所そこまで催眠が上手でないこと、また事前の会話から、Bさんとは性格が合わないなぁと思っていたため、Aさんは心のどこかで、Bさんの催眠には掛からないだろうなと思っていました

ところが、Bさんの催眠のカウントダウンのリズムや声色が、偶然にも、Aさんが気持ちよくなった催眠音声のものと瓜二つだったのです
Aさんは望んではいないのに、勝手に心が気持ちよくなってくるのを感じます
体がビクビクと震え、声が漏れ、我慢しようとしても快感が勝手に押し寄せてきます
BさんはそんなAさんの様子に気づき……面白がって調子に乗ってしまいます
さらに不幸なことに、この2人の様子に気づく人は近くに誰もいませんでした

そしてBさんは、Aさんの耳元でこう告げたのでした
「3、2、1……ゼロ
 イケ
 イーケ
 イーケ…♡」
Aさんは、Bさんの暗示の通りイってしまいました……

あなたなら、こんなAさんに、どんな声を掛けますか?
まさか間違っても「望まない催眠暗示は効かないんだから、貴方は心のどこかで、Bさんにイカされることを望んでいたんですね」なんて言わないでしょう
「Bさんの催眠に掛かったんだから、Bさんのことを潜在意識では信頼していたんですね」とも言わないでしょう

わたしだったら、こう声を掛けます
「すごく辛かったですね……催眠は人間の心の働きなので、自らが望まない暗示にかかることもあるし、信用していない相手の暗示がかかることもあるんです。まずは、望まない暗示が取り除かれるまで、あらゆる催眠から距離を取ることをおすすめします。時間が癒やしてくれますよ」

今回の例は、もちろん誰にでも・いつでも当てはまる事ではありません
でも、催眠に掛かる人の中には、ごくたまに、催眠への感度が非常に高く、かつ、それを自身でコントロールできない(と思い込んでしまっている)方が存在します
そういう方は、このようなトラブルに見舞われる場合があるのです

それではこのようなトラブルを、どうすれば未然に防げたのでしょうか
完全に防ぐことは無理だとしても、可能性を下げることはできなかったのでしょうか

一つは言うまでもなく管理の問題です
健全をうたう催眠のワークショップで、誰の目もなくこのような事態を起こしてしまっているのは、管理責任を問われても仕方がないでしょう
(当然ですが今回の例は単なる例であり、実在する団体を批判しているものではありません)

ですが外部的なものではなく、自身でなにか、身を守る手段はないでしょうか
実は、答えは始めから出ています

「催眠は、相手への信頼が無いと掛かりません」
「貴方が望まない催眠暗示は、貴方の潜在意識がブロックして掛かりません」 と、事前に知っておくこと、です

勘の良い方はピンと来たかもしれません
これらの言説は、催眠の現象を表す事実なのではなく、これ自身が最重要な催眠暗示 なのです

この暗示がAさんに完全に入った状態であれば、Bさんのカウントダウンの途中で自ら催眠解除できたかもしれません
またそもそも、Bさんを信頼していないため、いくら同じリズムや声色であったとしても、効かなかったかもしれません
もちろんそれでも、100%事故を防ぐことは難しいですが、確実に、この暗示はAさん自身を守るための防具になります。

というわけで、改めて結論です。
催眠に信頼は "必要" です。
ですがそれは、信頼が無いと催眠に掛からない、という意味ではなく、信頼の無い・望まない催眠による不幸なトラブルを避けるために、催眠に関わるすべての人が持っておくべき、最重要な暗示なのです。

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