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雨、退屈、猫、紐

朝は、ごうごうと響く音をたてながら吹く風と、久しぶりに滝業でもしてるんかいなというくらいの沢山の雨粒が屋根を叩く音で目を覚ました。とんだ一日。

布団から体を起こして、新入りの猫二匹がいち早く起きて運動会を始めているのをぼーっと見つめる。部屋中を端から端まで隈無く走り回り、キャットタワーに登って一番上で掴み合いして今度はジャンプ。最近いつもこれで起こされていたのが、今日は外からの音であんまり気にならなかったみたいだ。良いのかわるいのかは分からない。

まだ残っている布団の温もりに、持っていかれてしまいそうだ。農家になりたいと思ったくせに、朝に弱く、一向に働こうとしない頭。まだちょっと寝れるだろうか、くらいしか浮かばない。

隣の布団から、大丈夫かなと低いトーンで呟きが聞こえる。そうだ、と慌てて起き上がってハウスをのぞきに走る。こういう心配は大抵当たるから嫌だ。予想通り、畝と畝の間の通路にうっすらと水が溜まっている。うちの土壌は水捌けが悪いので、こんな風にどばっとした量が一気に降ると、たちまち浸水してしまう。畑じゃなくて田んぼみたくなっている。排水されるように溝が掘られているのも、あまりに一気に水が来ると許容量を超えるようで、これじゃあまるで、昔の城のお堀だ。たぷたぷと満杯までもう少しというところまできた水面が風で揺れている。

溜息しか出ないけどとりあえず、来年はまた別の対策を取ろうと相談する。常に悩みは腐るほどあるし、不満やなんとかしたいところも積み重なっている。けど、いちいち深刻に考えると頭があっという間にキャパオーバーを起こす。会社でも同じだ。まぁ後でなんとかするよという言葉にひとまず心を落ち着かせて、朝ごはんを食べに戻った。仕事の日の、動き出すまで何をするのも面倒な日はごはんすら重く感じるので、パンにする。それもたまに面倒くさい。


仕事をするときは、やるべきことを全て完璧にこなしておきたい時と、やることを絞って、優先順位を決めて少しずつ終わらせていきたい時の2パターンになる。これを決めるのはこちらに委ねてもらえることが多いので、ありがたいしそれがこの仕事のモチベーションにもなっている。

丁寧に作業をこなして、後々に余裕を残せるときが精神的にもいい。それに楽しい。やれることをどんどん片付けていけるのは爽快だ。

でも実際はそうじゃないことの方が圧倒的に多い。大体農業というものは、手がかかるときは全部重なってくるのでもうこの時期は危ういところから手を付ける、という風になってくる(私だけなのか?)。それに加えて、今日みたいなトラブルが起きた日はその対応に終われるし、じめじめすれば病気になりやすい。虫も集まりだしてくる。もうてんやわんや、毎日何が起きてるのかを把握しないと、気が付いたら…というバットエンドになりがちだ。


まずはメロンのハウスから入ってみようかと、長靴を履いて砂利道を歩きながら考えていた。メロンは、というかウリ科はほんとにあっという間に伸びるので一瞬も気が抜けないので恐ろしい。パプリカなんかもあるけど、ここまでではないのでもう少し後にすることにした。


じめじめするとなんとなく、ハウスまでの足取りも重くなる。

頭もどっか少しずきずきするような気もしてきたし、ちょっとだるいなーと思い始めたので、夜ご飯の献立を考えだしてみたり、ちょっとTwitterを覗いたりして、ちょっと気をそらしてみる。


メロンはもう受粉を終えて、実を付けた。3つついている中から1つに絞って、紐をつけて吊り上げる。ここが終われば正念場を乗り越えたかなという感じだ。だけど中々終わらない。それも私を憂鬱にさせる。

ちょっと違う仕事がしたい、今日はトマトのわき芽をポキポキと折ってスッキリしたいと思った。あの作業が好き。爽快感がある。


雨がまだ降りやまずに、ハウスのビニールに当たって大きな音がしていて、それ以外は何も聞こえない。なんとなくこの感じは好きだなと思った。



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