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ふたつの再会㈠


 
 
 
 

❞ふたつの再会❞㈠



 
 初夏の昼下がり、客船が波止場についた。
 タラップからは、二百人ほどの観光客がおりてくる。今回もまた、この島で休暇をすごす人たちがやってきたのだ。波止場は、これを迎える民宿の人たちが、予定の泊り客をさがし当てたり、挨拶をしたりでごったがえしていた。
 
 タラップからの客たちがとぎれると、まもなく、同じ色あいの一行が、さわやかな笑顔で降りてくる。
 先頭には、ワインレッドの小さなショルダーバッグをそえた長い黒髪の女性が佇む。
白いブラウスとブルーのロングスカート姿が、青い空と海によくなじむ。その肩にかけたあわい緑一色できめたシルクのショールが、波止場の風になびいている。その雰囲気には、優美で輝きとよろこびに満ちたものが感じられた。
 
 小学校一年生のときの作文に、大きくなったら、もえぎの島にそんな洋装で訪れたい、自分は、必ずもえぎの島に移住したい、と書いたのである。
 ルビンである。
 
 
 ずうっと幼少のころからあこがれていたこの島に、運命的なミッションがあって、ついに念願かなってやってきたのだ。
こころのなかでは、きょうはこの島とは再会なのである。
こころのなかに生きるいのちのセマンとともに、この島に降り立ったのである。ワインレッドのショルダーバッグと肩になびくショールは、いつもともに生きるセマンのしるしなのである。
 
りっぱなおとなに成長したルビンの容姿は、美しくも目に力をたたえ、まさに、聡明さを併せもった、素敵なレディである。
 
 
出迎える人たちのなかに、ひときわ目立つ歓迎のプラカードがあった。それを見つけると、ルビンは満面に笑みを浮かべて手をふった。そして、
「みなさん、こんにちは!」
と、思い切り元気な声を発した。
うしろの連れに優しく声をかけ、そのプラカードを宛てに歩くように伝えている。
 
ついてくるのは、若い男女が十人である。下はジーンズ、上は白いジャケットで一様にそろえている。みんなは黒いウエスタンハットをかぶっていて、そのハットバンドには左右に一本ずつ、あわい緑の羽根が挿されていた。帽子のエンブレムには、「セマン」というワインレッドのロゴもみえる。
 
 そのうしろにはもうひとり、みんなより先輩ふうでスタイルのよい男性がいた。
ルビンのパートナー、医師のロバートである。
同様にウエスタンハットをかぶっている。白いキャリーケースをたずさえて、ころころと引っ張って列のうしろについている。

つづく

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