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ふたつの再会(二)

 
 
 
 
 

❞ふたつの再会❞(二)


 
 
 一行が下船すると、大勢の出迎えが、手をふり、歓迎のことばをかけながら、駆け寄るように取り囲んできた。そして、小さくカットされた色テープとクローバーの花のまじった大籠の花吹雪を、帽子に積もるほど浴びるのであった。
 
「ルビンさーん! はじめまして! いらっしゃあーい!」
 と、島の代表の女性、アイラが目を見開いて両手を差し出してきた。
「はじめまして! お迎えありがとうございます。ようやく憧れの島にやってこられて、とってもうれしいです。あ、なんだか、涙が止まらなくなちゃって・・・」
 と、絶句するルビンに、
「あらあら、わたしまでもらい泣きですよ」
 と笑いながら、ルビンにハンカチを手渡した。
 
 ルビンは涙を拭いながら、
「ここにいるメンバーはグリーンメイト、Gメイトと呼んでます。女性はシスター、男性はブラザーと呼んでいます」
 というと、島の人たちは拍手をくれた。ルビンは最後にもうひとりを紹介した。 
「ここにいるのは、わたしのパートナーで、ロバートといいます。医師としてもがんばるつもりでおります。気軽に声をかけてください」
 ロバートは右手を上げてアピールすると、
「みなさん、どうぞよろしくお願いしまーす」
 と、笑顔を配った。
 
 一斉に、みんなの拍手をあびた。
 ルビンはまとめるように、
「というわけで、きょうから、この島でお世話になりたいと思います。よろしくお願いします」
 と、挨拶を終えた。
 アイラは、握手をするようにルビンの両手をとり、
「これからいろいろと教えていただかなくてはなりません。末永く、よろしくお願いします」
 こうしてことばを交わしあい、もってきた荷物を確認し合うと、さっそく目的地の宿舎へ移動することになった。
 
「じゃあ、あれに乗っていきましょう」
 とアイラが指差したのは、馬車であった。
 花柄模様の描かれた屋根つき、細い丸太で組み立てられた椅子つきの荷台は、三両編成の列車である。
「ひひひーん」
 二頭連結の馬たちは張り切って出発した。
 パカポコ、パカポコ
のどかなヒヅメの音を響かせる。空気を汚し、人のこころやからだをむしばむ酸化廃棄ガスなどとは、まったく縁がない。
 
「わあ、馬車ってこれなんだ。楽しいね!」
 と、Gメイトのシスターが感激していた。
 すると、アイラは、
「馬車は、お年寄りやからだのよわい人、妊婦や病人、はじめての歓迎客、そういう人たちが利用できるように備えているんです。必要なら、妊婦や病人には乗り心地のよい人力車などもあるんですよ」
 というと、
「わたしが、人力車に乗るときはあるのかな」
 とべつのシスターが笑っていう。
 
 アイラはつづけて、
「島では、ふだんの生活は、一人ひとりが自転車を利用するか、急ぎの用でもないかぎり、歩くことを習慣にしていますので、健康にはいいと思います」
 というと、
(不自然に急ぐことなんかないんだね)
 ルビンは、聞きながらそう思っていた。
 
 馬車が進む道の両わきには、白い花の咲くクローバーの原っぱが広がっていた。はやくも、ルビンのこころは、かつてセマンの背中で見た、想像どおりの島の景色を味わっていた。
こうして馬車に乗っていることも、けっして本意ではない。でも、きょうは特別、たくさんの荷物を運ぶための馬車が用意されたまでである。
 
 人は、直立二足で生活をするようになっている。そのことを見えなくしては、人のこころは、豊かさに恵まれない。不便だからこそ、物事が豊かに、有難く思える――
 そう思うことが、この地に着いたルビンのはじめの信条であった。
 
つづく
 

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