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ふたつの再会(五)


 

❞ふたつの再会❞(五)

 

そこでルビンは、泊まった宿舎「きよら」の伝説を話しはじめた。ロバートは、じっとルビンの目をみつめ、うなずいて聴きいっていた。

ついに、ルビンは自分の夢を語りはじめた。 

「わたしは、いますべてが順調なんです。夢があるんです。ジェームズのなしたことには、とても共感できるのです。そんなに大きなことはできないけれど、小さな村の小さなしあわせほどでいいから、救うべき子どもたちを迎えて、その村を子どもたち中心の、豊かでしあわせな社会にしたいんです」

 

すると、ロバートは、
「子どもたち、ということであれば、わたしもよくわかります。いまは学校で家庭でと、いろいろ問題が多いですからね。なんとか理想的な子ども社会を実現できたらな、と日ごろから考えていたひとりなんですよ。だって、子どもたちは国の宝ですからね。いい協力者がいてくれれば、と思っていたところです」 

ルビンは訊ねてみた。

「先生のばあいは、医師のしごとをなげうってまで、というわけにはいかないでしょう?」
と、思わくをこめてルビンがたずねると、

「でも、そういう社会こそ、総合内科医のしごとですよ。それに、人が精神的、肉体的にこころをわずらわすというのには、おとなも子どももありませんしね。心身医学の道であれば、そういう社会の実現に貢献するのは基本のミッションですよ。老若男女の社会のもと、子どもがみんな元気で、みんなしあわせ。それが最高ですよね。いっしょに助けあって生活する社会にこそ意味があると思いますよ」

と、ルビンの考えと変わりのない意見をいう。

 

ルビンの目は輝いた。
「そうはいっても、じゃあ、わたしが協力してほしいとお願いしたら、できますか?」

と、すこし誘いかけるような口調でいうと、
「ああ、そうなれば願ってもない渡りに船だな」
これは、ルビンの背中を押す現実の存在にみえてきた。 

「わあ、もしいっしょにできるなら、こちらも願ったりかなったりだわ」「じゃあ、話は決まった・・・ってこと? (笑)」

と、とんでもない展開になっているようで、ルビンは、
「いやですよ。ホントの話なんですかぁ」
というと、

「わたしだって、まじめです」
と、真摯な雰囲気をただよわせたロバートである。 

ルビンは念のために、
「そんなに簡単にきめてもいいことなんですか?」
ときくと、

「わたしは、いずれ開業医としてどこかの島で生きていくつもりでいましたから、チャンスがあれば、行動開始はオーケーですよ。子どもたち・・・、いや、もっと幅をひろげて、青少年のこころを救済するには、どこか、美しい島がいいよなあ。そうなると、その社会に、総合的な健康助言、カウンセリングやコーチングというものがあってもいいじゃないですか」

ここまで話が本格化するなど、思ってもみなかったルビン。 

もしこのことが実現すれば、ルビンにとって、運命のミッションとしかいいようのないみちが期待できる。

このような話題になったことをさして、ルビンは、
「きょうの食事は、とてもすてきなメインディッシュですこと」

と、目を細めながらいうと、

「わたしも、またまたおどろきですよ。またこうしてお話ししたり、いろいろと調査を進めながら、実行に移せるように、いいプランをつくりましょうよ」
ロバートの意思はそこまで動いてしまった。

 

「それに、先生。これから一年間、看護師の研修期間、きちんと実践でおぼえていきたいと思いますので、明日からどうぞよろしくお願いします」
ルビンがそういうと、ふたりはテーブルを立った。

レストランを出ると、おたがいに充実した気分でわかれた。

 こんな出会いから、子ども社会モデルのプランが、ふたりで思索されることになった。

病院の看護体制にも迷惑をかけぬよう、退職予定の一年まえには所属長には転職の意思を公表しておいた。

 出会いから二年後、ふたりは結婚し、その後に、この島に移住することになったのである。

馬車のヒヅメは高らかにひびき、一行を森の近くの民宿に運んでいる。

 
「ルビン。おなかすいたでしょ?」
とアイラの声である。

ルビンはほんのせつな、自身をふり返り、よくぞここまできたものと感慨にふけっていたが、はっと我に返るように、

「Gメイトのみんなは、朝日をあびながら食事したので、太陽もこんなに真上にきたことですし、そろそろおなかの虫も騒ぐころかも」
と云うと、

「みなさんが着いたら、すぐにお食事ができるようになってますから、まずは腹ごしらえといきましょうか。いいでしょうか、みなさん!」

アイラは、明るい声でみんなにつたえた。

 「はーい!」
と、待ってましたとばかりに、Gメイトのみんなはいっせいに返事をした。

 つづく

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