ルッコラの味が嫌いなのが理解されない

 今日どうしても仕事に集中できなくて、こっそり黙って1人早く喫茶店に入った。そしたらまだモーニングをやっていて、それがなかなか美味しそうだったのでつい頼んでしまった。
 名前は忘れたが、なんとかカイザーみたいなドイツっぽい名前のスクランブルエッグとベーコンのサンドで、まあ緑色も見えたけど水菜かなんかやろと思って食べた。

 違った。ルッコラだ。知らんけど。いやこの味はルッコラだ。絶妙な青物の苦味とカイワレにも通じる辛味。
 怒り狂った。なぜ休憩先で怒り狂わねばならんのか。なぜ無害な顔をしてお前は混ざっているのか。だが行儀が悪すぎてルッコラだけを抜いて食べることができなかった。ますますムカムカしてくる。
 昔、アフタヌーンティーで鯛とグレープフルーツのパスタが提供されていたことがある。夏限定のメニューだったと思う。細かく刻ざまれた葉物、いや、絶対に大葉かと思うやん。まさかのルッコラ。その時は全部取り除いた。行儀が悪いね。飯を摂取した気がしなかった。

 ルッコラの許せないところは、「ベビーリーフ」と名前がつけられているところだ。
 私には食べられるベビーリーフと食べられないベビーリーフがあって、ルッコラはその食べられないベビーリーフだ。ご存じかと思うが、ベビーリーフとは色んな植物の若い葉っぱの総称である。
 頼むから棲み分けをして欲しい。ムスリムに肉って称して鶏肉と豚肉と牛肉だしたらダメでしょ。しかし困ったことに世間ではベビーリーフは無味らしい。つまりルッコラも無味だ。無味と言うよりなんの特徴もない葉っぱらしい。

 は?そんなん食べなくていいじゃん。
 と思ったが、じゃあお前はルッコラ以外のベビーリーフの種類を味わけられるのか?と聞かれたら答えはノーなので黙るしかない。
 だからルッコラが嫌いと言っても理解されないし、「そもそもルッコラってどんな味だっけ?」から始まる。みんなべつに意識してベビーリーフ食べないからベビーリーフ群にルッコラが混ざっていても分からない。レタスと一緒じゃんと言われたことすらある。
 だから仮に私が店員さんに「ベビーリーフからルッコラ抜いてください」などと言ってもただただ困らせるだけだろう。

 ルッコラの悪口をひたすらに書いてしまったが、べつにルッコラが悪いわけじゃないし生産者の方もじゃんじゃか作ったらいいと思う。
 ただベビーリーフとして他の食材と混ぜないで欲しいだけだ。どっちかっていうと、料理を提供していただく際に、「ルッコラが入っています」みたいに書いておいて欲しい。
 なんか流行りじゃん。五穀米の内容書くやつみたいな、あんな感じで、このベビーリーフはルッコラ入り!って効能とかと一緒に書いておいてほしい。丁重にお避けする。

 ルッコラがダメになったのは大学生のときイタ飯屋でバイトをしていて、その時の賄いにルッコラのパスタが出てきたせいだと思う。
 トマトベースのあっさりパスタに、ルッコラがまあまあ盛られていて、具体的にはパクチー好きな人がフォーにのっけるそれくらいのっていた。
 なんと形容したらいいんだろう。少しずつ、澱のように積もっていく辛味と青臭さ。
 トレビスとかカイワレに似てる。でももっとささやかで嫌味っぽい。ピリときて一瞬口が熱くなったような気がする。ふわりと遅れてやってくる独特のごま油や辛子菜に似た香り。
 それまでルッコラが特別嫌いなわけでもなかった。食べなくていいなら食べないけど出されたらふつーに食べる、くらいの。
 賄いを残すわけにもいかないと思い、黙々と食べた。基本的に嫌いなものは提供されない職場だったが、その瞬間に苦手だと自覚したらどうすればいいのだろう。
 あとから隣に座った同僚の子に残りのルッコラ全てこっそりあげて事なきを得たが、その子が気をきかして上司に教えておいてくれたのか、ルッコラがその後一切提供されなくなったのは今でも心苦しい。

 しかし、ルッコラの味がダメなのがあまりにも理解されないので、「ルッコラ 嫌い」で検索した。そしたら「ルッコラは湿気を嫌います」って出てきたのでお前が嫌うんかい!ってまた怒り狂う羽目になった。
 いやいいんですよ、ルッコラも生きてるし、好きで育ててる人もいるからね。でも「ルッコラのことが嫌い」でちゃんとヒットしたと思ったら「うさぎの○○ルッコラ嫌いみたい」という飼育日記で私の共感者はうさぎしかおらんのかと思って涙した。

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