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beir【心海家族】

『あらすじ』

舞台は海の中。
種族ごとに役割が決められている世界で生まれた子どもたち。
親のレールを進む少年と、親のレールから突き落とされた兄妹のお話。

性別変更不可

利用契約について
https://note.com/merrow15/n/n6802d670f4df

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『キャラ一覧』

《シュエル》
ペンギン族。
少年だが、声は低め。
ショタボでも少年でも青年ボイスでも可。
心優しく、とても器用。

《キィラ》
海竜族。
女の子のように可愛い男の子。ショタ。
頑張り屋で努力家。親や兄を尊敬している。
真っ直ぐすぎるがゆえに、折れると戻らない。

《リィナ》
人魚族。
高めの声。ロリでも可。
可愛くて明るく真っ直ぐな女の子。

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《本編》

ーシーン、プロローグ

シュエル:海の深い底にある街。海の生き物たちの街。広い世界。地上とは違う生活。そこには、様々な種族が生きている。
 僕はペンギン族のシュエル。耳がよく、泳ぎが早いことから僕達の種族は狩りに出る。
 種族毎に与えられる仕事。それがこの海の掟。…いや、皆が信じて疑わない、暗黙のルールだ。
 そして、僕の朝は早い。
 まだ子供の僕は一人前には程遠いから、たくさん狩りをして色々覚えていかなくちゃいけないから、人一倍早く起きる。

ーシーン変わり、朝

キィラ:あ。おはよう、シュエル。

シュエル:おはよう、キィラ。今日も朝早いね。

キィラ:それはお互い様でしょ。

シュエル:ははっ、言えてる。

キィラ:それに、たくさん練習して、早く父上や兄上のように強くならないとだしね!

シュエル:戦士だねぇ。

キィラ:戦士だよ。
 そう、僕は立派な戦士になって、シュエルや家族…大切な人たちを守れる男になるんだ!!

シュエル:うん、きっとキィラにはなれるさ!頑張りやさんだからね!

キィラ:ありがとう!

シュエル:僕もいい魚をたくさん獲って、みんなに美味しいものを食べてもらえるよう頑張る
よ!

キィラ:楽しみにしてる。

シュエル:うん!じゃあ、そろそろ行かなきゃ。

キィラ:ほんとだ。また明日ね!

シュエル:ああ、また明日!

ーシーン変わり、昼

シュエル:ふぅ。今日の狩りもなかなか大変だったなぁ…。

リィナ:んぅ…(うとうと)

シュエル:あ、リィナ。

リィナ:んぅ?…おはよぉ。

シュエル:おはようって…もうお昼だよ?

リィナ:おひるぅ?…ごはん?

シュエル:そう、ご飯を食べる時間。

リィナ:ご飯!?(ぱっと目を覚ます)
 ご飯ご飯ご飯ご飯、ごっはーん!(シュエルに飛びつく)

シュエル:うわぁ!びっくりしたぁ。いきなり飛びつかないでよ。

リィナ:ご飯ご飯ご飯!(犬のよう)

シュエル:ああ、わかった、わかったから落ち着いて!

リィナ:ごはーん!

シュエル:…。(少し困っている)

リィナ:ごっ、はっ、ん!ごっ、はっ、んぅっ!

シュエル:…はい。(獲ってきた貝をリィナに食べさせる)

リィナ:はむっ。もぐもぐもぐもぐ。んぅ!おいひー!        
 あまあま、とろとろよー!

シュエル:それはよかった。…ところで、いつまで僕の上に乗っかっているつもりなのかな?

リィナ:ふぇ?(まだ食べている)

シュエル:いや、だから…。

リィナ:もぐもぐ…ごくん!
 …ね!もっとないの?!

シュエル:え。

リィナ:ね!もっと!もっとちょうだい!

シュエル:…。

リィナ:お腹空いた!ごはん!!

シュエル:………。

リィナ:ねーねーねーねー!ごーはーんー!
 ごはんちょうだい!ごーはーん!!!

シュエル:…っ。

リィナ:ごぉおおおおはああああんぅうううう!!!

シュエル:わかった!!わかったから!!
 とりあえず、どいてくれるかな?

リィナ:ふぇ?ごはんくれるの?やったぁ!(飛び跳ねる)

シュエル:いてっ、ちょっ、人のうえで飛び跳ねないでっ、ぐえっ。

リィナ:ごはん、ごはーん!

シュエル:わ、わかったからっ…わかったから…お願いだからっ…どいてくれるぅ?!

ーシーン変わり、朝

シュエル:いててて…。昨日は散々な目にあったな。

キィラ:おはよ、シュエル。

シュエル:おはよ。…って、その顔どうしたの?!

キィラ:え?ああ、ちょっと、どじしちゃって。…シュエルこそ腰痛そうだけど、大丈夫?

シュエル:ああ、これは、ちょっと、なんていうか。
 君の妹がやりましたとは言えないかな。(小さい声で)

キィラ:え?なんか言った?

シュエル:ん?ああ、別になんでもないよ!?アハハ…。

キィラ:そっか。なら、いいけど。…っ。ごほっ、ごほっ。

シュエル:キィラ!?大丈夫?

キィラ:うん、大丈夫。大丈夫だよ。

シュエル:風邪かい?

キィラ:どうだろ…。

シュエル:あんまり無理して拗らせても大変だよ。

キィラ:うん、そう…だね。

シュエル:今日は休んだら?

キィラ:(食い気味で)ダメだ!!

シュエル:…え?

キィラ:あっ、いや…。だっ、大丈夫、大丈夫…だから。気に、しないで。ハハ…。

シュエル:キィラ?

キィラ:あっ!そろそろ、行かなくちゃ。シュエルも狩りがあるでしょ?遅れちゃうよ!

シュエル:あ、ああ。そうだね。

キィラ:じゃあ、またね!

シュエル:うん、また…。

ーシーン変わり、昼

シュエル:んー!疲れたぁ!今日も頑張った!
 にしても、今朝のキィラ…具合悪そうだったけど、大丈夫かな…。

リィナ:しゅううううええええるううううっ

シュエル:あ。

リィナ:くううううん!

ーリィナ、シュエルに飛びつく。それを見事に受け止めるシュエル。

シュエル:よいしょ!

リィナ:ごはん!ごはんおかえり!!

シュエル:僕はご飯じゃないから…。

リィナ:ごはん!ごはんちょうだい!

シュエル:はいはい。今日も採ってきたよ。とーっても美味しい!…わかめ。

シュエル:はい、どうぞ。

リィナ:…え?

シュエル:え?(笑顔)

リィナ:…え?(困惑)

シュエル:え?(やはり笑顔)

リィナ:…え?(震え)

シュエル:え???(にっこにこ)

リィナ:これしか…ないの?(泣きそう)

シュエル:うん、これしかないよ。(真剣)

リィナ:そっ…そっか。…うん…そっ、か…。じゃあ、いらない…。(泣きそうになりながら離れる)

シュエル:…ぷっ、くくっ。

リィナ:…ほえ?

シュエル:くくっ…あははは!!

リィナ:え?えっ…?

シュエル:いやぁ、ごめんごめん。ふふふ。

リィナ:???

シュエル:食べ物がわかめしかなかったらどういう反応するのかなぁって、ちょっとしたイタズラというか、興味というか…でもまさか、ここまで嫌がるとは。

シュエル:わかめ嫌いなの?

リィナ:…おいしくない。

シュエル:わかめ美味しいよ?

リィナ:…海藻は、美味しくない。

シュエル:え?わかめだけじゃなく、海藻自体が嫌いなの?

リィナ:…美味しくないもん。

シュエル:ちょっ、そんな偏食だめだよ?干からびちゃうよ?

リィナ:えっ、干からびちゃう?

シュエル:そう。親から聞かなかった?
 海藻はミネラル豊富だから、たくさん食べなさい。食べないと干からびてシオシオになっちゃんだよーって。

リィナ:…聞いたこと、ない。

シュエル:そっかぁ…じゃあ、これからはたくさん食べないとね!

リィナ:…え(嫌そう)

シュエル:ほら、めちゃくちゃ美味しいマグロも一緒に捌いてあげるから!

リィナ:マグロ!?…マグロ、捌けるの?

シュエル:捌けるよ?
 長期に渡る狩りをする場合、その場で食事をしないといけないからね。調理スキルもそれなりにあるよ。

リィナ:教えて!!

シュエル:え?…マグロの、捌き方を?

リィナ:お魚の、調理の仕方!おいしい、ご飯の作り方、教えて!?

シュエル:え?…別に、いいけど…どうしてまた、そんなことを?
 リィナは人魚なんだから、そんなことする必要なんて…。

リィナ:妹に!…妹に、食べさせてあげたいの…。

シュエル:妹って…確か、ミュウちゃん、だっけ?
 確か、離れて暮らしてるっていう…。

リィナ:そう。…あの子が、食事に困らないように。美味しい、ご飯、たくさん…食べさせてあげたいの…。

シュエル:向こうは確か、人魚魔術部隊の寮だったよね?
 食事に困ることなんて…。
 あれ?…そういえば、どうしてリィナはここにいるんだっけ?

リィナ:お願い!シュエルくん。お願い!!

シュエル:………。わかったよ。よくわかんないけど、別に減るもんでもないし、手伝ってもらえるのは素直にありがたい。
 とびっきり美味しい調理の仕方を伝授してあげよう!

リィナ:ほんと!!?ありがとう!!

シュエル:あはは、どういたしまして!
 じゃあ、さっそく、このマグロで挑戦しますか!!

リィナ:うん!!

ーシーン変わり、朝

シュエル:ふぁぁぁ…。さすがに疲れてきたな。…でも、今日も教えるって約束したし。いい魚を獲ってきてあげないとなぁ…。
 あ、おはよう、キィラって、大丈夫か!?なんだか、すんげぇ顔色悪いけど…。

キィラ:え?…だい、じょうぶ…だよ。…はは…。

シュエル:大丈夫って…全然そう見えないけど…。

キィラ:あはは…ほんと、だい、じょうぶっ…けほっけほっ。

シュエル:危ない!

ー倒れそうになるキィラをシュエルが受け止める。

シュエル:ふらふらじゃないか!って、熱っ。
 これ、相当熱があるだろ?!こんなんじゃ練習なんて無理だ、今日は休んだほうが…!

キィラ:離せ!!

ーシュエルを思い切り突き飛ばすキィラ。

シュエル:っ…。

キィラ:…大丈夫ったら、だい、じょうぶ、なんだ。

シュエル:倒れちゃったら元も子もないだろ!?
 今日は休んで、元気になってから練習したほうが…。

キィラ:だめなんだ!
シュエル:…え?

キィラ:それじゃ、だめなんだ…そんなんじゃ、たりない…。

シュエル:きぃ、ら?

キィラ:もっと、もっともっと…がんばらないと…。ひといちばい、どりょく、しなきゃ…。

ーふらふらになりながらも進もうとするキィラ。

シュエル:キィラ、だからっ…。

キィラ:ほっといてくれ!!

シュエル:…え。

キィラ:君はっ…君はっ…。
 ぼくのきもちなんて、わかりはしない。わかるはずがない。
 …かんけいないんだ。ほっといて。…もう、かかわらないで。

シュエル:きぃ…。

キィラ:…じゃあね。

シュエル:まっ…ちょっ…きぃ、ら………。
 ……………なん、だよ、急に。…なんなんだよ…。

ーシーン変わり、昼

シュエル:はぁぁぁぁぁっ。(大きなため息)
 今日の狩りは散々だったな。
 …今朝のキィラが気になって、何も手がつかない…。怪我、してなきゃいいんだけど。

ーどこか遠くからリィナの声が聞こえる。

リィナ:…けて。

シュエル:ん?

リィナ:たす、けてっ。

シュエル:どこからか、声?

リィナ:だれかっ…だれかっ、たすけてっ!!

ーシーン変わり、シュエルの家

シュエル:…リィナ。

リィナ:うっ、うぇっ…ひっく。ひっく。

シュエル:リィナ。

リィナ:…っ!
 シュエルくん!ミュウは、ミュウは!?

シュエル:今、お医者さんが診てくれてる。
 魔力が暴走かけて体中が痛みと熱で苦しんでたみたい。
 でも、今はお医者さんが魔力を抑える魔法具を使って様態は安泰してるって。

リィナ:私のっ、私の妹なの。助けて…。

シュエル:うん。大丈夫だよ。もう大丈夫。もう少し遅かったら危なかったかも知れないって。
 怖かっただろうに、大きな声で助けを呼んで偉かったね。君は、妹を守った立派なお姉ちゃんだ。

リィナ:しゅえる、く…っ。ふぇっ…ふぇぇっ…。

シュエル:よしよし。
 しばらく母さんが傍について見ててくれるって。
 リィナは魔力がないから、近づくと危ないから完全に安定するまで近づかないほうがいい。

リィナ:えっ。ミュウに会えないの…?

シュエル:そうじゃないよ。しばらく、ほんのしばらくの間だけ、離れていてってこと。

リィナ:やだ。ミュウに会いたい。私は、どうなってもいいから、ミュウは、ミュウは…っ。

シュエル:…。
 あっ、そうだ!気分転換に、地上にでも行こうか!

リィナ:…地上?

シュエル:そう!地上には、美味しいものがたくさんあるんだよ!

リィナ:でも、地上は危険だって…行っちゃ駄目だって…。

シュエル:大丈夫大丈夫!ちょっとならバレないから!
 それに、僕もいるから大丈夫!地上には行き慣れてるからね!ほら、行こう!!

リィナ:でっ、でも…。

シュエル:いいから、いいから!僕を信じて!

ーシーン変わり、地上

シュエル:んー!久々の地上!

リィナ:ちょっと、まって…きゃっ!

シュエル:大丈夫?
 足で歩くなんて慣れてないから、フラフラだね。

リィナ:…。

シュエル:大丈夫、すぐ慣れるから!
 あ、そこ座ってて!いい物持ってきてあげる!

リィナ:…う、うん………。

ーしばらくして

シュエル:おまたせ!じゃじゃーん!

リィナ:…なぁに?それ…きらきら、してる。

シュエル:これはね、ジュースっていう飲み物だよ。甘くて美味しいんだよ!
 人間界の飲み物なんだけど、なんていうか…果物よりずーっとあまぁい飲み物なんだ。

リィナ:果物!?(ぱっと顔が明るくなる)

シュエル:そう!果物は、好き?

リィナ:うん、好き!凄く好き!!

シュエル:じゃあ、きっと気にいるよ。ほら、飲んでごらん。

リィナ:うっ、うん…。
 ごくっ…。おい、しい。
 ごくっ、ごくっ、ごくっ…これ、とっても、おいしい…。

シュエル:でしょ?
 この世界にはね、いろーんな食べ物や、いろーんな飲み物があるんだ!!
 …ミュウが元気になったら今度はみんなでここに来よう。キィラ誘って、みんなで!…ね?

リィナ:…うんっ。…うんっ!(ぽろぽろ涙を流す)

シュエル:ああ、泣かないで。ほら、もっと飲みな。それはリィナのものだから。

リィナ:…うん!(鼻水を啜りながら)

シュエル:…大丈夫。大丈夫だよ。僕は君の…君達の味方なんだから。(微笑みを見せる)

ーシーン変わり、シュエルのナレーション

シュエル:あれからしばらく、キィラとは会えていない。
 朝、どれだけ早起きしても、遅く出ても、キィラと会うことはなかった。
 噂では、キィラはもう、何日も部屋から出てきていないことを聞いた。
 僕は、朝には狩りをして、昼にはリィナとミュウを連れて地上に遊びに行き、美味しいものをたくさん食べるのが日課になっていた。

ーシーン変わり、キィラの部屋の前

リィナ:ねぇ、…にいさま。

キィラ:…。

リィナ:にぃ、さま。
 あっ、あのね!きょう、シュエルくんと、おいしいもの、たべたの。地上のね、クッキーっていう、お菓子とか…チョコとか…。

キィラ:…。

リィナ:ミュウもね、たくさん、たくさんよろこんでいて…。
 こんど、にぃさまもっ…。

キィラ:だから?

リィナ:えっ?

キィラ:だから、なに?自慢?

リィナ:そんなんじゃ…。

キィラ:そうやって、へらへらして、楽しそうで…よかったじゃん。

リィナ:…にいさま。

キィラ:…お前は、どうしてそんな笑っていられるんだよ。

リィナ:…だって。

キィラ:お前は、お前だって…お前もっ…捨てられ側のくせに…!!

リィナ:…っ!!

キィラ:父さんに見捨てられた僕も!母さんに捨てられたお前も!同じなのに!なんでっ…なんでお前は笑っていられるんだよ!!

リィナ:ミュウが!!
 …ミュウが…魔力を、コントロール、できるほどの…体力が、ないから…もう、いらないっ…て…かっ、かぁさま…がっ…。
 だから!…だからっ、わっ、わたしっ…おねっ…お姉ちゃん、だから…守って、あげなきゃっ…って…。

キィラ:…っ!
 もう、僕に話しかけるな…。

リィナ:えっ…。

キィラ:…僕のことは、放っておいてくれ。

リィナ:でっ、でも…!私たちっ、たった、三人の…。

キィラ:何度も言わせないで!!
 …お願いだから。どっかいってくれ…。

リィナ:っ…!にぃ、さま…。ごめん、なさい。ごめん…なさい…。

キィラ:っ…。

リィナ:(泣き続ける)

キィラ:…くっ(押し殺すように泣く)

ーシーン変わり、昼

シュエル:やぁ、リィナ。

リィナ:シュエル兄!

シュエル:今の歌声、リィナだよね?

リィナ:うん!
 私が歌うと、ミュウが嬉しそうに笑うの!
 みんなもね、リィナの歌を聞くと元気になるって!
 だからね、こうしていつも歌ってるんだ!

シュエル:へぇ。うん、でも、なんかわかる気がする。
 リィナの歌ってさ、こう…楽しくなるっていうか。あー…。地上でいう、歌姫?…みたいな?

リィナ:うた、ひめ?

シュエル:そう。地上にはね、僕達とは違って、決められた役割はなくて、そのかわり、職業っていう…お仕事?があって。
 それは、自分で選択するんだけど…。その中に、歌を歌って、人を幸せにする職業があるんだ。

リィナ:うた、ひめ。歌姫…。えへへ。…そっか。歌姫…。

シュエル:リィナ?

リィナ:…歌姫!私決めた!!地上に出て、歌姫になる!!

シュエル:え?何言ってるの?そんなことできるわけ…。

リィナ:えへへ。決めたの!絶対、地上に出て、歌姫になる!!

シュエル:そんな無茶な…。

リィナ:ありがとう、シュエル兄!私に、色々教えてくれて!

シュエル:僕は、別に…。

リィナ:ミュウ!もう一回、歌ってあげるね!えへへ!

シュエル:…。

ーシーン変わり、キィラの部屋の前。

ーコンコンとドアを叩くシュエル。

シュエル:…久しぶり、キィラ。

キィラ:…シュエル?

シュエル:うん。そう。
 …ごめんね、突然。…朝、会わなくなってさ、ずっと…心配で…。
 でも、僕なんかが、会いに来ていいのか、よく、わかんなくて…。でも、動かないと、何も、変わらないって…そう、思ったんだ。

キィラ:…だから、なに。

シュエル:あっ、あのさ!リィナが、歌姫になりたいって、言うんだ。

キィラ:…!

シュエル:ばっ、ばか、みたいだよね。…アハハ。

キィラ:…。

シュエル:でも、さ。…あんなにキラキラしてるリィナを見てると、なんだか…僕も、なにか…しないとって…思って…。

キィラ:君には役割があるじゃないか。

シュエル:そう、なんだけど…。

キィラ:リィナは!…リィナは、生まれてすぐ、母上に捨てられた。

シュエル:…え?

キィラ:魔力がないやつは、必要ないからって、なんの躊躇いもなく、母上はリィナを捨てた。

シュエル:捨てたって…そんな…。

キィラ:ミュウも…。

シュエル:…え?

キィラ:ミュウも、魔力がコントロールできない出来損ないはいらないから、捨てられたんだ。

シュエル:…っ。そんなことっ。

キィラ:僕だって!!

シュエル:えっ。

キィラ:…体力がない、筋力が追いついてこない、すぐに怪我をして、体調を崩す。
 そんなガラクタは、ゴミと同じだって。

シュエル:…っ。

キィラ:君に…お前にそれがわかるか?
 親に愛され、親に期待され、周りに必要とされるお前に、僕達の…僕の気持ちがっ、わかるのか!!?

シュエル:あっ………っ(何も言えない)

キィラ:リィナは、立派だよ。妹のために、強くなろうと。
 親がいなくても、自分の価値を自分で見出そうとしてる。

シュエル:…。

キィラ:…ねぇ、シュエル。

シュエル:…なぁ、に?

キィラ:リィナに、兄として慕われる君に、僕が何も思わないと思ったかい?

シュエル:…!?

キィラ:僕の欲しかったもの、僕の必要としているもの。その全部を、産まれたときからもっている君が。…僕は、妬ましくてしかたないよ。

シュエル:違う…僕はっ…。

キィラ:君と話すことは何もない。恵まれた君と、ガラクタの僕では、なにも…ないんだ。

シュエル:………。違う。違うんだ。…僕はっ…。

キィラ:帰れ!!

シュエル:っ。

キィラ:帰ってくれ…。もう、これ以上、僕を惨めにさせないで!!

シュエル:キィラっ…。

キィラ:僕はっ…!!
 これ以上、君を…嫌いになりたくない…。

シュエル:…キィラ…。

キィラ:…(声を殺し、泣いている)

シュエル:…ごめん。また、くるね。

キィラ:…。

ーシーン変わり

シュエル:あれから、数年が経った。

ー数年後

シュエル:本当に、行ってしまうんだね。

リィナ:うん!
 私は歌姫、ミュウは服飾のお仕事がしたいから!だから二人で、地上で生きていくよ!

シュエル:…元気に、立派に頑張ってね。

リィナ:うん、任せて!
 シュエル兄から教わった調理スキルも、地上の知識もちゃーんと頭の中に入ってるからね!!

シュエル:僕の知識なんて、ほんのちょっとだよ?

リィナ:大丈夫、大丈夫!だって、私はリィナ様だからね!

シュエル:あはは…なんだよ、それ。

リィナ:ふふん!

シュエル:なんでそんな得意そうなの。

リィナ:リィナ様ですから!

シュエル:もう、答えになってないよ。

リィナ:いいのいいの!
 …さて、そろそろ行きますか!

シュエル:…キィラには、言わなくていいの?

リィナ:…なんで?

シュエル:…なんでって。

リィナ:…あの人…あいつは、関係ない。
 あの日、あの時、何もしてくれなかった。ミュウが、しんどい時、あいつは…。
 あんなやつ、兄でも何でもない。

シュエル:リィナ…でも、キィラはっ…。

リィナ:もう!こんな日に、あんなやつの話はやめてよね!

シュエル:…。

リィナ:…シュエル兄。今までありがとう。元気でね。

シュエル:…うん。リィナもミュウも、元気でね。

リィナ:それじゃあ、行ってきます!

シュエル:行ってらっしゃい!!
 …忘れないで。僕は、君の…君達の、味方だから。

ーシーン変わり、キィラの部屋の前

ードアをコンコンとノックする。

シュエル:キィラ、久しぶり。

キィラ:…懲りないね、君も。
 こんなガラクタのことなんて、放ってけばいいのに。毎月、毎月…。

シュエル:二人共、地上へ旅立ったよ。

キィラ:…そっか。

シュエル:良かったの?…別れの挨拶、しなくて。

キィラ:…こんな出来損ないより、君の方がいいでしょ。

シュエル:…キィラは、それでいいの?

キィラ:…いいのさ。それが、お似合いだ。

シュエル:…お似合いか。
 …僕にはさ、狩りをするのが似合ってるかな?

キィラ:似合ってるよ。…凄く、様になってる。
 もう、一人前として認められて…本当に、すごいと思うよ。僕なんかより、ずっと…ずっと立派だ。
 …まぁ、こんなのと比べられても仕方ないか。

シュエル:…ねぇ。

キィラ:…ん?

シュエル:…一緒に…地上に、行かない?

キィラ:…え?

シュエル:…地上には、さ。歌とか、だけじゃなくて。ダンス?…とか、そういう、職業が、あって。
 …僕と、一緒に…やらない?

キィラ:…慰めとか、そういうのいらないから。余計、惨めに…。

シュエル:僕はさ!…思うんだ。
 親のレールに乗って進むだけの僕と、今こうして閉じ篭ってる君と、何が…違うんだろうって。

キィラ:全然違うでしょ。

シュエル:僕はそう思わない。
 だって、結局は…何も、してない。何も、自分で…動いてない。

キィラ:努力はしてるでしょ?

シュエル:それだって!…周りに、言われたまま…動いてるだけ…だ。
 …でも、リィナは、違う。
 自分で動いて、自分で選んで。自分で、努力して、自分で…。
 そんなリィナは、とても…輝いていると、思う。

キィラ:…。

シュエル:僕は、さ。輝きたいんだ。
 自分で選んで、自分で努力して、自分で…ちゃんと、輝きたい。でも、この海では、それはできないだろう?だから…っ。
 努力家で、頑張りやの君なら、君となら…僕は、きっと、なれると思ったんだ。

シュエル:キラキラ、輝く…何かに。

キィラ:…シュエル。

シュエル:…ねぇ。僕と一緒に地上に行こう。
 そして、一緒に頑張ろう。自分で、自分で輝こう。
 ねぇ、キィラ…僕と…。

ーガチャっとドアが開く音。

シュエル:そして願わくば、再び兄妹が手を取り合い微笑み合うことを。
 僕は…君達の、味方なのだから。

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