バルコニーのすぐ先が電柱という立地

 公団住宅の5階に住んでいる。バルコニーのすぐ外はちょうど電線の高さで、左側の視界ぎりぎりに電柱が立っている。
 このところ、夕方に洗濯物をしまうとき、数メートル先の電線にカラスが2羽止まっているなぁと眺めていた。ところが、これがものすごい勢いで威嚇してくる(もちろん、飛んでくるわけではないが)。こちらを向いて「ギャア、ギャア」とものすごい声で鳴くのが2、3日続くまで、自分に対する威嚇ということがわからなかった。
 試しに、自分が姿を消してみるとあちらも鳴くのをやめる。「これは自分という人間を威嚇していたのか」とやっと気づいた。これがつい3日前のこと。
 彼らの仮想敵は自分という人間であることがわかったので、カラスたちに向かって両手を上げて振る。以前、「カラスには手がないので、人間の手がこわい。だからカラスがそばにいたら手を振り回せば逃げていく」と読んだことがある。巣の近くで人間の手が動くのを見たからって逃げることはないだろうが、こうしておけば襲ってはこないだろうと踏んだのだ。
 カラスは人間の頭上から舞い降りて一瞬着地するというかたちで攻撃するらしいので、正面から来ることはないだろう。だが用心に越したことはない。手をぶん回しながら左側にある電柱を見てみると、明らかに小さい個体が2羽いる。
 ことここにいたって、「電柱に巣を作っていたのか!」とやっと悟った鈍さを笑ってもらいたい。
 校閲者といったって、ふだんの生活すべてに注意力を使って生活しているわけではなく、むしろその逆。限られた脳のリソースを仕事に9割振り向けているので、それ以外のことは残りの1割でしか考えていない。「周りで起こっている事象に気づかない」ことの方がはるかに多いのである。

まずは検索で対策を探る

 ともかく「カラス 電柱 巣」のキーワードでググると、北陸電力のサイトがトップに出てきた。そこに「停電の原因ともなりますのでご一方ください」とある。なるほど電力会社で撤去してくれるのね。
 今度は「東京電力 カラスの巣」と検索すると「東京電力パワーグリッド」の電話番号が出てきた。ここが窓口か。

東京電力パワーグリッドの対応

 さっそく電話すると、日曜日にもかかわらず数回のコールでつながった。
 鳥獣保護法によって卵やヒナがいたら撤去できないと言われたが、その様子はない。2羽の子カラスは成鳥の姿で立派な翼もあるし、(短い距離なら)飛べるように見える。
 そう言うと、電話のあとで先方からショートメールを送るので、そこに巣の写真をアップしろという。そのとおり、切ったあとすぐにショートメールが来た。「以下のサイトに写真を載せてください」とある。場所を特定するためのマップも送られてきた。ここにピンを刺すのね。
 というわけで、そろそろと身をかがめてバルコニーの柵のあいだから巣の写真を撮ってアップした。高所恐怖症の人間にとって、バルコニーぎりぎりに身体を寄せて写真を撮るというのは心的難易度が高いが、こんな場合なので仕方がない。
 そして次も難所である。悪戦苦闘しつつマップを操作して、位置情報を送った。これがまたひと苦労だった。というのはLINEを含めほとんどのことをPCで済ませるロートルで、スマホ操作が大の苦手。マップを拡大して特定した位置にピンを刺すというのは、操作難易度が相当に高いのである。
 それでもなんとか作業を終えて送ると、数分後、撤去担当と思われる男性から電話がかかってきた。「カラスの営巣についておうかがいしたいことが」という。対応早いね! ここで巣の状況などをもう一度詳しく聞かれた。
 「威嚇がひどくて洗濯物を入れるのにも苦労する」と言ったら、「今すぐというわけにはいかないかもしれませんが、なるべく早く対処いたします」と電話は終わった。
 これが日曜日の話。そう、日曜日でもこういう電話には対処してくれるのね。カラスの繁殖期だからだろう。
 そういうわけで、撤去はしてもらえそうだと安心した。

ところが、電話した日から……

 だが、電話をしたその日の夕方には、親子ともにカラスの姿は見えなかった。翌日の月曜日もである。
 あれ、もしかして巣立ったのかしらん。そうだとしても、針金ハンガーを使った巣は停電の原因にもなるというし、撤去してもらいたい。東京電力が対応してくれるのを待つけれど、とりあえず、ひと安心である。
 バルコニーの数メートル先に電線・電柱があると、こんなこともあるのね。ともかく、電柱にカラスの巣があったり、電線上のカラスに威嚇されたら東京電力パワーグリッドに電話する、と。読んでくださった方、これは覚えておいてください。いつか役に立つ日がくるかもしれません。

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