ひとり暮らしレポート くしゃみ
仕事が忙しい。それに伴い生活がおざなりになり、買い物に解放を求める行動も止まらない。ごはんを作るのがめんどくさい。花粉が飛び始めて肌荒れがひどい。くしゃみが止まらない。とにかく仕事が忙しい。おひるごはんがおひるにたべられない。定時に帰られない。このことがこんなにも自分にストレスだとは…。ひさびさに実家に戻れた週末は大雨だった。実家の家族の存在、あたたかくてたぷたぷの湯船、おかあさんのごはんは、わたしの消耗した身体にじわじわと沁みていく。雨が止んだ夕方に部屋の換気をしながら、またくしゃみ。明るさがまだ残る時間に、定位置である本棚の横に座ると、実家で暮らしていたしあわせな時間の残り香をふいに感じる。この部屋で、このスポットで、この温度、この光の中で、わたしはたしかに全能感に満ちて、まだ何者にもなれていないわたしが、何者にもなれる可能性を信じていた。この感覚は、この部屋でしか味わえない。お腹の底から上ってくる虚無と、解放に似たしあわせ。ずっとここでゆめをみていられたらいいのに。ひとりで暮らす部屋ではけして感じない気持ち。明日も仕事か、ごはん作らなきゃ、掃除しなくちゃ、勉強しなくちゃ、なにかしなくちゃって見えない何かに責め立てられて生きるのも、わたしにとっては必要かもしれない。実家にいたら、わたしはひとりで何もできなくなるって思って家を出たけれど、それでよかったのかはわからない。わたしはわたしのしあわせが、わかっているようでわかっていない。生きるために何を頑張って何を捨てればいいかもわからない。最近は、失ってしまったものについてばかり考えるの。また春が来て、4月が来て、わたしが最も嫌いでつらくて苦しい時期になる。どうしても乗り越えられない地獄の季節。また、くしゃみが出る。