幽霊の正体見たり
私は基本的に幽霊というものを信じていない。幽霊かと思ったら枯れたススキであったり、誰もいないはずの山で響くこちらを呼ぶ声は小熊の鳴き声だったり、夜な夜な聞こえる赤子の鳴き声は発情期の猫の声であったりとか。最近だと、あの有名な怪談『くねくね』が熱中症による幻覚症状だとする説を見た。その後狂ってしまう様も、熱中症の後遺症として実際にあるものなんだそうだ。ちなみに言っておくと私は怪談奇談の類が大好きである。人になんか怖い話ない? とか聞きまくっていた時期もあった。プロの怪談師などにも幽霊の存在を全く信じていない人も珍しくない。まあつまり、信じるか信じないかは──というのを大前提としたエンタメだ。
まあそんなわけで、オカルトを妄信している阿呆と周りに見られるのも癪なので、上記の通りの自分のスタンスを私はよく人に説明するだが、その最中私の話を聞いていたMさんがポツリと喋り始めた。
「あー俺もあるわ、そういうの。見間違いでもめちゃくちゃ怖いんよな。小学校の頃さ、親に行かされてた塾の帰りに何となく家に帰るのとは違う、街灯の少ない細い道通って帰ったんよ。そしたらさ、ちょっと先に誰か立ってんの。で、その人全く動かなくてさ、近づくにつれてぼんやりシルエットが見えてくるんだけどさ、片手がぶらーんとちぎれかけて揺れとってさ。出会ってはいけないものに出会ってしまったと思って、それでもちょっと興味があったってのもあるんやろうけど、そのまま俺真っ直ぐその人の前通ったんよ。そしたらさ、ただのボロボロのカカシやって。なんやねんって思いながらそのまま進んだらさ、真後ろからめちゃくちゃでかい笑い声聞こえてきて叫びながら走って帰ったんよ。もちろん、俺以外歩いてる人とかはおらんかったんやけど、なあ、あん時の笑い声の正体はなんやと思う?」
私は「……怖」とだけ呟いた。