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泡盛と女優魂

mixi日記(2004年)より転載

あれは2年ぐらい前かな。当時の彼女と2人で高円寺の沖縄料理屋で残波をストレートで飲んでいたのですが彼女が酔いすぎました。

「私はこれから英語だけで話す!英語の方が意思を伝えられる!」
(え、君はそんなに英語が得意だったのか?)

「だいっきらい!死ねーーー!!」
(店内ですよ、お嬢さん。第一それ日本語じゃぁ?)

と性質の悪い酔っ払いに。

さらに会計前だというのに彼女は店を飛び出し

「私は帰らない!」

と路上に大の字に横たわってしまった。

通りを歩く人々はみんな私に大変だろうけどがんばれよ、という優しい視線を送ってくれていました。

そのうち自動車がこちらに向けて走ってきて、このままだと邪魔でやばいなあと思ったら、そのときだけちゃんとスクっと立ち上がって、道の端によって車をやり過ごしてからもう一度路上真ん中に出て来て大の字になる念の入りようです。

こいつ、確信犯?!

そこでぼくは実験を開始しました。

実験1 人通りのない目立たない場所に置いてみる

路上で大の字になっている彼女。ぼくはそれを無理やり担ぎ上げて目立たない駐車場の隅まで運び、転がしておきます。すると彼女はよろよろ立ちあがって再び先ほどの通りに出ます。そして真ん中で

「気持ち悪いよ~、苦しいよ~、帰って!」

などとうめき声をあげながら大の字になります。

間違いねえ・・・こいつ確信犯だ!

女優魂というのですか?
ギャラリーがいないと同じ酔っ払いをやるにしても物足りないわ!
きっとそう思っているに違いありません。

自分の好みの女優が結婚、とかテレビとかで見ると、相手の男性がうらやましいなあと思ったりするのですが、この時ばかりは女優と結婚した人は、毎日路上で大の字なられちゃったりするのだろうか?と非現実的な妄想で頭の中が一杯になりました。

実験2 車の通りがある危険な場所に置いてみる

さて、実験1で確信犯だということがわかりました。極端なパターンを一つ試したらその反対の極端なパターンも試して見たくなるのが心情というもの。人通りの無いところを試したら今度は・・・

彼女を再び担ぎ上げて、車の通りの多い高円寺駅前ロータリーへと移動。夜中でさすがに車の量も減っているので車道の真ん中に置いてみます。もちろん車が来たらすぐさま拾いにいけるようにそばに駐車している車の陰に身を隠して様子を見てみます。

最初は大の字になって横たわってましたが10秒ほど経過すると

あれ? ここ、どこ?

という風に上半身を起こして周りを確認し駅前のロータリーだと気づきます。

次に15秒ほどその姿勢できょろきょろとします。移動すべきかいなか思案しているのでしょう。

そして、ふらふらっと立ち上がり歩道に避難してそのガードレール脇にもたれかかって座りました。

避難完了!

やっぱり防衛本能というのがあるのですね。我が恋人の生存本能が頼もしくもあり、誇らしくもあり……人間ってすごいなあ。母なる自然に感謝します。

……ってかそこまで動けるんだったら早く帰ろうぜ!


実験1、実験2と立て続けに成功させた私。人間の本能の偉大さを世界に示した彼女。さすがは我がベストパートナー。愛してるよ。君が一番だ。

しかしここで愛に酔っているわけにはいきません。私にはもう一つの使命が残されています。

Mission: 彼女を連れて無事に家まで帰還せよ!

これがなかなか大変です。下手に連れて帰ろうとしようものなら

「私のことはほっといて!帰って!」

と大騒ぎです。もう電車もなくなりました。タクシーで帰りましょう。

さあ、どうするかなぁ・・・

横で彼女はゲロゲロやってます。

おいおい、コートとか汚れちゃうぞ・・・それだ!

「ほら、コート汚れちゃうからとりあえず脱いでおこう」
(脱がす)
「あ、ジャケットも汚れちゃうから脱いでおかないと」
(脱がす)
「ああ、セーターにも少しついちゃった!とにかく脱いで!」
(脱がす)

本当は彼女は百戦錬磨の酔っ払い、吐くことに関しては右に出るものがいないプロフェッショナルです。洋服など汚すはずはありません。でも路上で寝っ転がってるから汚れてるだろうけどね。

とにかく、この状態で5分ほど置いておきます。
すると・・・

「寒い、寒いよ・・・」

よし!もらった!

「寒いよね。まだ冬だしね。そろそろ帰ろうか。」
(タクシー乗り場へ手を引いていく・・・)

Mission Complete!

ここまで3時間。コートを着ていたぼくもとても寒かったです。

後日談:

彼女にこの日の詳細を話したところ、

「もう二度と高円寺には行けない!」

こうやっていくつも行けない店や場所を増やしていくようです。

また、ぼくの振る舞いに関しては

「愛が無い!」

おかしい。

「胸一杯の愛を」って感じなのになあ。

まあ、愛は移ろうもの。この話が今できるのも、つい先日、その彼女と別れたからです。

こんな人からしたら全くうらやましくない思い出も当事者にとっては甘い思い出だったりするのです。不思議なことに……

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