あの夜

あの夜を思い出して今日も眠れず。

自分の殻に閉じ籠ることを悪いことだと言う人もいるけれど、そうすることで自分を守っているんだ。そうすることで生き永らえているんだ。

他人との境界を明確にすることで自己を保つ。


すべてが過去に引き戻されてしまった。


あの夜、すべてが変わってしまった。
キラキラしたものは程遠く。
どこかへ消えてしまった。
いや、そんなものは初めから存在しなかったのかもしれない。

秋空も秋風も心地良くない。
美しいものにドス黒い絵の具がぶち撒けられたようだ。
あの美しさは決して戻りことはない。

それをも芸術だと表現する人もいるけれど、それこそがこの世のすべてを美化しようとしている象徴だ。

私の心にはもう何も響かない。


なぜだか、出来事を映像として記憶する能力に優れているようだ。
「こういうことがあった。」ではなく、
あらゆる記憶が映像として脳内で再生される。
映像とともにその瞬間の自分の感覚をも記憶している。そして、何度もそれを体感する。

手が震えていた。
だけれど、そんなことには誰も気付きやしない。
私はこの世に存在しているのか。
誰の目にも私は映ってやいない。
ならば、このまま消えてやろう。
そう思った瞬間、「まだ生きたい」と心が叫んだ。
その瞬間、すべてが崩れ落ちていった。
すべてが溢れかえった。
止まることのない何か。

すべてを手放す勇気が欲しい。

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