しゃは社畜の「しゃ」

「あー、めろんくん」
「なんですか部長」
めろんはキーボードをタイプしながら、振り向かずに応えた。
「ちょっと、わたしのパソコンがおかしいんだが」
「おかしいって、どうおかしいんですか?」
「んー」腕を組み、唸る部長。「喩えて言うなら、見積もりを送っても一向に返事をくれないA社のような」
「それじゃ分かりません」脇目も振らずにタイプを続けるめろん。
「単純かつ明快に症状を伝えてください」
「売上の集計表を作っているのだが、突然反応しなくなったのだ」
「何かエラーメッセージの類は?」
「メッセージは、ない。」
「何も?」
「というか、画面には何も映っていないのだ」
「はい?」
めろんの声に苛立ちの色が混じり、キーを叩く音がきつくなる。
「真っ暗」
「電源は入ってるんですよね?」
デスクの右の方に鎮座しているタワー型パソコンを一瞥して、部長は言った。
「そうらしい」

はぁ、とため息をついて、めろんは立ち上がり、部長席の横からパソコンのディスプレイを覗き込んだ。
本体のLEDランプは点灯しファンも回っているのだが、画面は真っ暗だ。
「‥‥。」

めろんはがっと隣の席の椅子をつかんで引き出し、デスクの下に頭を突っ込んだ。
ごそごそ。
ごつん。ばたん。
ぱちん。
そこで、部長のディスプレイが点灯した。
「おお!」
「部長」髪から綿ぼこりを払いながら、めろんは立ち上がった。「貧乏ゆすりで、ディスプレイの電源タップのスイッチが切れてました」
 

※この物語はおおむねフィクションです。


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