見出し画像

母を語る名人サトウハチロー

母が96歳で亡くなり三週間が経った。
悲しい感情の渦からやっと脱して、
寂しいが母という普遍的な意識に
落ち着き始めている。
 
納骨前の四十九日間、お骨のそばで、お茶を飲み、
新聞を広げ、食事をしたりして、母を身近に
感じられる日々が有り難い。
 
お母さんと言えば、サトウハチローだと
「おかあさん」という絵本を求めた。
そこには、胸いっぱいにお母さんへの思慕が
謳われている。

母さんはひなたの匂い、けむりの匂い、
白菊の花の色は母さんの足袋の色、
坊やのための子守歌、
痛くしたところをさすって、ちちんぷいぷいと
唱えた母さんの声
母という字は、恰好のとれない難しい字
母さんのひざまくらがなつかしい、
目が覚めてから眠るまで、母さん、母さんと
呼び続けたと詩編が続く。
そして最後のページ、気取って書いてきた詩が
全部吹っ飛ぶ程、感情を露わに
むせび泣くように綴っている。

この世の中で一番美しい名前 それはおかあさん
この世の中で一番やさしい心 それはおかあさん
おかあさん おかあさん 悲しく愉しく また悲しく
なんども くりかえす ああ おかあさん
 
男にとって、母は最初に出会う異性で、
いきなり身も心も濃密な愛に包まれる。
大きなおっぱいにうずまり、丸くて暖かい背中で揺られながら
世間を垣間見る。
かあさん、かあちゃん、おっかさん、おかんに、ママに、おふくろさん、
男にとって、この言葉は口にしただけで、何故か涙腺が緩む
一番脆い言葉なのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?