![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/115037642/rectangle_large_type_2_6f931ac0cd1d33212807ec8bd1c20c63.jpeg?width=1200)
小説「明けない夜はないけれど、弾けないソロはある?」
おお~う・・・・ ウン!?・・・
オレぁどうしちまったんだ?
ー さっきから気を失ってたようですよ ー
そうか、そういやあ~ 間奏のソロ、弾いてたんだった。
ー まったく近頃はどうかしてやすぜ ー
そう言うなって、なんたってこの速さだ。
こちとら、もう何日もコレばっかやってるんだぜ。
オマケに連日、この暑さだ。気も遠くなるわな。
オイっ! 冷やしたタオルをくれ。
ー ヘイ! ー
しかし、何度やっても出来ねえ。
かれこれ2週間にもなるってえのに
とっかかりさえ弾けねえってのはどういうこった・・・
まず問題はテンポが「160」もあるってことだ。
これで16分音符の連続たあ、ヘビメタ兄ちゃんならまだしも
こちとら「抒情派フォーク」ってえジャンルやってんだから
こりゃあ堪んねえよ。
しかもなんだ! このE♭mなんてKeyは? ♭が6つもありやがる。
いよいよヘビメタの半音下げチューニングじゃあねえか~!
オイっ! タオルはまだか!
ー ヘイヘイお持ちしやしたよ。
しかしあれですな。元はと言えばこの唄も
こんなには速くなかったようですよ ー
ウン!? そりゃあ~ いってえどういうこった?
ー なんでも、もうちょい遅く演奏したのを
録音テープの早回し、ってヤツで急がしたんだそうで ー
ナ~ニ~ そりゃ本当か!?
ー ヘイ! 何でも平賀さんのつぶやき板に
書いてあったとか、なかったとか ー
オイオイ、だとすると・・・ハハ~ン! 読めたぜ!
てめ~らはラクしてドンチャカやったあと、
オリャ~ッてんでツマミを回しやがったな!
おかげでテンポは速くなるわ、ピッチは高くなるわ。
オイッ! コイツは160のE♭mなんかじゃねえ!
140のDmだ!
ー ヘ~ そんなもんですか? ー
そんなモンもへったくれもねえさ。
このオレサマにゃあ~お見通しよ!
ー じゃあ日足奉行所としても140のDmっておふれを出しやすか ー
まあ待て、コイツぁ~「出来るもんならやってみねえ」って
挑戦状よ。受けて立たにゃあ男が廃るってえモンよ。
ー そ、それじゃあ・・・ ー
オウッ! 160のE♭m! ビタ一文、負けねえよ!
ただし!コッチは半音下げチューニングのEm!だあ~!
だあ~! だあ~・・ だあ~・・・・・・・・
ー ちょ ちょっと親方!
ほ~ら ヘンに気張るからまた気を失っちまってる
チョット! チョット!・・・・・・ ー
ウ~ン・・・・・・・・アレッ!?
ここはどこだ? 痛たたた。
アチコチ痛い。
「クソ~ どこに逃げたんか?アイツは!
見つけてチチクリ回すぞ!!!」
・・・あれは鬼の「クちゃん」ではないか。
ここは・・・畑の中。
なんでオレは畑の中で寝てるんだろう?
ウエッ~~~~~~っ!しかもクサイ~~~~~~っ!
「どや!?おったか?」「いえいませ~ん」
ム~ そうだ。テニスボールを探して畑に来て
ちょうど良いので、サボろうとして葉っぱの影で
寝てたんだった。
「コラ~ チカラいっぺ、チチクリ回すッゾ!!!」
マ、マズイ・・・鬼の「クちゃん」に見つかったら
あんなことやこんなことなる。
当時、中学のクラブ活動は
「水は飲めない」
「途中の休憩は無い」
「暴力は当たり前」
という誠に分かりやすい図式で出来てました。
チョットでもセンパイの気に入らない事があると
「取ってこ~い!」
と、ラケットでメチャクチャなとこへ飛ばされます。
この日もこれが3度目の「取ってこ~い!」でした。
田舎の校庭は広い・・・
左は女子ソフトボール部
ここにはオレが「ハートに火をつけて」
を歌った、でおなじみの(?)あの子がいる。
しかもキャッチャー。 し、しぶい・・・
ちなみにお面かぶってるので顔は見えない・・・
そして、我がテニス部の右どなりは野球部。
ここにも猛者がいる。
NSPがデビューした1973年、当時すでに
「自己開発したキャラ」を持つ猛者が・・・
仮に「M本」と呼ぼう。
コ~ツコツコツコツ・・・・・・
な、なんだ!?この音は?
「フッフッフッ・・・怪人サルコウモリ」
・・・たぶん某変身ヒーローからの影響が大、だと
思われるその怪人を彼は自分のモノにしていた。
テニス部の暴力、いや愛のムチは、当然
野球部のそれとは比べるべくもない。
我がテニス部には武器と呼べるモノは
ラケットとテニスボール
しかないが
野球部には・・・たくさんある・・・
しかも破壊力はケタ違いだ・・・
そんな時でも「M本」は強い
「M本」は負けない、くじけない。
センパイがバットを持って追いかけてきても
彼は慌てない・・・なぜなら彼は
「サルコウモリ」だから。
急に立ち止まると
コ~ツコツコツコツ・・・・・・
と、自分で言い始める。
オオッ! とは誰も言わないが
オレだけは心の中で言ってあげた。
コレがあの「サルコウモリ」か・・・・
良いぞ「M本」 行け行け「M本」
理不尽なセンパイに見せてやれ!
コ~ツコツコ「バシッ~~~~~~~っ!!!!!」
サスガ4番をはるT田センパイのスイングは速い!
見事な「ケツバット」が炸裂した!
哀れ「M本」・・・「サルコウモリ」になる前にやられた。
だが・・・待ってやれよ! 普通、ヒーローモノは変身完了するまで
ジッと待つのが相手役の情けってモンじゃないか!
だがコチラのそんな心配をよそに
若くしてオリジナルキャラを手中にした
「M本」は強い!
「恐れ」という言葉をまるで知らない「M本」は
センパイの前でエラーをくり返し
そのたびに
コ~ツコツコツコツ・・・・・・
と、やっていた。
しかし、しかし「M本」には時代が早すぎた、
と言うべきであろう。
およそお笑いを知らないセンパイ達は
誰一人「サルコウモリ」に
ノッて来る事はなかった・・・・
コ~ツコツコツコツ・・・・・・
は夏休みのあいだ、ずっと校庭に響いていた。
そう、蝉の声とともに。
「アイツ、またやってるよ」
しかしオレは違ったぞ「M本」よ。
オレは知っている。お前が登下校の時も
いつもキャラ作りを考えていたことを。
なので「初期型タイプ」から改良を加え
最終形態の「サルコウモリ」にいたるまでの
すべてを見てきたオレは「M本」をもはや
ー 尊敬の目差し ー
で、見ていた。
しかし「M本」よ1つだけ教えてくれ!
もしも、もしも、ノリの良いセンパイがいて
「サルコウモリ」にのっかって来たら
その時、お前はどうするつもりだったんだ?
「サルコウモリ」にその後の展開はあったのか?
そもそも「サルコウモリ」に必殺技ってあったのか・・・・・?
「取ってこ~い!」
しまった~~~~~~っ!
油断したオレに鬼の「クちゃん」の
ラケットがうなる。
野球部を越えて遙か向こうの畑じゃ~
グエ~ 急がねば~~~~~~っ!
どこだどこだ? も~う
でも、いっそ探してるふりして
ここで休むか。ウネに寝そべって、っと。
ウン!? ク、クサイ~~~~~~っ!
サスガ! 自主的オーガニック先進国!
こ、こ、この肥料のニオイは~~~~~~っ!
ニオイは~~~~っ! ニオイは~っ! ニオイは~・・・・・
ンンンン~ 痛てえ~
ー も~う、また落ちてましたよ ー
イカン! す~ぐ気が遠くなりやがる・・・
ー ジジイってこってすね ー
るせ~やい。
それにしても、なんでこんなに速え~んだ!
音階はよ、わかってんだ。
マイナーペンタトニックってえヤツで
それを階段状に降りてきてるだけなんで
ゆっくりとだな、こうしっかりやりゃあ
弾けるのよ。
それがお前エ、160ってなりゃ話は別だ!
こんな早回し、出来やしねえよ!
ー なら止めときます? ー
てやんでえ~ こちとらこの1曲で
アルバム「シャツのほころび涙のかけら」
がコンプリートになるのよ。
リーチが掛かってんのよ。
止められるかってんだ!
ー ならつべこべ言わずに弾いたらどうです ー
チクショ~ やりゃあ良いんだろう やりゃ~ヨ~
アアまた指が違うとこに行きやがる!
アアまた・・・
アアまた・・・アアまた・・・アアまた・・・・・・・・
ー 親方ぁ~ 大丈夫ッスか~ 気ぃ~を確かに~? ー
るせ~やい・・・やい・・・やい・・・やい・・・zzz
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?