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小説「明けない夜はないけれど、弾けないソロはある?」

https://youtu.be/pd7lqy7FWNI

おお~う・・・・  ウン!?・・・

オレぁどうしちまったんだ?

ー さっきから気を失ってたようですよ ー

そうか、そういやあ~ 間奏のソロ、弾いてたんだった。

ー まったく近頃はどうかしてやすぜ ー

そう言うなって、なんたってこの速さだ。
こちとら、もう何日もコレばっかやってるんだぜ。
オマケに連日、この暑さだ。気も遠くなるわな。
オイっ! 冷やしたタオルをくれ。

ー ヘイ! ー

しかし、何度やっても出来ねえ。
かれこれ2週間にもなるってえのに
とっかかりさえ弾けねえってのはどういうこった・・・

まず問題はテンポが「160」もあるってことだ。
これで16分音符の連続たあ、ヘビメタ兄ちゃんならまだしも
こちとら「抒情派フォーク」ってえジャンルやってんだから
こりゃあ堪んねえよ。
しかもなんだ! このE♭mなんてKeyは? ♭が6つもありやがる。
いよいよヘビメタの半音下げチューニングじゃあねえか~!
オイっ! タオルはまだか!

ー ヘイヘイお持ちしやしたよ。
  しかしあれですな。元はと言えばこの唄も
  こんなには速くなかったようですよ ー

ウン!? そりゃあ~ いってえどういうこった?

ー なんでも、もうちょい遅く演奏したのを
  録音テープの早回し、ってヤツで急がしたんだそうで ー

ナ~ニ~ そりゃ本当か!?

ー ヘイ! 何でも平賀さんのつぶやき板に
   書いてあったとか、なかったとか ー

オイオイ、だとすると・・・ハハ~ン! 読めたぜ!
てめ~らはラクしてドンチャカやったあと、
オリャ~ッてんでツマミを回しやがったな!
おかげでテンポは速くなるわ、ピッチは高くなるわ。
オイッ! コイツは160のE♭mなんかじゃねえ!
140のDmだ!

ー ヘ~ そんなもんですか? ー

そんなモンもへったくれもねえさ。
このオレサマにゃあ~お見通しよ!

ー じゃあ日足奉行所としても140のDmっておふれを出しやすか ー

まあ待て、コイツぁ~「出来るもんならやってみねえ」って
挑戦状よ。受けて立たにゃあ男が廃るってえモンよ。

ー そ、それじゃあ・・・ ー

オウッ! 160のE♭m! ビタ一文、負けねえよ!
ただし!コッチは半音下げチューニングのEm!だあ~!


だあ~! だあ~・・  だあ~・・・・・・・・


ー ちょ ちょっと親方!
 ほ~ら ヘンに気張るからまた気を失っちまってる
 チョット! チョット!・・・・・・ ー



ウ~ン・・・・・・・・アレッ!? 
ここはどこだ? 痛たたた。
アチコチ痛い。

「クソ~ どこに逃げたんか?アイツは!
見つけてチチクリ回すぞ!!!」

・・・あれは鬼の「クちゃん」ではないか。
ここは・・・畑の中。
なんでオレは畑の中で寝てるんだろう?

ウエッ~~~~~~っ!しかもクサイ~~~~~~っ!

「どや!?おったか?」「いえいませ~ん」

ム~ そうだ。テニスボールを探して畑に来て
ちょうど良いので、サボろうとして葉っぱの影で
寝てたんだった。

「コラ~ チカラいっぺ、チチクリ回すッゾ!!!」

マ、マズイ・・・鬼の「クちゃん」に見つかったら
あんなことやこんなことなる。

当時、中学のクラブ活動は

「水は飲めない」

「途中の休憩は無い」

「暴力は当たり前」

という誠に分かりやすい図式で出来てました。

チョットでもセンパイの気に入らない事があると

「取ってこ~い!」

と、ラケットでメチャクチャなとこへ飛ばされます。

この日もこれが3度目の「取ってこ~い!」でした。


田舎の校庭は広い・・・
左は女子ソフトボール部

ここにはオレが「ハートに火をつけて」
を歌った、でおなじみの(?)あの子がいる。
しかもキャッチャー。 し、しぶい・・・
ちなみにお面かぶってるので顔は見えない・・・


そして、我がテニス部の右どなりは野球部。
ここにも猛者がいる。
NSPがデビューした1973年、当時すでに
「自己開発したキャラ」を持つ猛者が・・・

仮に「M本」と呼ぼう。

コ~ツコツコツコツ・・・・・・

な、なんだ!?この音は?

「フッフッフッ・・・怪人サルコウモリ」

・・・たぶん某変身ヒーローからの影響が大、だと
思われるその怪人を彼は自分のモノにしていた。

テニス部の暴力、いや愛のムチは、当然
野球部のそれとは比べるべくもない。

我がテニス部には武器と呼べるモノは

ラケットとテニスボール

しかないが

野球部には・・・たくさんある・・・
しかも破壊力はケタ違いだ・・・

そんな時でも「M本」は強い
「M本」は負けない、くじけない。

センパイがバットを持って追いかけてきても
彼は慌てない・・・なぜなら彼は

「サルコウモリ」だから。

急に立ち止まると

コ~ツコツコツコツ・・・・・・

と、自分で言い始める。

オオッ! とは誰も言わないが
オレだけは心の中で言ってあげた。

コレがあの「サルコウモリ」か・・・・
良いぞ「M本」 行け行け「M本」
理不尽なセンパイに見せてやれ!

コ~ツコツコ「バシッ~~~~~~~っ!!!!!」

サスガ4番をはるT田センパイのスイングは速い!
見事な「ケツバット」が炸裂した!

哀れ「M本」・・・「サルコウモリ」になる前にやられた。
だが・・・待ってやれよ! 普通、ヒーローモノは変身完了するまで
ジッと待つのが相手役の情けってモンじゃないか!

だがコチラのそんな心配をよそに
若くしてオリジナルキャラを手中にした
「M本」は強い!

「恐れ」という言葉をまるで知らない「M本」は
センパイの前でエラーをくり返し
そのたびに

コ~ツコツコツコツ・・・・・・

と、やっていた。
しかし、しかし「M本」には時代が早すぎた、
と言うべきであろう。

およそお笑いを知らないセンパイ達は
誰一人「サルコウモリ」に
ノッて来る事はなかった・・・・

コ~ツコツコツコツ・・・・・・

は夏休みのあいだ、ずっと校庭に響いていた。
そう、蝉の声とともに。


「アイツ、またやってるよ」


しかしオレは違ったぞ「M本」よ。

オレは知っている。お前が登下校の時も
いつもキャラ作りを考えていたことを。

なので「初期型タイプ」から改良を加え
最終形態の「サルコウモリ」にいたるまでの
すべてを見てきたオレは「M本」をもはや

ー 尊敬の目差し ー

で、見ていた。

しかし「M本」よ1つだけ教えてくれ!

もしも、もしも、ノリの良いセンパイがいて
「サルコウモリ」にのっかって来たら
その時、お前はどうするつもりだったんだ?

「サルコウモリ」にその後の展開はあったのか?

そもそも「サルコウモリ」に必殺技ってあったのか・・・・・?


「取ってこ~い!」

しまった~~~~~~っ!

油断したオレに鬼の「クちゃん」の
ラケットがうなる。

野球部を越えて遙か向こうの畑じゃ~
グエ~ 急がねば~~~~~~っ!

どこだどこだ? も~う

でも、いっそ探してるふりして
ここで休むか。ウネに寝そべって、っと。

ウン!? ク、クサイ~~~~~~っ!

サスガ! 自主的オーガニック先進国!
こ、こ、この肥料のニオイは~~~~~~っ!

ニオイは~~~~っ! ニオイは~っ! ニオイは~・・・・・




ンンンン~ 痛てえ~

 ー も~う、また落ちてましたよ ー

イカン! す~ぐ気が遠くなりやがる・・・

 ー ジジイってこってすね ー

るせ~やい。
それにしても、なんでこんなに速え~んだ!
音階はよ、わかってんだ。
マイナーペンタトニックってえヤツで
それを階段状に降りてきてるだけなんで
ゆっくりとだな、こうしっかりやりゃあ
弾けるのよ。

それがお前エ、160ってなりゃ話は別だ!
こんな早回し、出来やしねえよ!

 ー なら止めときます? ー

てやんでえ~ こちとらこの1曲で
アルバム「シャツのほころび涙のかけら」
がコンプリートになるのよ。
リーチが掛かってんのよ。
止められるかってんだ!

 ー ならつべこべ言わずに弾いたらどうです ー

チクショ~ やりゃあ良いんだろう やりゃ~ヨ~
アアまた指が違うとこに行きやがる!
アアまた・・・

アアまた・・・アアまた・・・アアまた・・・・・・・・

 
ー 親方ぁ~ 大丈夫ッスか~ 気ぃ~を確かに~? ー


るせ~やい・・・やい・・・やい・・・やい・・・zzz


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