メインバンク

たった今しがた隣町まで歩いて帰ってきた。

僕の家から隣町まで徒歩15分ほど。用事だけ済ませて、百瀬さつきのバイト先を覗いて働いていない事を確認するとそのまま帰ってきた。往復30分。

何の用事のために隣町まで歩いたかと言うと、
銀行からお金を下ろしてきた。10000円ほど。
僕のメインバンクである「りそな銀行」が最寄り駅に存在しないからだ。住んでいる町に自分のメインバンクの店舗がないというのは、日々の充実度を20%は失わせる。隣町まで歩かないと店舗がないのだ。生活エリアの中では新宿の劇場に向かう道中に一ヶ所だけりそなのATMが存在していてそこで用事ついでに下ろすのだが、新宿へ行く機会が数日間ない場合に非常に困る。


僕は提携銀行以外のATMなんかでお金を下ろす時に発生する手数料の110円が嫌いで、途方もなく胃がキリキリする。値段の問題ではなく、払う必要がなかったお金を払ったという悔しさ。湧き上がってくる怒り。土日の220円なんかキリキリキリキリといった具合だ。

キャッシュレスの時代なんだからお金を下ろす機会なんてそうそうないでしょ。なんて意見があるのも重に承知。ただこの時代においてもやはり現金が必要になる機会というのは度々訪れる。僕の場合なんかは風呂なしの家に住んでいて、毎日行く近くの銭湯は、昔ながらのニコニコ現金払いのみ。お風呂に入る為に現金が常に手元に必要になる。

話は戻って、今日の玄関を出るまでの腰は重かった。家の近くにコンビニはあるので110円とキリキリさえ目を瞑ればお金を下ろす事はできる。隣町まで歩く労力と110円を頭の中で天秤にかけた。いつもなら110円程度なら家から30秒のコンビニを使う方に逃げてしまう。ただ今日は本当に何もない日。仕事も用事も。これだけのがらんどうな1日なら隣町まで歩くぐらいの労力を費やしてもいいんじゃないか。でも面倒くさいなあ。こんなことを朝起きたときから考えていて気づいたら夕方になっていた。という死ぬ前に激しく後悔するであろう一日。

渋っていた僕の腰があがったのは、明日が祝日だと気づいたとき。財布の中には1000円あるから明日でもいいか。なんてことも思ったのだが明日になると0円か110円かで迷っていたのが、110円か220円の世界になってしまう。これは話が変わってくるでしょう。玄関を出た。歩いて3分ほどで薄着過ぎて寒いことに気づいたがもう引き返せなかった。


隣町まで歩いてる道中で、そもそもなぜ自分は「りそな銀行」がメインバンクなのだろうと思い返してみた。こんなことを言うのもあれだが、周りにあんまりいないぞ。店舗も少なめだし。埼玉には多いけど。遠い記憶を掘り返してみて、養成所生の時に半年ぐらいで辞めた警備員のバイトでりそな銀行に口座を作ることになって、それがズルズルと今まで続いていたことが発覚した。


東京生活で今まで住んできた町の中にりそな銀行がある町はひとつもなかった。10年近く今日のような小さな葛藤が時々あったし、その葛藤に負けて払ってきた手数料はいくらになるのだろう。引っ越しのときに家賃やら間取りやらスーパーやコンビニが近くにあるかは気にするが、メインバンクが最寄りにあるのかどうか、みんなは確認するのだろうか?


そんな事を考えて隣町のりそなに行ってお金を下ろした。ATM画面の手数料0円の表示を見て心が少し穏やかになった。しかし店を出て少し歩くと、なんだか手数料をケチるためだけに部屋着から外行きの服に着替えて、ここまで歩いてきた自分がとても虚しくなった。このまま隣町を去りたくないと思った僕は同期である百瀬さつきの働いているバイト先が近くにあったので、そこを覗いてみることにした。


同期の顔を見れて、なんなら「手数料浮かすために歩いてきたんだよ」「ケチだなあ」みたいなラリーなんかが出来たらなんだか隣町まで来た意義が生まれてくるんじゃないか。そんな思いを嘲笑うかのように彼女のバイト先は定休日だった。10メートルほど手前からでも営業中ではないとわかるほどの厚いカーテンがガラス張りの店の中を覆っていて、僕に一瞬の希望すらも与えまいとしているかのような、紛れもない定休日の様相だった。


僕はお金だけ下ろして隣町を後にする事にした。110円以上の喪失感を胸に。


キリキリキリキリ…

体の奥底からからそんな音が聞こえてきた。


なんだか僕の記事ほんとにケチ臭い話が多いんですが、手数料が好きな人間はいないと思うのでどこか共感する部分を強引に探していただけたら幸いです。


【告知】
5/2の夜か次の日ぐらいに
「家賃25000円のボロ家に住んでFINAL」
を更新させてもらうかもしれません。引っ越すとかではないです。様々な伏線が回収されます。


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