家賃25000円のボロ家に住んで~「エピソード0・前編」~
ブリキカラス小林メロディ(29歳)
家賃25000円のボロ家に2020年3月20日から住み始めた。
今回は「エピソード0」
ということで僕がボロ家を見つける前に行った不動産屋の話(前編)をしようと思う。
2020年3月半ば、僕は引っ越し先の家を探そうとしていた
思えば、自分で部屋を探すのは初めてだった。4年ほど前に方南町でハッピー遠藤と住んだときも、部屋はハッピーが探してくれた。
(これは一緒に暮らしていたとき。仲良し男子としてNEWSな2人に出演した)
不動産屋に入るのもそれ以来だ。
勝手が分からない。緊張していた。
だが緊張以上に不安が強かった。
手持ちのお金は8万も無かったからだ。
前回の引っ越しは1人15万ぐらいかかった記憶があるが、果たして僕は部屋を見つける事が出来るのだろうか?
僕が最初に入ったのは、住みたいエリアの近くにあった、外観から品の漂う不動産屋。
外に張り出してある物件情報は見やすく、ガラス張りから見える店内は白を基調とした内装でキラキラして見え、まるで僕のこれからの明るい生活を暗示しているかのように感じた。
僕は不動産屋に入り、部屋を探している旨を伝えた。
対応していただいたのは歳は僕より下だろうか、恐らく24,5歳の爽やかイケメン。白く透き通った肌で千葉雄大似の青年だった。近々引っ越す部屋を探していると伝えると、
「お客様の理想の物件探しを全力でサポートさせていただきます!!!」
熱意。若さ故の純粋無垢な真っ直ぐさ。僕はビックリマーク3つ付くような熱意を他人にぶつけたことが人生であるだろうか。
彼の周りを覆う空気が煌めいて見えた。この青年に着いていこう。この若者はきっと僕を夢のような新生活に導いてくれる筈だ。確信に近いものを感じた。
希望の条件を伝えた。
どのエリアに住みたいか、部屋の広さ、駅からの距離、彼は溢れる熱意をぶつけるかのようにメモを走らせていた。僕は気分が良くなって考えられる限りの贅沢な要望をぶつけた。
彼はきっとこの仕事が大好きなのだろう。
お客様が理想のお部屋を見つけた時の心からの笑顔。それを見たい。それだけなのだ。例えるならひとつの濁りも見当たらない透き通った清流、僕はその流れの上にプカプカと浮きながら身を任せていればいいのだ。
あぁ、なんていい気持ち…
だが、その清流はすぐに濁りを見せ始めた。
お金の話に差し掛かった辺りから彼のペンが止まり始めたのだ。
「家賃30,000…以内ですか…」
彼は飲んだ牛乳が腐っていた時の顔をしていた。
「ちょっと…条件を色々見直してみましょう」
数分後、ここまで僕が伝えた贅沢な要望は全て白紙となった。新宿から15分以内は無理。部屋も4畳が限界。風呂トイレ別などもってのほか。今思えば調子に乗りすぎていた。
続いて青年は僕に尋ねる。
「ちなみに初期費用はお幾らぐらいでお考えですか?」
「8万…ぐらいですかねえ」
本当は7万が良かった。ただ、あまりの重苦しい空気に耐えきれず姑息に1万円盛ってしまった。
「は、8万ですか!!?」
青年は飲んだ牛乳に青酸カリが盛られていた時の顔をしていた。
青年は上司に助けを求めにバックヤードような所に消えていった。
このまま帰ってしまおうか。気まずすぎる。やはりこんな星の煌めきのようなキラキラ不動産に僕のようなスペースデブリが入ってはいけなかったのだ…
そんなことを考えていたら青年が戻ってきて僕にこう告げた。
「やっぱりこの金額ではちょっと難しいんだよ。
もうちょっと待っててよ。」
タメ口になっていた。
この青年は悪くない。この若者は客にタメ口を使うような人間では決してないのだ。僕のお金の無さ、認識の甘さが彼をダークサイドに落としてしまったのだ。さながら僕はアナキンをダースベイダーにしてしまったパルパティーンか。
僕はもう下を向き、そのまま顔をあげることが出来なくなってしまった。暗黒卿を作り上げてしまった自責の念からだ。
その時、パソコンをいじっていた彼が叫んだ!
「ここだ!見つかった!!」
彼は眩しい笑顔でパソコンの画面をこちらに見せてきた。
「埼玉県寄居町」
「最寄り駅 玉淀」
僕は尋ねた。
「すいません、これは最寄り駅なんて読むんですかね?」
「たまよどですね」
たまよど
僕はその不動産を出た。
後から調べたら新宿から玉淀までは1時間50分。終電は22時10分だった。震えが止まらなかった。
快晴の筈の空はどんよりと曇って見えた。
その日は青年にタメ口を使われるシーンと玉淀がずっと頭の中をグルグルしていた。
よく考えればあまりにも上級者向け不動産すぎてこんなことになったのだろうが、当時の僕にはそれも分からなかった。
反省した僕は予めネットで調べてから二件目の不動産屋に行き、そこで今のボロ家を見つけるのだがそれはまた別な時にお話しよう。
今回もありがとうございました。
昨日下の階のおばあちゃんがドリームマッチを見ていて、お笑い好きなのかなあって思いました。
今度玄関のすべらない話のサイコロを自慢してみようと思います。
スキもサポートもしてくれてありがとうございます。僕はひとり暮らしですが、このnoteによって読者の皆様と一緒に暮らしているような、そんなとち狂った気分にも陥っています。あとおばあちゃんとも。
おかげさまでそうめん食べれます。
今後ともご愛顧よろしくお願いします。
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