家賃25000円のボロ家に住んでFINAL


ご無沙汰してます。家賃25000円のボロ家、そしておばあちゃんがTVに映りました。



3月下旬か4月上旬、その日は何もなかったのでロン毛らしく、高円寺のロータリーでボーっと座っていることにした。すると「月曜から夜ふかし」に話しかけられた。変な人を紹介する番組という偏見があったので話しかけられた事はショックだったが、取り敢えず何もなかったので取材を受けることにして、ボロ家に連れて行って家の中を紹介した。


おばあちゃんにも出てもらった。今まで僕の簡易的なイラストでしか紹介していなかったのだが、イメージ通りだっただろうか。


スタッフさんがおばあちゃんの話を聞きたいと言うので、おばあちゃんの部屋のチャイムを押して出て来てもらおうとした。おばあちゃんは出てこなかった。ドアもノックしてみた。出てこない。あれ?部屋の明かりはついてるし、窓からテレビの音は聞こえてくるのに。その時僕は思い出した。



「わたし、耳が悪いから大丈夫なのよ。全然聞こえないの。ふふふ。わたし耳が悪いからね。私も年だから耳が…」



おばあちゃんが何度も耳が悪いと言っていたのを。


おばあちゃんはチャイムを押してもあんまり聞こえないのか。これではおばあちゃんに取材が出来ない。しかしながらスタッフさんをおばあちゃんを餌に高円寺からここまで連れて来てしまったのに、おばあちゃんが出て来てくれないのは不味い。スタッフさんも取り敢えず待ってみましょう。ということで30分ほどおばあちゃんの動きを注視していた。現場に緊張感が走っていた。


日が暮れて来た。僕はおばあちゃんが日が暮れてくると、窓を開けて雨戸を閉めにくるのは知っていた。その一瞬を突いて、おばあちゃんに話しかけよう。目を瞑り、耳を澄ませた。


「キィ…ガラガラ…」


瞼の中の静寂を切り裂き、雨戸が金属のレールと擦れる音が聞こえ、僕は走った。おばあちゃんの顔が窓から見えた。「おばあちゃん!」僕が顔を見せると、おばあちゃんはびっくりして「どうしたの?」という感じできょとんとしていた。事情を説明したら玄関に出て来てくれることになった。一安心。




しかし、おばあちゃん、テレビに映るのを嫌がるんじゃないか。怖がってしまったら申し訳ないな。


そんな僕の心配は完全に杞憂で、圧倒的な受け応えでスタッフさんを笑わせていて、逆に勉強させられてしまった。放送でもマツコさんや村上さんの目を釘付けにしていて、芸人としては少し複雑な心境。今思い返すと、玄関から出てきてカメラを確認した瞬間、明らかにギアを上げていた。


おばあちゃん「あら取材?ウフフ。わたしね。こういう取材っていうの嫌いじゃないのよ。嫌いじゃないの。周りからはもうおばあちゃんなんだから大人しくしてなさいなんて言われるんだけどね。私ね」

スタッフさん「あ、はい。今日はこのおうちの事を聞きたいのですが、まず…」

おばあちゃん「わたしね、嫌いじゃないのよ。こういうの。学生時代に演劇をやっていてね」


スタッフさん「え!?演劇をやられてたんで…」


おばあちゃん「テレビの取材は嫌いじゃないのよ。わたしね。周りからはおばあちゃんなんだから…」


こっちが言葉を挟む間も無く喋りまくっていた。演劇の話がだいぶ気になったが、そのことを尋ねる隙を与えてくれないので最後まで分からず仕舞いだった。

おばあちゃんは何度かテレビの取材を受けていて、巣鴨に行った時に夜ふかしに一度映った事があるらしい。経験者だった。そして、おばあちゃんはこのボロ家の歴史を語り始めた。



46年前。おばあちゃん41歳の時にこのボロ家(まだボロではなかった)に住み始めた。

元々は大家さんが事務所にしていた一軒家をアパートとして貸し出すようにしたのが、このボロ家の始まりだった。
当時、今僕が住んでいる2階には女の子が2人住んでいたらしい。今現在は一軒家を上下で分断したような作りになっているが、当時は1階と2階が繋がっていたそうだ。トイレやキッチンなどは共同。おばあちゃんはちょっと嫌だったらしい。
それが途中で改装されて一階と二階が分断。おばあちゃんの訴えで、きちんとプライベートが保たれる現在のボロ家になった。おばあちゃんが動いてくれたお陰で僕が快適に暮らす事が出来ている。感謝だ。

どうせなら改装のついでに風呂も作って欲しかったが、おばあちゃんは風呂がないのはそんなに嫌じゃなかったらしい。

そこから2階の住人はちょこちょこと変わり、2年前から僕が住み始めたらしい。


おばあちゃんの素性もだいぶ明かしてくれた。テレビでも紹介されていたが、まず87歳だということに驚きだった。見た目の若々しさから70代前半ぐらいかなと思っていた。
50歳を超えてから転職をし、つい最近まで働いていたようだ。恐ろしい体力。おばあちゃんもこの事は誇らしく思っているらしく何度もこの話をしていた。
ちなみにおばあちゃんの孫は僕と同い年らしい。



「彼が住んでくれて、だいぶ安心してるのよ。私に何かあっても彼がいるからね」



おばあちゃんは僕の存在を心強く思ってくれているみたいだった。得体の知れないロン毛が上に住み始めたのをきな臭く思って、家族や近所のおばあちゃんに相談したりしていないかと心配だったが、喜んでくれているようで嬉しかった。はじめて胸の内を聞かせてくれて、少し感極まってしまった。


「彼のことね、孫みたいに思っているのよ。住んでくれて良かったわ」


畳み掛けるようにそんなことを言われて少し泣きそうになった。東京のおばあちゃん。
ボロ家が繋げた稀有な繋がり。





ちなみについ最近、近所の人からおばあちゃんは僕が芸人だということを聞いたらしい。「ライブも見に行くわよ」なんてことを言ってくれた。耳が悪いのでいつもより声を張り上げてネタをしないといけないな。




これからも仲良く2人で暮らしていきます。

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