#11 小説「今夜、すべてのバーで」感想


アルコール中毒の中年男性・小島容(こじまいるる)が入院生活を送る中でアル中とそれによる生死について向き合う物語である。ジャンルは「ヒューマン」。要素に「酒」。著者は中島らも。1994年に講談社より刊行。
とても読みやすくおもしろい。中島らもの体験に基づいているそう。プロットもおもしろいが、コミカルな表現も本書の魅力だと思う。お気に入りはP33,l3~5である。淡々とした語りから繰り出される強烈なたとえ表現に声を出して笑ってしまった。

本作には主要な登場人物が4人いる。主人公・小島。主治医・赤河。同病室アル中・福来。友人の妹兼仕事仲間・天童寺さやか。小島とその他3人の絡み合いを中心に物語は進行する。

小島と赤河について。赤河は小島に対して嫌悪の感情がある。小島に対する接し方も刺々しい。物語終盤で2人は大きく衝突している。不穏な空気が漂い始めるのがP275,l3「あんた、自分が人とちがってる、と思ってるだろ」と赤河が小島に問う場面からである。これは小島にとっては耳の痛い一言だったに違いない。P49,l14から分かる。結局、2人は口論になる。ここで小島の断酒に対する煮え切らない態度が赤河の逆鱗に触れたのだろう。綾瀬少年の件につながっていくのである。

小島と福来について。福来はアル中に対して開き直った存在として描かれている。小島は限りなく福来に近いキャラクターだ。酒にのまれてしまった場合の小島が福来なのだろう。

小島と天童寺さやかについて。小島と天童寺不二雄はアル中友人だった。しかし、不二雄は交通事故で亡くなってしまう。さやかは妹だった。天童寺家はかなり複雑な家庭環境であることが終盤で判明する。そんなさやかは死に対して敏感である。小島が軽々しく死に向き合っている様子が不愉快であり悲しいのだろう。現代的にいうとツンデレみたいな態度をとっている。口調は小島を見放している風だが、彼女は心配しているのである。兄のような人をもう見たくないから。

【総評】
本書は中島らもの死生観が窺える。結論はない。ただ、おそらく自分の体験の中で、真剣にアルコール中毒に対して向き合ったのだろう。読みやすい作品だが、扱っているテーマは難しく読み応えがある。

【満足度】
90点

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