丸山健二『夏の流れ』の評価

三島由紀夫
「当選作として推したわけではないが、この授賞に積極的に反対ではなかった。男性的ないい文章であり、いい作品である。」「人物のデッサンもたしかなら、妻の無感動もいいし、ラストの感懐もさりげなく出ている。」「しかし二十三歳という作者の年齢を考えると、あんまり落着きすぎ、節度がありすぎ、若々しい過剰なイヤらしいものが少なすぎるのが気にならぬではない。そして一面、悪い意味の「してやったり」という若気も出ている。」

瀧井孝作
「日常生活の何気ない中に不気味なものを蔵したこの作は、以前の、庄野潤三の「静物」という小説の方法にも似通うかと見えた。」「何気ない題もよい。生命の流れの意味もあるようだ。」

井上晴
「一種爽快さの感じられる書き方である。作者が最年少であるにも拘らず、候補作の中では、この作品に一番腕の確かなものを感じた。」「このような題材は、本当はもっと他の取り扱い方をすべきものではなかったという、そういう思いが、読み終ったあとに残った。」

石川達三
私は「夏の流れ」を採らない。この作者にも期待をもっていない。」

丹羽文雄
無し。

石川淳
「作者は二十三歳だそうだが、この作品のかぎりでは冒険的な青春は感じられない。書くことは一応よく書けている。」「ただ冒険の無いところにわたしは賭けることができない。」

永井龍男
「最後の一票を入れた。題材に圧されることなく、一貫した呼吸づかいで、むしろ鈍重な筆致で書き上げた点がよかったし、作者の若さにも期待が向いた。」

大岡昇平
「死刑執行担当者の心理の洞察においても文章においても、自己統制が出来ている。」「芥川賞は本来若者のものなのだから、授賞は当然といえよう。」「看守の日常生活が、あまりしゃれているので、少し違和感を覚えたが、これは私が古い先入観に捉われているからであった。」

川端康成
「決定して、作者の丸山氏が二十三歳の若さと知ったのには、明るい楽しさであった。」「殊に看守の家庭生活などは、監房の死刑囚や死刑執行の場に対して、わざと平凡に常識風に書いてあるかと思われるが、今後の作品で平凡は抜けられるだろうか。」

中村光夫
「意外に早く(引用者中略)決定しました。」「どぎつい題材を扱いながら、それにもかかわらず、軽く仕上げたところが作者の人柄を感じさせますが、看守の家庭の描写に生活の匂いが欠けていて、全体が絵にかいたようなきれいごとに終っています。」「処女作にこれだけのものが書ける若い才能は、多少冒険でも買ってよいでしょう。」

舟橋聖一
「作者はまだ若い人だし、看守の経験があるわけでもなく、小説の構成に聞き書きのような点もあるので、若干の疑問を感じたが、他の諸作品に比べて、はるかに迫力があった。私がこれを推した理由である。」「看守の私生活、家庭生活の描写が長々しくて、少し退屈した。私小説のほうを半分ぐらいにして、この非人間的な死刑執行に対する作者の批判を加味したら、もっとまとまった好短篇となったろう。」


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