掌の力を弄ぶ「夕焼け晩町」

人から置いて行かれた僕は自分の中の弱さという弱さを

ダンボールの中に押し込める様にして

猫と一緒に川に流した

押し込んでも押し込んでも頭を出してくる猫3匹、それが

弱さは隠せないと云っている気がして ついムキになって押さえつけたら

猫は ぐっと云って大人しくなった それを川に流した

少し戸惑っている僕の中から流れがダンボールをさらっていった

僕はもう戻れない 僕は最低だ

橋の向こうで声が聞こえる 「桃太郎が3匹」

捨てる神あれば拾う神ありだ 奴らは運がいい

生きるということを幸と取ればの話だが

もう奴らが命を落とそうと僕が責任を感じることはない

もし死んでしまったなら苦しくも無駄な時間を無理やり針を手で動かして

生き延ばした彼らのほうがずっと罪深い そんな事を考えながら

3匹が誰かに拾われたことにどこかほっとした


帰り道また妙なものに出会った

「お母さんがね、助けてあげなさいって云うの」

背後から僕の右肩に顎をのせて 薄気味悪い女がケタケタと笑った

まったく何だって云うんだ ひとつ他命との間を断てばまた次だ

どうして放って置いてはくれないんだ

煙たそうにギロリと振り向く僕に

歯のない口を剥き出しにしてさらに顔を擦りつけてきた

僕はたじろぎはしないがもううんざりだ

「あなた、悩んでますでしょう」

街なかの占い師みたいな事を云う

「私の両親に打ち明けなさい、さぁ」

ぐいっと2つの人形を押しつけてきた

僕はぐっと押し返し その場を去った

「罰を受けなさい」

そう云って女は人形の頭にかじりついていた

そうして愛おしそうに髪を撫でていた


公園では8人の幼子が滑り台を逆さに登っていた

フェンス越しに長い髪の毛を垂らしている16人がそれを監視していた

外の者は進入禁止で 中の者は外出禁止

無いものをお互いに羨みあう御遊戯なのだそう

馬鹿馬鹿しくて吐き気がする


隣の家の者は除毛剤をつけて頭皮を刺激し、育毛クリームで髭を剃る

鏡の前に座って後頭部に紅を引き、顔面をドライヤーで整える

老婆に乳を与え、我が子に熱湯を掛けながら罵る

全てがあべこべで全てが正しい そんな気すらしてくる


僕は、やっとのことで家に着いた

無駄に足を止められたせいで3分52秒も狂ってしまった

僕は地球の自転についていけているだろうか

水槽の金魚の横に浮かぶ我が主にストローで息を与え

今日の日程はほどよく終了を迎えた

明日することはもう決まっている

先刻、また3匹の猫が届いたのだから

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