Mei.K
禍話リライト こっくり譚「辻占いの子」
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禍話リライト こっくり譚「辻占いの子」

Mei.K

── コックリさんに『死に方』を聞いてはいけない。


◇◇◇
 

『コックリさん』は、所謂、降霊遊びの一つだ。

大きい白い紙の上部真ん中に鳥居と、はい/いいえを書いて、その下に五十音を書く。十円玉を鳥居に置いて、その場にいる全員の人差し指を十円玉に乗せて、唱える。
「コックリさん、コックリさん、いらっしゃいましたら『はい』の方へ」
誰も動かしていないはずの十円玉が、スゥーーッと『はい』へと動く。

昭和のその頃は、世間のオカルトブームも手伝って、コックリさんが流行っており、みんな結構当たり前にやっていた。
地方によってルールは厳密に違うそうだが、多分一番オーソドックスなものをやっていた、と思う。
力が入ってないのに、スゥーーッと紙の上をなめらかに動く感覚が不思議で面白くて、クラスメイト数人と放課後しょっちゅうやっていた。
学校によっては禁止なところもあるらしいが、特にそういった制限もなかったし、いくつかある遊びの1つくらいだった。

「でも、それがいけなかったんだと、思うんですよね」



 

ある日の放課後、いつものように教室でコックリさんを始めた。
そして何きっかけだったか、みんな『どうやって死ぬのか』を面白半分で聞いてしまったのだ。
本当に、バカだったと思う。

その時のコックリさんは、恐ろしく丁寧に、一人一人の死に様を教えてくれた。

一人は【長期間で高熱が出てうなされ、薬も効かず、苦しみながら死ぬ】
一人は【内臓のいくつかが腐り落ち、その痛みに苦しみ悶えながら死ぬ】
一人は【水に落ちて息ができず、首の周りを掻き毟りながら苦しみ死ぬ】

他にも色々な凄まじい死に様を伝えられ、その時のメンバー全員の気持ちの落ち込み様はすごかった。
あまりにも凄惨な言葉が続くので、恐ろしくなって帰ってもらったが、後から回避方法を聞けばよかった、と思うも後の祭り。
しばらくメンバー全員で、教室で項垂れていた。

どうしようもないが、どうしたらいいのか。

そこに、自分たちの異様な雰囲気が気になったのか、隣のクラスの女の子が声をかけてくれた。
コックリさんに酷い死に方をすると言われたことを伝えると、その子は少し考えてから、

「『辻占い』で回避方法を見つけるのはどう?」

『辻占い』というのは、『辻占(つじうら)』とも呼ばれる古くからある占いの一つで、辻、つまり十字路などの交差点で人々の雑踏に耳を澄ませると、悩み事への解決方法が聞こえてくる、というものだ。

彼女は多少の霊感があり、オカルトにも詳しいらしく、学校近くの神社の、すぐそこにある交差点が方角的にもよいそうで、そこでならちゃんとした解決策を聴けるのではないか、ということだった。
正直『辻占い』もよく知らないし分からなかったが、別に幽霊に取り憑かれたわけじゃないからお祓いをするのも違う。

オカルトに対してオカルトをぶつけるような解決策だが、それ以外に思いつかないので、彼女の提案に乗ることにした。

コックリさんで使った紙や十円玉を処分した後、コックリさんをしたメンバー全員、霊感少女に連れられて、神社近くの交差点に向かった。



 

そこは、まったく人通りのない、寂しい交差点だった。
近くには大きな神社が確かにあった。
しかし、車も人もたいして通らないこんなところで、果たして何か解決策を得られるのだろうか。
暫く待っていたら、犬の散歩をしているおじいちゃんが通っただけで、おじいちゃんが「キョンちゃん、キョンちゃん」と犬の名前を呼ぶくらいしか聴けない。

「……本当にここで大丈夫なの?」
「まぁ、もう少し待ってて」

不安になって霊感少女に聞いてみたが、彼女は空を見ている。

「もう少し日が暮れて『逢う魔が時』になったら、真価を発揮するから」

仕方なく、その他のメンバーと顔を見合わせて、待つことにした。
水色の空が白んで、だんだんオレンジ色に染まっていく。
神社の鳥居が夕陽に照らされて少しだけ赤さを増した後、辺りがゆっくり暗くなり始めた。

その時になって、あれ?と気付いたことがある。

「あれ? 〇〇ちゃんは?」

一人いない。

メンバー全員が、あれ? あれ? とお互いの顔を見合わせ、それから周囲を見回す。
コックリさんをやったメンバー全員で来たと思っていたし、学校を出る時は確かに一番後ろにいたはずの子が、いなかった。
ただその〇〇ちゃんは、コックリさんに【穏やかに眠るように死んで、家族に発見される】と、一人だけこれといって凄惨な死に方ではない、と告げられた子だった。

一人だけそんな怖くもない死に方だったし、飽きて帰ってしまったのかな?
それとも、時間がかかりそうだから近くのスーパーで、オヤツとか買いにいったのだろうか。
そんなことを思っていると、

「あ、だれか来た」

メンバーの一人が、正面の道の奥の方を指差した。
制服姿の女の子がこちらに向かって歩いてくる。

いなくなったと思った、〇〇ちゃんだった。

わざわざ正面からくるなんて、遠回りでもしないと無理だ。
それに、おーい!と手を振っても、こちらに振り返してこない。
とはいえ、なにかおかしい。
辺りが暗くなってきているので顔はハッキリ分からないが、同じ学校の制服で髪型も同じだから、〇〇ちゃんには違いないだろう。
でも、なにかこちらにアクションをする様子は見られない。
それに、

── なんで、冬服着てるんだろう。

つい先日衣替えがあったばかりで、全員夏服になったところだ。
コックリさんをしていた時、〇〇ちゃんは同じく夏服だった。
わざわざ自宅に帰って冬服に着替え、道を大きく回り込んで正面からやって来る、なんて、

── おかしい。

違和感しかない。
でも、だんだん近づいてきて見えた顔は〇〇ちゃんに違いない。
背中にじっとり汗が滲んだ。そうだけど、違う。
彼女をメンバー全員で凝視していた。その時、霊感少女が声を上げた

「……あっ」

彼女が〇〇ちゃんの足下を指差した。
靴じゃない。スリッパだ。学校で履く、指定の。

おかしい。
おかしい。

全員、恐れと気味の悪さで固まって、スリッパのまま歩いてくる友人のはずの何かから、視線を外せなかった。

〇〇ちゃんの格好のソレは、自分たちから10メートルほど離れた位置でピタリと立ち止まった。
そして ── 、

「あれは、全部ウソだ」

薄闇の中で、酷く低い、少し嗄れた声で口を聞いた。
金縛りにでもあったみたいに動けず、私たちは彼女の言葉を聞いていた。

「アタシが一番、酷い死に方をするんだ」

そう言うと、フッと近くの電信柱の影に入って見えなくなった。
ハッと気付いて、慌てて彼女の後を追ったが、どこにもいない。
消えた先の道へも行ったけれど、そこは袋小路で、だれもいなかった。

「……なんだったの?」

〇〇ちゃんは、どこに行ったのだ。
一通り周辺を探してみたが、それでも見つからない。
途方に暮れていると、霊感少女が青い顔でブルブルと震えていることに気付いた。

「……どうしよう。どうしよう」

ぶつぶつと震える口の隙間から声を漏らす彼女の肩を揺すり、〇〇ちゃんがどこにも居ないことを告げた。
すると霊感少女は眉をひそめて、

「これは辻占だから。だから、現実になるんだ」

そういうと、また「どうしよう、こんなことって……」とぶつぶつ呟きながら、青白い顔でふらふらと帰ってしまった。
仕方なく私たちも暗くなってきた道を、腑に落ちない気持ちで帰ることにした。



 

帰宅してから私は、ただ悶々と考えていた。

彼女の言うとおり、私たちは辻占いをやっていた。
そして得られた答えが、あれなのだ。

── 〇〇ちゃんに電話したほうがいいだろうか。

当時は携帯電話もなく、家の電話に掛けるしかないのだが、あのスリッパで来た〇〇ちゃんは途中で消えてしまったのだ。
もしアレが偽物だったとしても、辻にいた時に居なくなっていたし、気になってしまう。
ちょうど明日が休みだったので、無事かどうか確認したいなら、電話したほうがいいかもしれない。

そんなことを考えていたら、電話が鳴った。
もしかして、と思ったが、〇〇ちゃんからではなく、あの霊感少女からだった。

〈さっきは、取り乱しちゃって、ごめんなさい〉
「ううん、いいよいいよ。変なこと起きちゃったんだし」
〈……そう、そうね〉
「それで、なんか気になるから、電話とか、したほうがいいかなって」

話しながら時計をチラッと見て、あぁ結構もう遅い時間なんだな、と思ってしまって。

「まぁでも、こんな時間だし、今日は色々あったから、明日、電話しようと思ってるんだけど」
〈あ、そうだね。……明日。うん、明日、電話したほうがいいよ〉

そんな会話をした、翌日。
〇〇ちゃんの家に電話を掛けた。

コール音が長くて、あれ、みんな出掛けてるのかな?と思っていたが、ようやくお母さんが出た。
その声は、泣きはらしたような涙声で。

〈朝、起こしに行ったら ──〉

〇〇ちゃんは、死んでいたそうだ。



 

死因は心臓発作かなにか、ということらしい。
若者でも起きうることで、心臓が止まり、息が止まり、酷く苦しんだようで、胸や首を掻き毟りながら亡くなったらしい、と聞かされた。

── コックリさん、当たらなかったな。

でも、その代わり ──。

放心状態で、お葬式に参列した。
クラスメイトのお葬式なんて、実感が湧かない。

お焼香を終えて、会場の片隅でボーッと立っていると、トントンと肩を叩かれた。
辻占いをしよう、と言ってくれた、霊感少女だった。
違うクラスだったけど、お葬式に参加してくれたらしい。

「……あの日、やっぱりその日のうちに電話すべきだったな。最後に話せたのに」

コックリさんをした後、あまり会話もせずに、不思議な現象に遭遇して、それっきりだったのだ。
何か、できたことがあったかもしれないのに。
しかし、霊感少女は首を横に振って。

「……あの日、私があなたに電話したのは、あなたがその日のうちに電話しないよう、止めるためだったの」
「えっ」

「あの日のうちに電話してたら、あなたにも影響が及んで『持っていかれる』かもって思って」



 

〇〇ちゃんのお葬式が終わって落ち着いてから、彼女は死ぬ前日に『変な遊びをしていた』という噂が立った。
結局それは『コックリさん』だったと言われるようになり、以後、その学校ではコックリさんが禁止になった。

騒ぎになるといけないので、大々的には言われていないが、平成に入る頃までは、その学校の生徒手帳にひっそりと『コックリさん禁止』というような一文が書かれていたらしい。
一番最後では目立ってしまうので、後半のほうにひっそりと、けれど確実に記されていたそうだ。



 

「でも結局、コックリさんが良くなかったのか、辻占いが良くなかったのかは、分からないんですよね」


◇◇◇
 

**本稿は、著作権フリーの青空怪談ツイキャス『禍話』で紹介された話を元に再編集したものです**

出典:元祖!禍話 第二夜(途中、Q12を見てます) 43:00頃から

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創造と想像をくりかえす、黒いヒツジ。