恋が教えてくれること
恋の効果はなんですか?ともし人に尋ねられたら、私はなんと答えるのか。
ここ数日の考え事はそればかりだった。
その人にとても会いたくなることだろうか?
普段はあまり聴かないラブソングにとんでもなく共感してしまうことだろうか?
可愛くなりたいと思うようになることか?
どれも事実だけれどしっくりこないな、と思いつつ、なぜだろう?と考える。
少しでも会いたいと思うのに。
普段は聴かないバンドを聴くようになるのに。
可愛いと思うものに対する財布の紐はゆるむのに。
恋の効果だと思うものを全部ノートに書き出して、しばらく眺めてみる。
わからない。全て事実なのに、自分の中の感覚が一致しない。
この問いを投げかけてもらったのが、幸いにして遠距離恋愛中の彼とのデートの数日前だった。
だから、私はデートをしながら考えることにした。
この人といるようになった私にとって、あるいは過去の恋をしていた私にとって、
恋が効果を発揮したのはいつで、その効果は一体どんなものなのだろう?
3日間のデートはとても楽しかった。
美味しいものをたくさん食べたり、ゲームセンターに行ってみたり、ショッピングしたり、
今流行りのアラジンも観た。
どの日も、ごく普通のありふれたデートだったけれど、遠距離恋愛をしている私達にとってはとても大切な時間だった。
印象に残っていることがある。
ショッピングモールの中で1日目の夕食を済ませて、ゲームセンターに寄ったときのことだ。
一人の時はあまり寄ったりしないのだが、前回のデートの時もUFOキャッチャーをしてみたりプリクラを撮ってみたりして楽しかったので、また行ってみよう、ということになった。
プリクラは、前回挑戦したときに散々な出来だったので今回は無しにして、UFOキャッチャーの景品を見て回ることにした。
お菓子やぬいぐるみが景品のUFOキャッチャーがたくさん並んでいる中で、初心者向けの光のルーレット式のものがあった。
初心者向けだったため、回る速度も目で見えるくらいの速さだったけれど、毎回もう少し!ってところでとれなくて、惜しい!もう1回!と二人で合わせて5回くらいやったところで、底なし沼のようにハマりそうだから、とやめた。(今考えると充分やったと思うけれど(笑))
その後も見て回っていると、気になるものを見つけた。エアーホッケーだ。
小さい頃に何度かやった記憶がある。
なんとなく、楽しそうだなと思って「やってみたい!」と言ってみると、「えっ(笑)」と驚いた声を出したが、一緒にやってみることにした。
後から聞いた事だが、どうやら、私が車椅子にのっているため、座ったままで台まで手が届くかどうか心配だったらしい。
このゲームをやったことがある私にとっては、そんなこと気にもとめていなかった。
そう考えていたのか!と、とても不思議な感覚だった。
どうやらこのホッケー台には二つのモードがあるらしい。ノーマルモードとビッグバンモード。戸惑っているうちに、ビッグバンモードが自動で選択されてしまった。
このビッグバンモード、最初のうちは普通のホッケーなのだが、しばらく経つとメインのパックより2まわりほど小さいパックがいくつか自動で投入される!しかも2、3回ほど!
もう訳もわからず、笑いながらとりあえず目の前に来たパックを打ち続ける。入っているかいないかはもうわからない。
終わってみれば彼の圧勝だったとはいえ、車椅子で横付けする、という普通に考えればとてもやりにくい体勢の私でも500点くらいは取れている、という不思議な結果だった。
ちなみにその後ノーマルモードでも対戦してみたものの、私が点を取ったのは彼のオウンゴールの1回のみだったので、このビッグバンモードは相当に混乱するものなのだと思う。終わった後はちょっと疲れたけれど、とても楽しかった。
この時、ふと気づいたことがある。
二人で体験や考え方を共有できることは、一人で体験したり、考えたり、行動したりするよりも、とても楽しいということだ。
そんなの当たり前だろう、と言う人もいるだろう。
でも私にとってそれは、これまで、決して当たり前ではなかったのだ。もし、今まで付き合ってきた人達に、今回彼に言ったように同じゲームをやりたい、と言ったか、と聞かれたら、答えはノーだ。
理由は色々あって、お互いに障害を持っていて難しいかな、と、思っても言わないことを選択したり、そもそも相手がやりたくないことは徹底的にやらないタイプだったので、やりたいと言ってもムダだとおもっていたりしたからだ。
だけど今の彼は、私が「これをやってみたい!」と言えば、否定せずに「良いやん!楽しそう!」と答えてくれる。だから私はやりたい、と言えた。デートの行程のひとつだったアラジンも観たい、と伝えられたように思う。
もぐら会への参加を相談したときも、すごく背中を押してもらった。
そして、私も彼のやりたいことは応援したいと思っている。
ここまで考えて、ハッとした。これだ!と思う。
恋をすると人は変わるのだ。考え方が変化する、という方が正しいだろうか。
やりたいと思っても言わずにいた私が、安心してやりたいことを伝えられるようになったように、お互い一緒に過ごしていく中で、二人がどういう風にするのが好きなのか、
二人でどう過ごしていけたら心地いいと思うのか、何を基準にして生活をするのか、
その時に応じて、その人と一緒にいるために考え方をアップデートしていく。
片思いなら一人で、付き合っているなら二人で。
そして、その変化は良いものであっても、たとえ悪いものであっても、自分自身のものになっていく。
例えば、私がもしエアーホッケーをやりたい、と言わない選択をしていたら、彼は私がエアーホッケーをできる、という事実を知らなかったかもしれない。
私もきっと、アーケードゲームは負けてもあんなに笑いあえるということを知らなかった。
私自身も、一人でいることを楽しむことはとても好きだけれど、一人でできないことや、行けないところもたくさんある。
もしこんな風に、二人でできることを考えていかなければ、彼がハード面でも身体面でも心配をして(実際体調のことはよく心配しているし、その都度話し合っている)、できることが少なくなるかもしれないし、私も、遠慮をしてできること、やりたいことを言うことができないかもしれない。
二人でコミュニケーションをとることで、お互い少しでも楽しく快適にいられるように工夫していける。そうやって新しい自分を、自分ではない誰かと一緒に見つけていけること、考え方を変化させていけることが恋の効果で、新しい自分を恋が教えてくれるような気がした。
また次に二人で会った時、どんなことがあるのかとてもわくわくする。
会える回数が少ないのは少し寂しいけれど、こういう楽しみがあるのなら、遠距離恋愛も楽しくなるかもしれない。
寂しい気持ちが強くなりがちな私が、少しずつでもこういう風に考えていられるようになったのも、きっと変化の表れなのだろう。
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