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④デートの誘い

ウチダクミとの出会いはコンビニから始まった。

そして電車待ちの間に一瞬でウチダクミを好きになった。


翌日、俺はいつも通り出社前にコンビニへ行くとウチダクミはレジにいた。

髪を後頭部でひとつに結び、垂らした長い髪束がキラキラと揺れるのを見て心臓がドクンと鳴った。

俺はアイスコーヒーとサンドイッチを手に取り、レジに向かうとウチダクミは俺を見て『おはようございます』と言いセブンスターをカウンターの上に置いた。

ウチダクミの指は細長く爪先は健康的なピンク色で、有害なタバコの箱を持つことすら神秘的に見えた。

『いつもお仕事お疲れ様です。今日も会えたらいいですね。』

ウチダクミは俺に顔を近づけると小声でつぶやいた。店内には他に客がいないのに、俺にしか聞こえない声で囁いたウチダクミは俺を思考停止させた。


俺は出社してからも何をして良いのか分からず、レシートの5文字をただ眺めていた。

ウチダクミ

ああ、俺はこの女が好きなんだ。

早く会いたい。ウチダクミに会いたい。

もしかしたらウチダクミは俺が好きなのかもしれない。会えたらいいですねって嫌いな男には言わねーだろ?

仕事が終わり、夕方になると俺は会社のトイレに行き、歯磨きをして髪形を直した。汗をかいて脂っぽくなった前髪が額に垂れて急に歳を感じ、おっさんが何してんだよと自己嫌悪に陥るのをぐっと堪えた。

早足で駅に向かい、ベンチに座っていると女子大生の集団が通り過ぎた。みな早口で声が高く、俺なんて存在しないかのように大声で笑い、その下品な光景を見てなぜか自信がなくなった。

そのとき、薄い水色のTシャツを着た若い女が駅の階段をゆっくりと降りてホームに現れた。

ウチダクミだった。

仕事が終わったウチダクミは髪をほどき、若さと妖艶さを振りまくように堂々と歩いていた。

俺は気付かないフリをして近くに来たら声をかけよう、と思って目を逸らそうとした瞬間にウチダクミは俺に気付き、歩くのを止めた。

そして小さく手を振ると少し早足で俺のいるベンチへ向かってきた。

俺は急いでカバンに忍ばせたエビアンを口に含み、口臭を消した。

『お疲れ様です。また会えましたね。』

ウチダクミは俺の目の前に立ち、嬉しそうな声を出した。

その瞬間、若い女特有の匂いがあたりに立ち込めて俺は眩暈(めまい)を起こしそうになった。


そこからどういう話の展開なのか未だに分からないが、ウチダクミと俺はお互いが休みの日曜日に食事することになった。

これは今考えるとウチダクミの作戦通りだったんだろうなと思う。巧みに俺の会話を操って俺の口から自分をデートに誘わせる言葉を引き出したんだろう。

ただ、あいつは俺から全てを奪うために近づいたのは間違いなかった。地位も未来も、拳銃も。




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