⑤警察喰いとの出会い
『警察喰いに気を付けろよ。』
あの日、交番で報告書を書きながら上司は笑って言った。
なあ、クミ。俺はお前を警察喰いなんて思っていなかったよ。なんでお前みたいな悪魔と出会ってしまったのか。今となっては後悔するしかないけどさ。
警察喰いとの出会い
『どこでウチダと出会ったんだ?』
40代の刑事はパソコンキーを叩きながら呆れたように言った。
そういえばどこで出会ったのか?
考えてみればウチダクミと出会ったのはどこだったんだろう?コンビニか?いや、仕事帰りの駅か?
少し沈黙した瞬間、刑事は目の前にあった太い紙ファイルを机に叩きつけた。
『なに言い訳を考えてんだお前?ムカつく目をしやがって。おい。いま嘘を考えてたんだろう?』
いや、ウチダクミと出会った日が今でも偶然なのか分からなくて、それで考えていました。
『偶然?お前も本当にアホだな。利用されたに決まってるだろうが。警察喰いだったんだよ。お前は警察喰いに利用されたんだよ。』
刑事は腕を組み、半笑いしながら言った。
警察喰い?クミが?そんなことあるんでしょうか?
『何がクミだこのアホが。おい。この紙に僕はクズですと書け。最低のクズ人間ですと書け。』
刑事は人格が入れ替わったように早口で怒鳴ると、俺の目の前にA4の紙とボールペンを置いた。
僕はクズですと書くんですか?最低のクズ人間と書くんですか?どちらでしょうか?
俺は理解できなかったので真剣に質問したつもりだったが、それが余計に刑事の気持ちを刺激したのか刑事はいきなり甲高いアニメ声を出して
『僕は最低のクズ人間ですって書いてね。分かる?お願い。』と言って今にも殴りかかりそうに拳をギューっと握りしめた。
俺は言われるがまま刑事の差し出した紙に『僕は最低のクズ人間です』と書くと、刑事はその紙を音を立ててグシャグシャと潰し丸めて『美味そうだろ?喰えよ。これを喰え。』と俺の口に押し込んできた。
『お前は警察組織を裏切った最低のクズ人間だ。喰え。ちゃんと味わえ。』
とっさの事で俺は何が起きているのか理解もできず、口に放り込まれたコピー用紙が唾液で柔らかくなる感触と紙の無機質な味を感じていた。
取調室には外から春の日差しが優しく差し込み、警察学校で見た景色を思い出した。
『制服よく似合うよ。』
ウチダクミは長い髪を耳にかけながらとても嬉しそうに笑った。
あの瞬間の笑顔は忘れないだろう。
なあ、クミ。俺はお前を警察喰いなんて思っていなかったよ。なんでお前みたいな悪魔と出会ってしまったのか。今となっては後悔するしかないけどさ。
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